第14話 俺はめっちゃくちゃボコられた

一部の生徒は片付けなどで残っているが、ほとんどの生徒は会場を後にした。


「じゃあ、そろそろ行くか!」

「そうですね」



俺は、会場の奥にあり、木で覆われており、人気ないところに案内された。


そこには、誰もいなかった。


「で、その女の人とはどこにいるのですか?」

「マジか!? お前ほんとウブだな! いるわけねーよ!! 今からお前はボコされるんだよ! あの時、逃げておくべきだったな!!!」


そういうと、鬼頭は、木の後ろに隠れていた、取り巻きたちを呼んだ。


5人くらいがのそのそと出てきて、『お前みたいな陰キャを好きな女いるわけねーだろ!!』と笑いながら、俺を囲い始めた。



予想通りで特に何の問題もない。


せっかくの機会だ。2つの目的を達成するか。


そのためには、とりあえず、煽っておこう。

ただ、恐怖はないのに人が多いと、話すときに声が震えてしまうのは、本当にどうにかならないのかな……俺……。


「あの……なんで俺、目の敵にされているのですか?」

「あ? テメーみたいな奴がムカつくからに決まっているだろう?」

「頑張って走っただけなんですけど……」

「テメーのせいで、俺のやりたいことが台無しなんだよ! それに、パッとしないくせに、陽菜の野郎と仲良くしやがってムカつくんだよ!!」


とりあえず、鬼頭が怒っているということは、一位を取れなかったが、走った目的を達成できたと言うことか。


「早乙女さんの彼氏さんだったのですか。すみません。編入してきたばかりでそこら辺のことがよくわからなくて…」

「ああ? テメー舐めてんのか?」

「いや。下の名前で呼ばれているので、てっきり彼氏さんかと……」

「まあ、そうか。 知ってて言っていたなら、今頃殺していた頃だ」

「よくわかりませんが、早乙女さんは特にクラスメイトなだけで、何もありませんよ……」

「うぜーな! とにかく、俺の女がショックを受けてんだ! 早乙女に恥かかせたかったのに、誰もそんなことを覚えてねーからな」


「も、もしかして……わざとコケさせたのですか?」

「そうさ!! 誰も気がついていねーがな!」

「そういうの良くないと思いますよ……」

「真面目ちゃんかよ! オメー俺のことわかってんのか?」


「空手全国2位、元暴走族のリーダー 喧嘩無敗ということは知っています……」


「おお! 知っているじゃねーか! さすが真面目ちゃん! お前には敵わねーんだよ?」


さて、そろそろ時間か。


「でも…負けているじゃないですか。2位ってことは、本当に喧嘩無敗なんですか?」


『おい、テメー鬼頭さんになんて口の聞き方だ!』と取り巻きが、俺に殴りかかりそうになった。

それを鬼頭が睨みつけ、制止した。


「おいおい。 てめー面白いな。まあ、イキがっているのも今のうちだが、一つ教えてやる」

「それは、ありがたいです」

「確かに、俺は無敗ではない。ただ、俺を倒したのは一人だけだ。

一条 実いちじょう みのる】という男だ。

一条財閥の御曹司だ。あれだけは別だ。

次元が違う。完璧人間だ。

オメーみたいな真面目ちゃんより遥かに頭も良く、空手でも、喧嘩でも、何をしても叶わなかった。

俺が相手にならなかった。俺が赤子同然だぜ? 世の中には、ああいう奴がいるんだよ。

ただ、お前は天才ではない。いいか?」


「はい。 わかりました ふふっ」

俺は演技をするつもりが、結構本気で笑ってしまった。


「何笑っているんだ?」

「いや……そんなすごいお方が、早乙女さんに振られたからって、悔しくて、未練たらたらで、早乙女さんに関わる男子をボコしていたとは……」


「あ? お前、まさか知って……」


俺は鬼頭を遮り、続けた。


「それに、告白しようとしてたら、邪魔されたからって、ボコすのは違うと思いますけど?」

「やっぱりテメー、知っててさっき煽ったな?」

「さあ。どうでしょう」

「ぶち殺す!」

「ちょっと、待ってください。よく考えてください」

「は?」

「あなたはさっき逃げとけばいいって言いましたよね? 俺の方が足が速いのだからこの状況でも逃げられますよ?」

「マジかよ!!! ブハハハハハハハハッ! おもしれ〜! まじで人と接してこなかったタイプかよ!!」


「理論上何も間違っていないと思いますが……」


「ハハハハ!  あ〜腹いて。 これ以上笑わすな!! キッツ。 こんなに笑ったのいつぶりだ?

