第12話 姉に手を出したら許さねえ

体育祭は昼休みになった。


とりあえず、応援席で、いつもの3人で飯を食った。

特に日常と変わらない会話しかしない。


「それにしても、棒倒しは危険だったな。大丈夫か?」

「俺は大丈夫さ」

「てかよ、月城……鬼頭にやられていなかったか?」

「軽くだから問題ないぞ」

「僕はもうキトウいじりはやめておくよ…」

「その方がいいな」

「あ、そうそう! 聞いてくれよ!」

「さっき3年の黄色組の応援団の先輩。サラシを巻いてたけど、あれ絶対ポロリしてたよ!!」

「そんなわけはないだろう」


すごく見たいがここは冷静を保っておかないと。

周りで聞いている人もいるだろう。

ラインで詳しく聞くか。


早乙女姉妹はというと、姉妹は仲良く弁当を食べている。

そういえば、二人で食っているとこ初めて見た。


妹の弁当の量が多いのが気になるところではあるが。

男の倍は食っている気がするぞ。

あんなに食う奴だったのか。


まあ、今後関わるのは姉の方だけだからもう妹に注目するのはやめておこう。

少し寂しい気持ちもあるな。

妹があの様子だと、姉にも彼氏がいる確率は高いだろう。 


ただ、この1年間はクラスメイトとして仲良くできたらなと思う。


そう思いながら、観察していると、「お菓子持ってきたよ〜」と姉が周りの女子に配りはじめた。


男子も、もらえないかと、犬のようにうろうろし始めた。


姉の方は、聖母のように、他クラスも含め、一人一人に配っていく。


妹の方はこういう時でも、男子と話したりはしない。

ただ、黙々と食べている。


だから、俺の恥ずかしい勘違いも、仕方がないのかもしれないな。


「3人ともお菓子食べる〜?」と俺らのグループにも持ってきてくれた。


「やったぜ!! いただきます!!!」

須子は動じないでもらった。


「…ども…」

高安ももらった。

まあ、この流れでは断りにくいしな。


「はい!」

姉の方は俺に袋を差し出した。


まあ、配っているお菓子をもらうイベントはしてみたかった。

少しづつ、やれなかったことを潰せているのは良い傾向だ。


「あ、ありがとう」

俺は手を突っ込んだ。

ん? あれ…


「…ない…ね…」

「え!? マジか〜 ごめんね〜 今新しいの開けるよ!」

「いいって! そこまでお菓子いらなかったし」


「そうなの? せっかく、月城くんにあげようと思って開けたのに… じゃあ、また今度ね!」

小声でぼっそと呟いた。


「では、次の機会を楽しみにしております」


勘違いさせてくるな、ほんと。

妹の件がなければ、騙されていたことだろう。

結局、お菓子をもらえるイベントには失敗した。

めっちゃ食べたかった。


昼休みの時間も終わり他学年の種目を見る。

みんな楽しそうに種目をしている。


俺だって病気の治し方がわかっていれば、今頃は……

成長しない自分。


少し変わったと思っていた

しかし、棒倒しの時にわかったが、何も変わっていなかった。

調子に乗っていた自分にヘドが出るぜ。


とりあえず種目を見ると、自分への嫌気で死にたくなるのでトイレに逃げるか。


トイレでは、青いハチマキをつけた奴が、

『鬼頭って、このリレーで1位とって、佐藤に告るらしいよ』

『まあ、佐藤も気ある感じだしなーーーー』

と言っているのが聞こえた。


え。

リレーで一位取るとボーナスみたいに付き合えるのか?

恋というのは単純なのか?


俺が世間を知らないのか…

体育祭とは、ノリでできているようなものだったのか。

知らなかった。


てか、佐藤ってどんな奴なのだろう。

女子のことなら須子に聞けばわかりそうだな。


ということで、応援席に戻り。須子聞いてみた。

「ねえ、佐藤ってどんな人?」

「結構いるぞ? 男子は知らないがな」

「それもそうだな。 鬼頭が好きになりそうな奴」

「ああ! 多分6組の佐藤か! あいつはね、陸上部だった気がするよ。髪は短くしててね、結構日焼けしている感じかな〜」

「さすが須子だな。ありがとう」

「おいおい、やめておけ…殺されるぞ…」

「何を勘違いしている。どんなやつか気になっただけさ」

「それならいいが、佐藤さんはスポティーな体で、胸は小さいがそれはそれはそそりますからの〜。まあ僕は、大きいのが好みだけどね!」

「おうおう」


やっぱり須子は須子か。

本当はもっと話してもいいが、いくら周りが、他学年の種目に夢中と言っても、この会話は自重しておかないとな。



いよいよ、選抜リレーの時間だ。


第一走者は、姉の方であった。

さっきの棒倒しでは負けてしまったから、是非とも、赤組には優勝目指して頑張ってもらいたい。


姉も妹も。髪をポニーテールにしている。


あれ? 青組の走者…よく見ると【佐藤】って書いてあるな。

しかも日焼け度合いが、周りの女子とは違う。


あと、小さいし。

それに、須子が後ろふりむいて、俺に合図しているから間違いないであろう。


アイツか!

