第5話 ノーブラ散歩に出くわしたい

「今日って女子はノーブラなのかな?」


男子3人で登校中、須子が聞いてきた。

そう。午前中は、健康診断の日。

ジャージ登校の日である。


「流石に、それはないだろ」

高安は基本話さないので俺が返事をした。


「やっぱ、そうだよな〜。 僕は、ノーブラ散歩に出くわすのが夢だな〜

ノーブラ散歩と宝くじに当たる確率のどっちが高いかな。やっぱ僕は宝くじより、ノーブラ散歩に出くわしたいよ」


前々から気にはなっていたが、須子は変態のくせに、自分のことを僕と呼ぶのである。

まあ、どうでもいいことではあるか。


そんなくだらない発言で始まった健康診断。


男女別に行われるため確かめる方法はないが,須子のせいで女子とすれ違う時にやたら意識しすぎてしまった。


結局ジャージを着ていたので、よくわからなかった。


健康診断も終わり、昼休みはいつも通り、図書室に向かった。

今日は少し暑かったので、ジャージを脱いで、机の上に置いておいた。


妹の方もしばらくするとやって来た。


はっきり言おう。俺はこの時間が好きだ。


仮に、彼氏がいようと。

NTR願望なわけではないが、この空間は居心地がいい。


人付き合いが苦手な俺にとって、静かな図書室で美女とふたりっきりは特別の時間である。


いつもの席に座った妹の方は、ジャージを脱ぎ机の上に置いた。


おいおい。まさか!?!?


とうとう宝くじ…当たったか?


スッと紙が渡された。

「暑いね!!」と書いてある。


確かにいつも、テキトーなところから筆談をを始めるが、今回はそんな筆談なんてどうでもいい。


目線をどうすればいいのだ。

とりあえずは、今はこの紙に集中しろ。


見ていいのか?

でも、もしポチッとなっていたら…

その時は…トイレにかけ込もう。


見ないわけにいかない。ただ正面を見るだけだ。

見たって不可抗力だ。


「そうだね」とかいて紙を渡す。

その時に全細胞で集中して胸元を見る。



どう見ても…

下着をつけている。

それはそうか。

須子におどらされてしまった。


ただ、よく見ると、白い体育着の下に、大きな胸に沿って、ピンク色のうっすらとしたものが見えるぞ。

ブラ透けというやつだ!!!!


これはこれで素晴らしい。


大人の下着というやつだ。


2組の奴らが羨ましい。

下着くらいは透けても気にしない奴なのか。

いきなり、キスしてくるくらいだからな。


筆談を渡すたび、俺は下着を目に焼き付けた。


あっという間に、チャイムが鳴ってしまった。


「一緒に帰る?」

せっかくの誘いの筆談がきた。


「ちょっと、用があって」

「そっか。またね」

妹の方は、小声そう言って、ジャージを着て帰ってしまった。


心の中で、2組では、絶対ジャージを脱ぐなと念じておいた。


それにしても…ああ。せっかくのチャンスが…

今は立てないんだよ。

なぜならば、たっているから。


まあ、一緒に歩く勇気も俺にはまだない。


とにかく、ムキムキの毛深い男の画像を思い出し気分を落ち着かせる。


着るのはダルいので、ジャージは手にもって教室に向かった。

教室に戻ると、教室がやたら騒がしい。


「ジャージ無くしちゃった。どこだっけ〜?」

姉の方がうろちょろしている。

姉の方はブラ透けしてないぞ?