お前ボコされたことないだろう? やれお前ら!」


俺は取り巻きのうちの二人がに後ろから近づき、『バーカ!!』と言いながら、俺の腕を押さえつけた。


「そんなに強い人が人の手を借りないといけないとは……」


「煽る作戦か? なんとでも言え! テメーはさっきから舐めた発言ばっかしてタダで帰れると思うなよ?」



ここまでは計画通りだ。


まずは、自分の病気の進捗状況を測りたかった。


正直、俺にとって鬼頭は何も怖くなかった。


ただ、5人くらいで囲まれるとなぜか、視線が怖くて、頭は動くものの、頭の指令が、体に伝わらず、さっきから力を入れようと思っても、全く入らない。


この得体の知れない何かが、俺の中にいることがものすごく怖い。


残念なことに、編入しても、この得体のしれない何かがなくなることはなかったみたいだ。

この得体の知れないものを外すには、やはり怒りしかないこともわかった。


ただ、この状況でさえ、俺は、リレーの時みたいな怒りを感じることができなかった。


反撃できないようなので、もう一つの目標も達成できそうだ。


それはボコられることだ。


鬼頭を煽るに煽り、怒りのメーターを上げておく。


鬼頭自身、表だって俺をボコすことはできない。

姉の方に未練があるみたいになるからだ。


ただ、中途半端に逃げたりしたら、どこかで変な嫌がらせを受ける。

ここは完全にスッキリしてもらいたい。


そうすることで、もう絡まれなくなるだろう。


鬼頭は自分の実力に自信を持っている。

暴力により、俺にトラウマを植え付け、俺がもう二度と舐めた口を聞かなくなると思っていることだろう。



さて、ボコられる時間だ。


まずは、鬼頭は、取り巻きに抑えられて動けない俺の腹に一発、お得意の正拳突きを入れてきた。


それなりの衝撃ではあった。

ただ、気を失うほどではないな。


それが、2発、3発と増えていった。




それからはダルくていちいち覚えてない。

どれくらいだろうか。


おそらく10分間くらいだろうか?

もしかしたらそれ以上か。


おさえつけられながら、俺はひたすら殴られ、蹴られ続けた。


途中、取り巻きも、一人ずつ俺を殴ったり蹴ったりもしてきた。


口の中が血の味でいっぱいだ。

流石に、ノーガードでもらうと頭がクラクラする。


殴られ続けられながら、俺は、打ち上げのみんなが楽しくしているかが気になっていた。

姉の方とか、絶対人気すぎて、席の取り合いになるだろうとか考えていた。


こんなことよりは楽しかったかな。

行けばよかったな……


なかなか終わりそうにないで困っていたところ、「気を失わなかったのは褒めてやるよ! 今度調子に乗っていたら、もっとエスカレートするから覚えとけ!」


『何だあのザマ!』『ダッセーな!』と取り巻きたちも楽しそうにしている。


やっと鬼頭が満足してくれたようだ。


満足した鬼頭たちは立ち去っていた。

随分とイクのが遅かった。


早漏の方が女子に好かれるとネットに書いてあった理由が少しわかった気がする。


とりあえず、いなくのったのを確認し、俺はゆっくりと伸びをした。


まだ全身に痛みが残っている。

一方的であったため、アザが至る所にできている。

結構、口の中は血だらけだな。


まあ、慣れていたので、特になんとも思わないが。


それにしても、鬼頭の実力は大体わかった。


確かに、あれではそうなるよな。



一条 実の足元にも及ばないな。


さて、帰るか。



バス停まで来ると、打ち上げに行ったはずの姉の方がいた。

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