第17話 お母ちゃんいってらっしゃい

宇宙はまず、母の施設巡りをしてみる事にしたのだった。


宇宙は介護職である自分の経験も踏まえ、宇宙独自の『直感』さで、見極めようとした。


ある時…。

ヒョンと…施設に空きがあると連絡が来たのだった。

その話を嫁にすると…

『そこに決めちゃいなさいよ!』と

一つ返事で言われたのだったが…。



どうも…宇宙の中で、『ここじゃない!』って勘が強くて断ったのだった。介護職の視点から見て危険な事が起きるイメージも湧いたのもある。



でも、空きがあるのは奇跡に近かったので…せっかくのチャンスを失ってしまったのかな?とか…

心の中で…宇宙は…自問自答をしていたのだった。



そんな時…母が…食べ物をぐちゃぐちゃにする事が増えたり…

宇宙が仕事帰りに寄ったら、家の中が、めちゃくちゃになっていたり…

段々…本当に…通い介護では無理になって来たなぁ…っと思い始めていた。




そんな事が続き過ぎて…。

宇宙も苛立ちが沸き起こりすぎて…

母親にきつく怒鳴ってしまったのだ…。

そしてその時に…

『もぅ、お母ちゃん僕、限界だよ…。

 あんまりこんな毎日が続くようなら、施設に行くしかないかも知れんよ!』



宇宙は…ついとはいえ…言ってはいけないことを口走ってしまったと…

後悔したのだった。



母は…。

宇宙…すまんのぉ。ごめんよ〜。

本当に…ごめん…ごめん…。



宇宙は、いたたまれない気持ちになったのだった。



そうこうしていると…

不思議なタイミングでまた空きの施設が見つかったのだった。


宇宙は早速、その施設に出向いて、話を聞きに行ったら、とても親切な人で、ここなら大丈夫だな!と思える施設だったのだ。



宇宙は、母に…ゆっくり話す事にしたのだった。

でも…嫌だ!とか叫ばれたらどうしよう?とか考えていると…

なかなか…言い出せない宇宙なのだった。



でも、今!話さないとなぁ…っと思い、宇宙は勇気を出して、母にゆっくり丁寧に話したのだった。



母は、思ったよりもすんなり、

『分かったよ。〇〇施設に行くよ。』と言った。



あまりに何も反発なしで、受け入れてくれたので、宇宙はびっくりした。



でも、そう言ってても、段々…その日が近づいてきたら…

嫌だ!とか言い出すかもなぁ…っと…心積もりはしておこうと思っていた。



しかし、母は、当日も大人しく、穏やかな表情で、〇〇施設に向かって行ったのだった。

宇宙が、施設の人に丁重にお願いをして帰るときも…。



母は、またのぉ〜。って言って笑顔で見送ってくれた。



宇宙はそうはいっても、もっと時間が、経ちだしたら、駄々こねだすに違いないと思っていたのだった。



しかし…その後、面会に行っても、母は変わらず…穏な感じで、周りに、もうお友達も出来ていて、楽しく過ごしているようだった。



宇宙は…

ほっと胸を撫で下ろしたのだった。



本当にこの4年という介護は、実に大変だった。

もちろん大変な事だけではない…。

母と親子水入らずで、ワイワイした時間も沢山ある。



そして親の介護を経験したおかげで、いろんな人の気持ちが、またよく分かってきているのもある。



宇宙という人間を…ふた周りも三廻も大きくさせてくれたのは確か。



宇宙は元々、愛情深く…母性愛情も物凄くある。

しかし、母の介護をした事でより一層に、真の愛情の優しさの中の強さを持つ事が出来たのはある。



しかし…子育てとは違って…

年寄りの介護というのは…未来に希望を持つとか、夢を抱くことは違う。


どんどん…『死』に向かっていくのが…老いていく事なので、気をつけないと…こちらの英気も奪われる事にもなる。



宇宙は母親の介護を経験する事で、気持ちの切り替え方等…色んな大切な事を身を持って学んだのはあった。



あんなに…一心不乱に…親の介護…親の介護…。と

何かに…その事に、この4年は縛られていた為…。



今の宇宙は、『鳥の巣症候群』になっているのだった。


『鳥の巣症候群』とは、よく子育てして終えたお母さんが、ここまでは子供を成長させる事だけを生き甲斐にしていたのに…。


それがなくなると…

何を生き甲斐にして生きたら良いんだろ?と…

空虚感、孤独感に苛まれると言われている。



あんなに…凄い生活を送る事が出来ていたのに…

今の僕はただ…仕事に行って…家に帰って居るだけな気がする…。



なにか?

したほうが良いんだろうなぁ…。

あの充実感に筆頭するぐらいの何かをしたい…。

しなきゃだめな気がする?



宇宙はその何かを…

探し始めるのだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る