第5.5話 初めてのラインはテンパる
結果的に、2組の方が早く終わっていた。
2組の生徒は、妹の方も含め、部活や帰宅で教室にほとんど誰もいなかった。
一応、2組の教室のゴミ箱を廊下から覗いてみたが、まだ俺のジャージは捨てられてはいない。
このまま、ジャージを持って帰るか?
いや、それこそ、犯罪な気がする。
とりあえず、姉の方の机の上に置いておくか。
そして、置いといたことを後で伝えるか…
俺は一度も発言したことない、クラスラインを開いた。
姉の方を友達に追加していいのか、ものすごく悩む。
ストーカーと思われたらどうしよう。
即ブロされたらどうしよう。
ま、その時はその時か。
今回は俺だって連絡したくてしているわけではないのだ。
しかし、今はまだラインする勇気はない。
家に帰ってからにしよう。
とりあえず、俺は、妹の方のジャージを姉の方の机に置いて、いつものメンバーで帰宅した。
結局家についた後も、友達に追加する勇気が中々出ず、その上、送る文面を考えていたら、気がついたら夜になってしまっていた。
明日になってしまったら、流石にマズそうなので覚悟を決めた。
姉の方を友人追加して、
「早乙女さんのジャージのことなんですが、間違えて入れ替わっていると思うので、とりあえず、早乙女さんの机の上に置いときます。伝えておいてください」
と気合いで送信した。
すぐに既読がついた。
「月城くん! よろしく! よくわからないけど伝えとくね!」
冷静になって、送った文章見ると、確かに伝わりにくいな。
どちらも早乙女さんだしな。
もっと具体的に、入れ替わったこと説明しておくべきだったか。
ああ。 終わったな。
俺はさっきまで何をしていたのだ……
まあ、終わってしまったことは仕方がない。
「よろしくお願いします」と打って、気持ちを落ち着かせるために、風呂に向かった。
*
陽菜は深月の部屋をノックした。
「深月ちゃん! 入るよ?」
深月は直前まで読んでいた月城との筆談をすぐに閉まった。
「どうしたの? 陽菜ねー」
「月城くんからライン来たんだけど…」
「ラインやってたの? 月城くんと?」
「いや? 今来たばっかだよ〜。ちょっと、焦っている様子なんだよね。」
「内容は?」
「ジャージを間違えたから、多分、わたしの机の上に置いておくってことかな?」
「そういうことか。 とりあえず、『了解!』って伝えといて!」
「わかったよ〜ん! でも、月城くんと接点あったの?」
「図書室で会ったくらいだよ」
「そーなんだ! 面白い子だよね。ちょっと、オドオドしてて、あまり目線合わせないし」
「今までの男子のタイプとは違うね」
「そうそう! なのにどこか芯がありそうだよね〜」
「陽菜ねーとそんな関わりあるの?」
「席が隣なくらいだよ?」
「ふーん」
「も〜どうしたの〜」
陽菜は深月の頭を犬のように撫で始めた。
わずか、数分しか違わないなに姉妹の間には、しっかりとした姉妹関係が形成されていた。
「ん〜〜。もうすぐ勉強するから!!」
「はいはい。じゃあ送っとくね!」
陽菜は自分の部屋に戻った。
深月は、こっそりとカバンから月城のジャージを取り出した。
深月は、図書室を出て、ジャージを着ようとしたところ、いつもとは異なる安心する匂いに気がついた。
その時に、名前を見て取り違いに気がついた。
図書室に戻っても、月城はやることがあると言っていたため、邪魔になるかと思い戻るのをやめた。
深月は図書室の帰りに廊下にある鏡を見て、下着が透けていることに気がついた。
暑かったため、月城の前で脱いでしまったことは反省したが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
ただ深月は、クラスでは下着が透けるのは嫌だった。
また、深月は安心する匂いのジャージに包まれたいという思いが我慢できなかったのである。
深月はバレないように、刺繍を隠しながら家帰るまで、ずっと月城のジャージを着ていたのだった。
*
風呂に入って冷静さを取り戻した俺だが、姉妹で、悪口を言い合っているのが容易に想像できる。
浴槽で溺れてしまいそうである。
「深月ちゃん、了解だって!」
しばらくして、姉の方からラインが来た。
すぐに既読つけた方が良いのか。
15分くらいは待った方がいいのか。
失礼がないようにしないと。
「わざわざすみません」
『いいてことよ!』とアニメ通の俺でさえ知らない謎のキャラクターのスタンプで返信がきた。
こういう場合は、未読のままがいいのかな?
女子との個人ラインなんてどうすればいいか知らないぞ。
俺の方から既読しないというのも、女性の尊厳に問題がありそうだ。
『陰キャのくせに、学校1の美女を未読無視!』でスレを立てられたら嫌だ。
かといって、返信するのも、『勘違い乙!』と机に書かれたりしたら泣きそうである。
とりあえず、手を振るわせながら、初期設定で入っているスタンプを押しておいた。
既読無視なり、未読無視なりして貰えば向こうも満足であろう。
すぐに既読になり終わりだと思ったら、「ねえ、宿題どこだっけ?」と返信が来た。
即既読をつけるのはいいのか.?
でも宿題できないと困るし…
あああああああああああああああああ
何が正解なんだ。
高校生活はとても難しい。
気がつくと、妹のミスにより、俺はなぜか、姉の方とラインをする仲になっていた。
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