第8話 姉と二人
体育祭は校庭で開催が難しいので、近くの陸上競技場を貸しきって行われる。
会場は、俺の家からは、ちょうどバスで一本だったので、俺はバスで行くことにした。
今日は、電車組の高安と須子とは別行動である。
俺が乗った時のバスは空いていたので、後ろの人のこなさそうのところに座った。
競技場に近づくにつれ、同じジャージを着た人でいっぱいになってきた。
そこに、一際目立った女生徒が乗ってきた。
姉の方だ!!
そういえば姉の方から、昨日、『どのバスのる?』ってきて、教えたところ『一緒!!』とか来てたし、そんなに驚くことではないか。
ただ一人なのは、珍しいな。
登下校の時は、結構、双子で行動していることが多かったのに…
喧嘩でもしたのかな。
それはさておき、美人度合いは、さすがとしか言いようがない。
体育祭で、加工アプリより化粧で加工しているモブどもがモブにすらなれない。
姉の方は俺を見つけ、手を振ってきた。
頼むから姉妹揃って手を振るのはやめてくれ。
俺に振っていなかった場合、心の底から死にたくなるやつだからだ。
周りを確認し俺しかいないので、やはり俺に手を振ったのであろうか。
でも、もしバスに乗った時の独特のルーティンの可能性も…
とにかく、知らないふりをしよう。
姉は俺に近づいてくると、「おはよ! ねえ、手振ってよ〜 隣いい?」
本当はめちゃくちゃ嫌だった。
もちろん、隣にいるのは嬉しいことだ。
ただ、バスの中という小さな空間
それも、学校1の美女であり、オーラからして目立つ。
他の人から注目されてしまう。
他の人にヒソヒソ声で、こっちを見ながら、馬鹿にされるのは嫌なのである。
姉の方は、単にクラスメイトを見つけただけで、特に何も意識していないのだろうがな。
ただ俺は周りの奴らに、調子乗っていると思われるのが嫌なのだ。
「うん。別に俺はいいけど…」
断れるはずもなく、姉の方は隣に座った。
ああ…いい匂い。
日焼け止めの匂いと独特のいい匂いがミックスされアロマのようだ。
いや…この感じ……
もしかして、媚薬でも体に塗っているのではないか?
そうでなければ、ナゼ俺は、匂いだけでこんなにも興奮しているのだ。
とりあえず、何も話さないのは気持ち悪いので、俺から話題を振ってみることにした。
「今日は一人…なの?」
「そうなの! 深月ちゃんは、今日は別の人と来るみたいだよ。あとでわかるよ!」
「そうなんだ…」
あ、もしかして、あれか。
バカップルが一緒に登校するやつか?
浮かれてた。
少し筆談したからたって。そうだよな。
『彼氏いないよ!』が嘘の可能性もあるし。あれから何週間も経っているんだもんな。
ただ、男子とあまり話さない妹の方が、平気で彼氏を作っていたことにショックを受けた。
何より、自分だけが仲の良い数少ない男子と勘違いしていた恥ずかしさが一番辛い。
平気でキスしてくる女だ。
いや、でも…女子の可能性も大いにある。
そう信じよう。
じゃないと、恥ずかしくて死にそうだしな。
「そういえば、なんでリレー出なかったの?」
「あんまり走りたくなくて…」
「ああ! 気だるい感じ? あるあるだね〜」
違うのだが、どうせ信じてもらえないから黙っておくか。
「そんなもんかな…」
「でも、意外だよね。運動神経良かったんだね!」
「そんなでもないよ。ただ、足が少し速いだけだよ?」
「ええ。そうかな〜? だって、ハンドボール50メートルくらい投げてなかった?」
いつもの姉の方のいじりだな。
笑っていた女子の中に姉の方もいたのか……
まあ、流石に6メートルだと、イジリたいよな。
「誰と勘違いしているの…ろ、6メートルだよ…」
「え? だって、落ちてたボールをさ、先生のところまでスーッと飛ばしてたじゃん!!」
そっちか。見てたのか。
あの時、誰もいないと思ったのに…
「見てたのか…。あれは…たまたまだよ」
「たまたまで成績は下がるけど、伸びはしないよ!てか、なんで6メートルなのよ。やっぱ、気だるい感じ?」
早乙女さんには悪意がないのはわかる。
冗談まじりにいってくれている。
ただ、俺は中学生みたいな気だるい感じではやっていない。
どちらかというと、気持ちだけは優等生以上の真剣さで授業にのぞんだんだ。
どうせ、信じてくれないのはわかっている。
ただ、ナゼか真実を伝えたかった。
「あのさ…変なこと言っていい?」
「ん? いいよ?」
周りには聞こえない声量で話した。
「俺、人前だと力が出せないんだよね。人の目線が怖くて…」
ずっと他の人に言わないと思っていたのに…
弱点を人に教えてはいけない。そう教わってきた。
でも、人に言うと少しスッキリもした。
「そっか…ごめんね……」
どうせ、つまらない冗談と思っていることであろう。
それとも、失敗した時の言い訳だと思っているのだろう。
気まずい空気にしたのは悪いと思っている。
でも、言いたかった。ただなんとなく。
やっぱ言わなきゃ良かったな…
「なるほどね。だからリレー出れないのか。緊張状態が人より強めって感じ?」
「え。信じるの?」
「なんで信じないの?」
「いや…嘘っぽくない?」
「え。嘘なの?」
「いや嘘じゃないけど…」
「全然ありえない話ではないでしょ?」
「まあ…そうなの…か?」
思った反応と違った。
優しいから、気をつかってくれたのかな…
ただ、俺も思ったことがあったのでせっかくのこの機会に聞いてみることにした。
「もしかして…よく寝てるのって、病気の一種かなにか?」
「なんでそう思うの?」
「……いや、違ってたら悪いんだけど、表情とかでどうにも、無理して頑張っているような気がしてさ…
それに、早乙女さんなら体調管理もできるしさ…
いつもそれなりに早く寝てるでしょラインとかでも…
なのに眠いってことは何かあるのかなって…」
姉の方は、真剣な顔になった。
よくよく考えると俺キモくね?
