第10話 須子のせいで殴られたんだが

とうとう、俺の番。棒倒しの時間。


棒倒しでは、男子は上半身裸にならないといけない慣習があるらしいのでダルい。


応援席で服を脱がないといけない。


女子も上半身裸でやれよ。 

まあ、女子は棒倒しはやらないんだけども。


脱ぐと、姉の方と目が合ってしまった。


「やっぱり筋肉あるじゃん!!!」

姉の方が視姦並みに俺の体を見てくる。


「いや。そんなことないって」


確かに、それなりには筋肉はある方か。

暇だったし、昔の教育方針もあったし。


妹の方はこっちを見てこない。

ずっと下向いている。

見たくないんだろう。ごめんね。すぐ消えるよ。




俺は、須子と高安と3人で集合場所まで向かった。


須子は結構細く、高安は普通だった。


「さっき、早乙女さんも言ってたけど、意外と筋肉あるよな〜 興奮してきたな〜」

須子が、俺の体を舐め回すように見てくる。


「頼むからやめてくれ」

「最近、穴があればなんでもいいんじゃないかなって」

「一回病院行こうね」

「肛門科にしてくれ」

「末期だな」

「てか、女子が上半身裸で棒倒ししたらエロすぎじゃね」

「そ、そうだな……」


あれ。俺…さっき…。須子と長くいすぎたか?


「てか、女子が『棒』倒しってもう響きでだけでイけそうだよ!!」

「わかったって」

「だってよ〜、女子が突っ立ている棒を倒すんだぜ? どんなテクか楽しみじゃんかよ〜」

「ハイハイ」


呆れている風を装っているが、俺は結構須子が好きだ。

俺らの会話を聞きながら無口な高安も結構好きだ。


集合場所では、馬込くんが赤組の2年生を仕切っていいた。

今日の目標は、俺はただ、やっている雰囲気を出す。


役割は、自分の陣営の守りだ。


気をつけるべきは、2年6組で 青組の 鬼頭きとうという男らしい。


190センチという大柄で運動神経抜群。

空手全国2位という実績。

噂では関東で有名な暴走族の元総長。

喧嘩無敗とも言われているらしい。


まあ、そういうタイプは陽キャだから、陰キャと関わってはこないであろう。

でも、一応、注意しておこう。


「おいおい聞いたか。キトウだってよ! やっぱさ、あーいう強いのはモテるだろーよ。てっことはよ、6組の女子はみんなキトウ好きってことだよな?」

「全国の鬼頭さんに謝れ」



そんなくだらないことを言っているとすぐに棒倒しが始まった。


みんな始まりと同時に『おお〜〜〜!!』と元気よく声を出す。


俺は大きい声は出せないがそれなりに声を出してみた。


棒倒しは実際にやってみると、観客からは注目はされないが、人が多いため、雰囲気で酔いそうである。

それに、興奮した男が走ってくるのは気持ち悪いものだ。



みんな棒に向かって全力疾走してくる。


俺は、走ってくる男子をさばくふりをしつつ、やっているふりを出した。


今年は行事に参加するという目標は達成できた。


来年はもう少し頑張ろう。


満足していると、なぜか俺の周りに人が増えてきた。



なんか6組男子に俺が狙い撃ちにされてる?

なんで? 


あれ。目の前にいるやつデカくね?


こいつが鬼頭というやつだ!


いや、なんで俺!? 

マークする人間違えているよって教えてあげたい気分だ。


「お前が編入生か。随分調子に乗っているな」


こ、これが編入生キラーというやつか!?


いや、聞いたことないぞ。


第一、あなたとは初対面。

それに俺は、結構おとなしいぞ?


え。もしかして……さっきの『キトウ』いじり聞こえていた?

結構、距離あるから、よほど耳が良くないと聞こえないと思うけどな……


唇の動きでわかるやつか!?


とにかく、言ったのは、今後ろで『ちんこ触るぞー!ゴラーーー!!』て騒いでいる須子だから。

そっちに言ってくれ。


流石に、体育祭で暴力はないだろうと思ったが、いきなり、俺は鬼頭に左ボディーを思いっきり殴られた。


かなりの威力であった。


「おお! すげえ! 本気で殴ったのに倒れない!!」

いやいや感心するな。そして、いきなり殴るな。


「おいおい! そこストップ!」

馬込くんが気がついて必死に叫んでいる。


それはそうだ。暴力行為は禁止だったろ。

それに、俺は須子ではないぞ。


「気をつけて! 月城くん!」


馬込くんが叫んだ。 何かと思ったら、後ろから、棒が倒れてきた。

鬼頭とその取り巻きに夢中で気が付かなかった。


このままだと、下敷きだな。

まあ、死にはしないからいいか。

俺は動くの諦めた。


というか、6組の奴らに囲まれたせいで、視線が怖く、体が動かない。


どうせ少し痛いくらいだろうと思って、棒が当たるのを待っていたら、後ろから思いっきり押され飛ばされた。


誰が俺を押したのかと見ると、馬込くんが押したようだ。


俺になんか恨みでもあったのかと思ったら、俺を庇ってくれたのである……

『いてて……』

馬込くんが棒の下敷きになった上、走ってきた時、足を挫いてしまった。


「ごめん……、ありがとう……馬込くん大丈夫?」

なんで、俺なんかを…

だから、嫌いなんだよ。

頼むから嫌な奴であってくれよ。俺が惨めではないか。


俺は君をディスる権利すらないのか?




赤組の棒倒しは、敗北に終わった。

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