おお! 面白い対決だ。


佐藤って人はどういう気持ちなのか。


目の前に今から恋人になるやつが、好きなやつ? 好きだったやつ? がいるんだぞ。


鬼頭はまだ姉の方が好きなのか?

それとも、自分が手に入れられなかったものを手に入れようとしているのがムカついてボコしているのか?

人の心は難しいな。


みたところ、佐藤は、姉の方と座りながら、待機する場所で、仲良く談笑している。

とりあえず、修羅場にはならない感じでよかった。


もうすぐリレーが始まるというところで、一瞬だが、俺には佐藤が姉の方の靴に触れたような気がした。


なんか細工でもしたのかな?


よく見ると、姉の方の靴紐が解けているではないか。


あれ? 佐藤がやったのか?

さっきまで結んであったんだ。

その可能性は高いぞ。



姉の方がそのままスタート位置に着いてしまった。

もしかして、気がついていないのか?

やばいぞ?

どうする?

でも、大声出しても聞こえないし…


そもそも、俺がここで大きな声出して『早乙女さーん!』とかいう勇気もないし…

頑張っていったとしても、『注目して早乙女さんのこと見てたの?』ってキモがられるし…


ジェスチャーでもやってみるか?

第一、応援席なんて見ないだろう…

俺には何もできないし。


女の方も、鬼頭に告られたいから、1位通過を狙っているのか。

そのために、運動神経の良い姉の方を潰したいに決まっている。


早乙女さんよ。

遅くてもいいから、怪我しないように走ってくれ。

撮影楽しみにしていたろ。

俺にはそう祈るしかできなかった。


『パーン』という銃声の音ともに、

各組の第一走者4人が、一斉にスタートした瞬間、佐藤と姉の方が接触し両者転倒した。


応援席からも、『ああ…』というテンションの下がる声が聞こえた。


違う。違うぞ。


みんな見ていなかったのか?


佐藤は、姉の方の解けている靴紐をわざと踏んでこけさせて、自分も流れに身を任せてこけただけだ。


被害者は姉の方だけだぞ……


やはり俺がみた通りだった。


佐藤はすぐに起き上がり、走りだした。


一方の姉の方は、スタートで思いっりスピードを出したため、転けた衝撃が大きく、足から血が出ている。


痛いであろうに…

それでも、姉の方は一生懸命、赤組のために走ろうとする。


しかし、靴紐を結ぶ時間がなかったため思いっきり走ることができない。


ベストを出せなくて可哀想に。


遅らせるための妨害としてはやりすぎだろ?


いや? もしかして…


俺は姉の方を応援しながら、佐藤を観察した。


走り終わった佐藤は鬼頭と二人でハイタッチをしている。


誰も、リレーに夢中で走り終わった人に注目していないから、二人のことには気がついていない。



やっぱりそういうことか。

鬼頭の命令通りってことか。


鬼頭は、姉の方を転けさせ怪我をさせて、振った仕返しになる。


佐藤の方は姉の方のことが、当然嫌いだから、姉に醜態を晒させることができる。


ウィンウィンというわけだな。


最終的にはリレーで、勝ったノリとやらで告白。

一躍話題の人ってところか。


そんなことのために?

アホか。

ふざけるなよ? カスが。



告白しようと、妊娠させようと個人の自由だ。

バカップルで勝手にすればいい。


俺は知っている。体が辛いにも関わらず一生懸命頑張っている姿を。


たかが、自分が振られたからって。

何がしたいんだ?


たかが、高校生の恋愛だぞ?


あーーー。イライラが止まらなくなってきた。


自分でも、こういう時はマズイ行動をしてしまうから

とにかく落ち着かなければならないことはわかっている。


落ち着け。一旦落ち着け。


今から俺がやろうとしていることは、ただの自己満でしかない。

それに、大きなリスクもある。

せっかく楽しくなってきた学校生活を壊すのか?

わかっている。わかっている。

でも……


俺は、この怒りが抑えられなくなってきた。

火にガソリンが常に加えられ、怒りの炎がどんどん大きくなる。


鬼頭の態度、顔、声すべてが嫌になってくる。

やめてくれ…

ああ。やっぱ…だめだ。抑えられない。


テメーらのくだらないごっこは終わりだクソ野郎。


俺のことをバカにしなかった人をお前らはバカにした。

待ってな。計画台無しにしてやるよ雑魚が。


俺は、気がついたら、席を離れていた。

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