なんだよ無理して頑張っているって。
それにライン早く切り上げてるのも、俺の話がつまらないからの可能性もあるだろ……
俺とのラインのあと、彼氏とやっているかもしれないんだし。
ああ。絶対嫌われたな…。調子乗らなきゃよかった。
このまま、
「やっぱ…似たもの同士だからわかるのかな。
これでも演技力には自信あったんだけどな…
うん! 病気……なのかな?と言っても、病名はないし、原因不明なんだけどね…
月城くんの緊張と同じだよ!人はみんな眠いけど、その程度が異常って感じかな?
だから、月城くんの気持ち、わかる気がする」
「そうだったのか。無理やり言わせてごめん……」
「ん? いいの! いいの! わたしこそ初めて人に言った。意外とスッキリするんだね」
「俺も初めて言ったよ。なんかありがとう」
「妹の方も病気って知っているの?」
「知っているし、心配もしてくれるよ!
でも、私は、深月ちゃんは真面目だから、私のことを怠惰に見えているかも…って心配になることはある」
「人にわかってもらえないのは辛いな。でも、多分妹の方もそんなふうに思ってないから大丈夫だよ」
姉の発言からすると、妹は病気じゃないのか。
でも、階段で意識失っていたし、遺伝病の可能性もあるか。
今は、言及は避けておこう。
変に知ったかをして追求するのは失礼だ。
それに、編入試験での出来事もバレると嫌だ。
そう思っていると、姉の方は、「じゃあ、もう一つ聞きたいことがあるんだけど…」と言ってきた。
俺の腕をフェザータッチし始めた。
フェザータッチはやめてくれ。
違うところがパンプアップされちまう…
「なに…?」
「ねえ。月城君の身体能力ならさ、人が高いところから落ちてきてもキャッチできる?」
おいおい。妹に何か言われたか?
やばいぞ。ここまで読まれていたか?
このフェザータッチがよく聞く、ハニートラップするときよくするという、ボディータッチというやつか?
とにかく、誤魔化そう。
「え…。できるかもしれないし、体が動かないかもしれない」
「そっか…。ごめん。気にしないで」
気になるは!!
妹とキスしたのは不可抗力なんだぞ!
向こうからしてきたし。目見えなかったし。
緊張のことを教えてしまったから、そこそこ身体能力はあることがバレて、犯罪の嫌疑が高まっているのか?
「ああ。でもなー、流石に人はきついよな。重そうだし。やったことないからわからないなー」
棒読みなってしまったが仕方がない。
「だよね…」
どこか納得していない様子だが、できる手段は尽くした。
少し気まづい空気が流れた。
そんな時は、いつも姉の方が話題を振ってくれる。
「ねえ! 聞いて! もうすぐ新しい撮影なんだ!」
「そうなんだ。今日の暑さで、日焼けとか大丈夫なの?」
「日焼け止め塗ってきたから大丈夫! 匂いするでしょ?」
手を近づけてきた。
「わかっているよ。匂いするし」
「ほんとに〜? 首のところに多めに塗ったから!ほら!」
『嗅げ!』と言わんばかりに、髪をまとめ首を見せてくる。
こ、これは…顔を近づけていいものなのか?
会話ができるようになった、ひよこの俺は、まだ自ら女子に近づくことはできない
とりあえず、少し大きな声で、「おお! 本当だ」と嗅いでないが誤魔化しておいた。
「まあ、でも、怪我とかは怖いよね。今度の撮影は夏用でさ、結構肌の露出多いから、傷あると流石にね…
コケないようにすれば、とりあえず大丈夫かな?」
「やっぱ、大変なんだな。リレーでなくてもよかったんじゃない?」
「そうだけどさ…それだと何もできなくなっちゃうし…。せっかくの行事だし楽しみじゃない?
最近は加工でもなんとかなるけどなんか嫌だよね。深月ちゃんに変わってもらおう! その時は!」
そういえば、何回か入れ替わって撮影しているとかいっていたな。
しかも、事務所も面白いからOKしてるとか。
俺だったら何もしないという選択を取るのに学校行事を頑張るのは本当に偉いと思う。
「間違い探しみたいで売れる可能性が高いな」
「本出たら買う?」
「ネットで買えるなら」
「なんで?」
「本屋で女性用の本俺が買っていたら店員に変な目で見られて緊張するから…」
「それもそうだね! ほんとっ面白いね!!!」
「いやいや真剣ですよ?」
「眠くて聞いてなかったよ?」
俺たちは、会場のバス停に着いた
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