妹よ。しっかりしてくれ。


「盗まれちゃったんじゃない?」

数井かずいという女子がニヤニヤしながら、姉の方をいじっている。


姉の方は、数井と森さんの3人組でいることが多い。


数井は、元ヤン風で、サバサバしていて、個人的には一番苦手なタイプだ。

茶髪のショートカットで、背は160センチくらい。

そして、貧乳だ。なんか安心した。 


ただ、顔は流石に1軍女子。整っている。

美少年風美少女なのかもしれない。


一方の、森さんはよくわからない。

基本あまり話していない感じだ。

メガネで顔もよく見えない。


女版の高安みたいなものだ。


ただ、恐ろしいのだ。

155センチと小柄のくせに、制服の上からでもわかる、早乙女姉妹の須子推定Eカップより、はるかに大きものをお持ちなのである。

ブレザーが壊れてしまわないか心配である。


さすが1軍女子と言った感じだ。 森さんは引き立て役ではないな。


御三家と俺は勝手に呼んでいる。



「ちょっとー! 男子盗んだでしょう!!」

数井はこのような冗談をズバズバいうのだ。


「ジャージ着てないやつが犯人ね? はい。 よーいスタート!!」


男女平等なんて理想だ。

高校の1教室。

カースト上位の女の命令を誰も無視しない。

たとえどんなに不合理でも。


ジャージには名前が小さく刺繍してある。

本当に犯人がいたとしたらロッカーにでも隠していることであろう。


ただ、これは本気の捜査ではない。

数井様の独裁に反乱するものがいないかのチェックなのである。


こういうのは嫌でも従うしかない。

ほとんどの男子はジャージを脱いでいたが、みんな一斉に着始めた。


俺も着ようとしたら、なぜだかいつもとは違ういい匂いがした。

名前の方見ると…

え。嘘だろ。嘘って言ってくれ。

やばいやばい。


【早乙女】って書いてあるぞ…

でもいつ?

知らない間に俺盗んでた?

ずっと手に持ってたし流石にそれはない。


あの時か!?!?

妹の方か!

あいつーーー!!!!!


間違えて持って行きやがった!

よりによってこのタイミングはまずいだろう。


刺繍見られたら、マジで盗んだ犯人にされ、しかもそれを着るやばいやつだぞ?

妹のジャージを持っていると言っても、誰も信じてくれないだろう。


編入したての奴がなんで妹の方と知り合いなんだってなるだろう。


それに、妹の方が俺のジャージを捨てていたらどうする?

それで、ジャージなくてって、騒いでいたら?

あ。詰んだ。


みんなのゴミを見るような目線はもう嫌なんだ。


タイミング良すぎないか?みんな共犯か?

よく聞くハニトラというやつか?

とりあえず、着るか?

来た状態で、男子トイレに逃げるか?


いや。怪しいか。

やばいやばい。。

ほぼみんな着たぞ。

『編入生でよくわかりません!』で逃げるか?

いや、外国人じゃないんだし無理だ。


仕方ない着よう。

そう決心したところ、先生がタイミングよく来てくれた。


『は〜い。始めんぞ〜』

助かった…

なんとか、注目は避けられる。


あとはゆっくり大人しく着よう。反乱勢力ではないように。


『お、そーいえば、早乙女これ落ちてたぞーー!気をつけろよ〜!』

と姉の方の体操着を見つけてくれていた。


あっぶねー!!!


「あ! ありがとうございます!」


「な〜んだ誰も盗んでなかったね! ハハハハ!」

数井は楽しそうだった。



まあ、注目を浴びなくて良かった。




無事解決して、ひと安心だ。

いやいや。一難去ってまた一難だぞこれ!


このジャージどうすればいいんだ?


妹の方は気がついているのか?

クサイから着ないって選択肢をとっているのか?


でも、着ないと透けちゃうんだよな……

気にしなさそうなタイプだからな……


なんで、俺は彼氏でもないのに気にしているのだろう。


とりあえず、授業終わったら、声をかけるしかないか。


てか、2組にいきなり行って声をかけるのはキツイな。


『知らないやつが来た。 誰あの陰キャ』みたいな目線が怖い。


それに、妹の方が俺と知り合いだと思われるのも可哀想である。


とりあえず考えても埒が開かないので、考えるのをやめた。

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