第13.5話 俺は一体何をしていた?
ああ……。追いつけなかった……
リスクがあるってわかっていた。
鬼頭に調子乗らせないために走ったのに、結局1位でゴールさせてしまった。
早乙女さん……ごめん。
馬込くんもごめん。
勝手に走って、勝手に負けてしまった。
分不相応なことをしてしまった。
バトンミスさえなければ勝てた…
いや。それも言い訳だ。
でも……バトンパスであそこまで拒絶されることあるか?
要するに俺の近くにいたくなかったってことだよな。
一応、競技じゃん。
キモっみたいな感じで押されたんだけど……
どーせ、好きな人から受け取りたかったんだろ?
ああ。だんだんと冷静さが戻っていく。
なんでこんな選択をしてしまったんだ。
勝てれば満足して終わったのに……
恥ずかしい。 人の目線が怖い
なんで、俺こんな人に囲まれるところにいるんだろう。
昔はトラック走ったら気持ちいいだろうなとか思っていたけど、結局夢中でよくわからなかったな。
でもな、あの時はどうしても、走らなければならないくらいイライラしてたんだよな。
スピード的には自己ベストと遜色ないからいいけど……
とりあえず帰ろう。
赤組の応援席に戻った俺は、まず応援席の後ろの席に戻っていた馬込くんに謝罪した。
「あ、あの……ごめん」
「え? 何が!?」
馬込くんが少し興奮気味に返事をした。
やっぱり怒ってるのか…
「せっかく、色々楽しみたいことあったはずなのに、クラスのために、俺を走らせる選択してくれたのに、こんな結果になってしまって…」
「え。ちょ、待って。本気で言っている?」
この程度の謝罪では許されないということか。
土下座した方がいいのかな?
「本気で悪いと思っているんですけど……」
「何でだよーーー!! す、凄すぎるよ? 赤組のみんなも大興奮だよ!」
え? そういうものなのか?
馬込くんはそこまで妹の方は好きじゃないのか?
妹がストーカーしてるだけなのか?
妹の方なんて俺を突き飛ばしたんだぞ?
「いや、俺のせいで、負けちゃったし…」
「そんなものどうだって良いじゃん!」
須子や高安も『速かったな!』と言ってくれた。
『お疲れ〜』と見たことない女子にも声をかけられた。
とりあえず、会釈をしておいた。
そっか。
同じ赤組だから気を遣われているのか。
ただ、そうでもなさそうだった。
赤組の応援団に青組以外の2組もなぜか来て、『月城どこ?』とか『よ!今度、俺と走ろうぜ!』
と声をかけてくる。
知らない人との会話は苦手だ。とりあえず、会釈で逃れるしかなかった。
心からやめて欲しい。照れているのではない。
今回はたまたま、うまくいっただけで、本当はみんなの前で走ることはできない。
期待に応えなければと余計に辛くなる。
褒められる方がけなされるより辛い。
今まで褒められたことはないけどさ。
自分で選んでやったことだ。我慢するしかないが。
『あの場面で自分自身を制御できたか?』というと、できなかったというのが正解であろう。
鬼頭を勝たせないという目標は失敗したが、結果的には鬼頭を調子に乗らせないということには成功したのか。
それならば良かった…としておこう。
まあ、自己満だからな。
姉の方はなんとも思っていないだろうがな。
そう思っていると、姉と完全に目が合った。
話さないわけにいかないので、声をかけてみることにした。
「足、大丈夫?」
「ん〜〜。大丈夫だよ〜!」
「てか、できたじゃん!超速いよ… 」
「たまたま…」
「別に病気のこと疑ってないよ。少しづつ克服していけばいいじゃん! 後で走った理由教えてね?」
「…え。 機会があったらね…」
いやいや。言えねー。
仇とりたかったとかキモがられる。
第一、早乙女さんからしたら『何怒ってんの?』って話じゃんかよ……
あとで理由考えとこ。
それに、これは克服ではない。
ただ、怒りに任せて、自分でもよくわからないことをしただけである。
通常の俺で、人前で、恐れずに一般人のような振る舞いをすること。
それが俺の目標だ。
あと、女子に下ネタを言うこと。
それも、俺の目標だ。
まだまだ遠そうだ。
でも、ありがとう。
姉の方のおかげで、リレーを走るという体験はできた。
妹の方とは、目があったが、話すことはしなかった。
向こうは、カップルのバトンパスというイベントを邪魔された上に、負けるという結果を出され、さぞ俺に殺意を抱いている頃だろう。
それに俺自身、『あいつが転けなければうまくいったのに』とか思っている嫌な自分がいるのも理由だ。
閉会式までは、3年生の演技を見た。
みんなでダンスを踊るという変な種目が必須であった。
3年生になりたくないと心から思った。
無事、閉会式も終わり、帰ろうとしたところ、
「え? 今から赤組の打ち上げだよ?」と馬込くんが不思議な様子で話しかけてきた。
「え? みんな行くものなの?」
「もちろん任意参加だけど、月城くんは主役みたいなもんだからてっきり参加するのかと思ってさ!」
人生で初めて、なぜか、俺は、打ち上げに呼ばれた。
正直、打ち上げというものには興味がある。
今まで、参加したことがないからな。
と、いうか誘われた試しがないからな。
ただ、2クラスの大勢が集まるところで何するかは知らない。
飯を食べがら合コンみたいに女子と話せって言われたら死ぬぞ。
隣のクラスの男子とも話せないんだから。
もし、カラオケだったら即死だ。
それに、よくやらせられるという、一発ギャグなんてものは持ってないぞ。
あ。 もしかして、打ち上げと称して、みんなの前でリレーのことで公開羞恥プレイでもするつもりなのか?。
馬込くんはすごく根に持つタイプで、『見た? リレーで俺の女に吹き飛ばされるところ!』とか言うタイプなのかもしれない。
よし。行きたいが、お断りしよう。
3人で帰ろうと思っていたら、須子と高安は参加するらしい。
陰キャではあるが、別に害はないので、参加する上で、特に問題はないという感じなのかな。
「せっかく、ありがたいんだけど、ちょっと今日は……」
「そっか。 疲れてるもんね! 今度一緒にトレーニングでもしよう!」
「俺なんかとしても……ま、その時はよろしく……」
無事に断れたと思ったら、姉の方が、「え〜行こうよ〜! きっと、楽しいよ! 私が席近くにいてあげるからさ!」と周りに聞こえないくらいの声の大きさで誘ってきた。
確かに、姉の方がいたら、うまく会話を誘導してくれそうではあるが……
やはり、人気の姉の方の近くにいたら、周りも陽キャだろうからやめておこう。
「いや。流石にきついので、今回はパスするよ」
「そっか……」
「おお! いたいた! おめえすげーよ! 感動した! これからよろしくな!」とわざわざ赤組の席に鬼頭が来て俺に握手を求めてきた。
完全に目が笑っていない。
「そんなことはないですよ……負けてしまいましたし」
「そんなことねーって! マジ感動したんだ!! お前に女子のファンがいるんだ! 今から来てくれないか?」
はいはい。確定。
わかったよ。仕方ないな。
「そうですか……どこに行けばいいでしょうか?」
「まあ、そう緊張するなって! いい女だからよ! ただ、ちょっと他の生徒が帰るまで待っててくれよ! 恥ずかしがりやだから!」
「わかりました」
俺たちは、生徒がいなくなるのを待った。
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