第4話 陰キャは死ぬほど考える
翌日、特に問題なく午前の授業をこなした俺は、少し浮かれた気分で図書室に向かった。
妹の方に会えるかもしれないという淡い期待を抱いていた。
もしかしたら、筆談できるチャンスがあるかもしれないと。
なんせ、キスした仲であるからな!!
話題作りに関しては、昔からイメトレだけは人一倍していたので、筆談ならなんとかできるであろう。
図書室に着くと、まだ誰もいない。
少し早く着きすぎたようだ。
とりあえず、席を決める必要がある。
まず、彼女の指定席は、マズイであろう。
昨日許されたのはあくまで、知らなかったからだ。
そうすると、指定席から最も離れているところに座った方がいいだろうか。
でもそれだと、『あなたに興味ありませんよ?』、というアピールが強すぎて逆に怪しいか?
じゃあ、昨日の席か? それはそれでキモいな。
無人の図書室で延々と、席に座っては離れを繰り返した。
気がつけば…昼休みが終わっていた…
あれ…来なかった。
そうか! 今日は休みなのか!
流石に、俺がいるから図書室を利用しないようになったとかはないだろう…
とりあえず、2組の教室を覗いてみると、一人だけ違うオーラを発している奴がいた。
…いるよな…
そうか。きっと。姉の方か。髪長いけど…
2組に遊びに行っているんだな。
1組に戻ると、姉と思しき人物は俺の隣の席で寝ている。
ああ。さっきの現実逃避が…
わかっていたことなんだ。
なんで浮かれていたんだ。
もう不登校になりたい気分である。
午後の授業をなんとかこなし、男子残り2人には申し訳ないが、一人で家に帰った。
登校3日目
不幸なことに、最寄駅に着くと目の前には、双子が揃って登校している。
こういう場合どうするのが正解なのだろうか。
後ろを歩いていたらストーカーとか思われるのだろうか。
もう少しコンビニで時間を潰すか。
ただ、時間もギリギリではある。
姉妹が、男子に声をかけられた。
これは続行だ。
彼氏が誰なのか把握しておくことも大切だ。
いつか、3月のことで冤罪にさせられた時に、役立つかもしれない。
とりあえず、スマホを手に持って、万が一、姉妹が後ろを振り向いたとしても、『歩きスマホで気がつきませんでした!』という言い訳に使えるであろう。
観察するに3人は楽しく談笑している。
よくよく見ると、同じクラスのサッカー部のエースと言われている、
確か、クラス委員長になっていたような気もするな。
爽やかイケメンで、男女問わず誰からも好かれているような印象はある。
須子が招待してくれた、クラスのグループラインでも率先して会話しているタイプだ。
結局、人生なんて陽キャが勝つんだよな。
昨日図書室に来なかったのも3人できっと体育館倉庫でよろしくしていたんだろう。
俺も、分不相応な交流は諦めよう。
俺は、少し靴紐結んだりして、3人との距離を置いて、時間を稼いだ。
これでばったり、下駄箱で鉢合わせることはないであろう。
と、思ったら、1組の下駄箱にまだ2人がいた。
「あ、月城くんだ〜!おはよ〜」
「おはよう! 今日もいい天気だね!」
お二人が俺にご挨拶をしてくれた。
そりゃそうだろう。
彼女と登校できてさぞ気分も良いことでしょうね。
「お…おはようございます…」
イライラと緊張でなかなかうまく挨拶はできなかった。
2組の方では、妹の方も靴を履き替えている。
妹の方と目があってしまったが、すぐにそらし、俺は階段を3段飛ばしして、教室に向かった。
せっかく、学校生活を楽しめると思ったが、この学校でも大人しくしておくほうが身の丈にあっていそうだ。
そう覚悟を決めると、精神的には楽であった。
昼休み。
今回は本当に、本読むために図書室に向かった。
俺のことをキモく思って図書室に来ないのなら、遠慮なく利用させてもらおう。
一応、妹の方の指定席以外で、人の来ないところに座り、読書を始めた。
5分くらいではあるが、集中して読めていた。
ふと見ると、いつの間にか、妹の方がいつもの指定席にいた。
俺と目が合うと、彼女は手を振った。
本当に俺に振っているのかと周りを見わたしたが、誰もいない。
もしかしたら、彼女にだけ見えている幽霊に手を振ったのかもしれない。
それに、独特のルーティンかもしれない。
もし俺に手を振っていた場合、無視するのもあれなので、少しだけ首を動かし、会釈をした。
しばらくすると、彼女の方が俺のところにやってきて、紙に「赤ペン持ってない?」と一言書いてあるのを見せてきた。
持っているけど、貸して欲しいのか?
それとも、赤ペンで自殺して欲しいのか?
一応、貸してあげることにした。
それで、勉強に戻るのかと思ったら、
「昨日、図書室いた?」と書いてきた。
もしかして、昨日の奇行を見られていたのか? 動画とかこっそり撮られてて、バカにされていたのか?
どうする…
こう言う場合は嘘をつくのは良くないであろう。
「いたよ」
「そっか。私は昨日は、教室でやることあって行けなかったんだよね」
「そうなんだ」
「明日も来る?」
「用事がなければおそらく」
「じゃあ、明日返してもいい?」
「別に、大丈夫です」
「じゃあ、図書室で!」
俺としては、騙されているような気もしつつ、とりあえず、昨日は忙しかったのかと安心した。
楽しみにしている自分もいて、楽しみが勝ってOKしてしまった。
きっと、今朝は、馬込くんとは、たまたま会っただけだな。うん。
姉の方に声をかけただけだな。
次の日も俺は図書室に向かった。
昨日と同じ席に座ると、しばらくすると、宣言通り、妹の方がやってきた。
そして、赤ペンを返してくれた。
インクでもなくなっているのかと思ったが、そこまで減ってない。
そして、何故か、今日は,「青ペン貸して」と書いてある紙を渡してきた。
もちろん、青ペンを貸したが、何がしたいのだろうか。
世間では流行っている嫌がらせなのだろうか。
秤量攻め的なことをしたいのか。
「また借りたいから、近くに座ってよ!!」
帰るのかと思ったら、またしてもそう筆談してきた。
こういうのは断るのがマナーなのか? それとも断らないのがマナーのか?
俺は女子の扱いは皆無なんだぞ。
怖いおばちゃんマナー講師に教えてもらいたいものである。
せっかく、編入したんだ。 少しは自分に素直になってもいいだろう。
俺は、少し近くで関わっていたいという気持ちがあった。
「わかりました」
俺たちは、図書室の奥の席で、向かい合って座ることにした。
静かな図書室の中で、たまにくる筆談に答えるという奇妙な時間が出来上がった。
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