第11話 殴られたのは、姉のせいでした。

俺の代わりに怪我をした馬込くんに肩を貸して、一緒に応援席まで戻った。


「ありがとう、月城くん」


「こちらこそ、ごめん……」



妹の方が、一瞬、俺の方を見たが、目線を逸らし、馬込くんの心配をしている様子だった。


本当にごめんね。好きな人を傷つけてしまって…

俺だって、守ってもらいたくはなかったよ?


てか、なんで、わざわざ『彼氏じゃない』とか言ったんだろう。

心配しているそぶりからすればどう見ても好きなのは確定じゃん。


今回は俺のせいでこうなってしまったので、何も言えないが。


姉の方も馬込くんを心配している様子だが、なぜかこの状況で俺の方を心配してくれた。


「ねえ! 大丈夫!?」

「いや……俺は、当たってないよ?」

「そんなのわかっているよ! じゃなくて…殴られていなかった?」

見られていたのか。


「よく見ていたね…なぜかめっちゃ嫌われてた。きっと編入生キラーだな。多分…」

「冗談言っている場合じゃないでしょ? 全国2位の空手のパンチもらったんだよ? しかも思いっきり!」

「緊張しすぎてよくわからなかったな」

「強がらなくていいから」

「ちょっと、触らして?」


姉の方は、俺の脇腹をツンツンした。

ちょっと、くすぐったかった。

自分の手で触るのとは異なる感触であった。



「すご…硬い…。じゃなくて…本当に平気なの?」

「うん。特には…」

「無理しないでね。てか、ごめん…」


「なんで?」

触られるのは全然ご褒美ですけど?


「……多分、わたしのせいで巻き込んじゃった……」

「どういうこと?」

「ちょっとだけ周りの人から離れていい?」

「うん」


俺らは、少し移動した。


「あの、鬼頭っていう男、前に告白断ったんだけど、ちょっと暴力的ていうか…

あくまで噂だったから今まで気にしなかったんだけど、私と関わる男子に喧嘩売っているって」


「あ、そうだったんだ。ん? でも、そうしたら、クラスメイト全員ダメじゃね?」


「今日、一緒にいるとこ見られたんだと思う。鬼頭には結構仲間が多いから。バスの中にいたのかも…」


もしかして、鬼頭を利用して、姉の方が、俺を間接的にボコすために近づいてきたのか…、なんて思ったが、流石に、俺を心配する本気の顔を見ると、そんなことも考えていられなくなる。


なるほど。だから、『調子乗っている』って鬼頭が言っていたのか。スッキリした。


心配かけたくはないが、慰めるようなかっこいいことを、俺は言ったことがない。


「いや。うん。編入生キラーなんだよ。絶対そうだよ」

「ごめんね……」

「いや、大丈夫だって! とりあえず今は、馬込くんの心配の方が先だ」

「それもあったね」

俺らは応援席の方に戻った。


「月城くん! 良かったよ無事で! ところで相談なのだが、リレーのアンカー走ってくれないか?」

「あ、いや……」


『別に走ればいいじゃん』『お前のせいで怪我したんだから走れ』みたいな周りの目線が怖い。

2組でも人気のある馬込くん。


見たことのないクラスの男女からの冷たい目線が本当にきつい。


「別に無理強いはしない。ただ、僕は月城くんは運動神経がいいと思うんだ。一緒に計測したでしょ? だから、良ければっと思って…」

「え、え…」


『当然断らないだろ?』みたいな空気感が怖い。


別に走りたいよ? 俺だって。

俺は、今までリレーなんてしたことがないんだぞ。


緊張して、体が硬直して、醜態を晒して、しかも周りはそれをウケ狙いのつまらないボケだと思うだろ?


こっちは真剣に望んでもそうなるんだよ。

どう言ったら理解してもらえるだろう。


「わたしは、無理にやらせるのは良くないと思う……」

姉の方の発言で場の空気を変えてくれた。


『早乙女さんがいうなら』というように、他クラスも含め、男女ともに、嫌な視線を俺に向けなくなった。


姉の方は、緊張のことを内心バカにしているのかなと疑っていたが、本当に言葉通り信じて助けてくれた。

まずは、このネガティブ思考を変えないとな。


「ごめん。実は、俺も足首の調子が良くなくて……」

「そういえば、それが理由だったね。ごめん。せっかくその才能をと思ったから」

「本当にごめん。助けてくれたのに力になれなくて…」

「全然! それに悪いのは鬼頭くんだよ。ルール守らないし。とにかく、無事で良かったよ」

「馬込くんが無事じゃないじゃないか……」


正直、妹の方が惚れるのは、仕方ないなと思った。

馬込くんの発言には、ネガティブ思考の俺でさえポジティブにしてしまう力みたいなのが感じられる。


須子ではないが、馬込くんなら抱けそうだ。


「少し冷やせば、走れると思うよ! あくまでリレーだから、みんなの力だしね!」

「全力で応援するよ」


馬込くんの足首兼リレー問題は一旦解決した。


「さっきは、助けてくれてありがとう…」

俺は、姉の方に御礼をした。


「痛い思いさせちゃったし、言われるとウザいかもだけど、なんとなく辛い気持ちわかるから」

「ウザイと思ってないよ。こんな俺のことわざわざ理解してくれてありがたすぎるって」

「何それ〜。卑屈すぎ!!」

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