第15話 泣かぬなら それもまたよし ホトトギス

凛子と太陽は、甥っ子が就職してから、甥っ子の寮生活、職場での事など、事細かに気に留めながら…


時には甥っ子と太陽と凛子の3人で、大量の洗濯物をコインランドリーを使って、洗濯をこなしたりする事もあった。



寮の部屋に行って、掃除を一緒にしたり、片付けをしたり…。

一般的な親子みたいな3人であった。



そんな時…凛子の実の妹が、『甥っ子の通帳をみたい!』と毎日、電話がかかって来るし、その妹と同居人の男からも説教されたりしていて、甥っ子がかなり悩んで居たのだった。



凛子はなんとか…しなきゃと思い、凛子の妹の所に電話をかけた。



凛子:

『妹ちゃんこんばんは、何やら毎日、甥っ子の所に通帳を見せろ!と電話をかけているみたいね…。』



妹:

『あっ、お姉ちゃんこんばんは、息子が、お姉ちゃんにそー言ってきたの?』



凛子:

『うん、甥っ子…悩んでいたよ。

どうして?就職して社会人なったばかりの子供に親が悩ませるような負担をかけるの?』



妹:

『うちは、通帳見せて!って言っただけで、別にお金をよこせ!とか言ってないし…。』



凛子:

『一般的に親は子供に通帳見せろ!とは言わないものよ…。

 今ね、甥っ子は寮生活、社会人と一生懸命に、頑張っているの。むしろ、応援してあげたくなるのが、親だし、大人だと思うんだけど…。』



妹:

『う…っ…。うぇ〜んしくしく…。』



妹の同居人:

『はじめまして、同居人です。

今、妹さんと凛子さんのお話を伺っていて、子供が親の面倒をみることを放棄しているのはいかがなものか…と思いました。』



凛子:

『はじめまして。いつも妹がお世話になっております。』


『どういうことですか?

 子供が親の面倒をみるのは当たり前?

 確か…同居人さんにも甥っ子と同い年の息子さんがいらっしゃいましたよね?

 その息子さんにも同じ事が言えるんですか?』



同居人:

『妹さんは通帳を見せてとは言われましたが、お金をよこせとは言ってないですし…。


 離婚して母親が、大変な時に、子供が知らん顔というのはいかがなものか?と…。』



凛子はもう…妹にしても…この同居人にしても、我慢ならなくなってしまった…。



凛子:

『同居人さん…両親が離婚して、子供がどんな気持ちで葛藤して、少しずつでも前向きに生きて行こうと、頑張って来ている工程をご存知ですか?』



同居人:

『僕は、自分が、その離婚をした親側であって、自分自身の両親は離婚をしていないので、その子供の気持ちは経験がないのでわかりません。』



凛子:

『経験なら私もありません。

 ですが…私、甥っ子の傍でこの子がどれだけ心を痛め、葛藤して来ているか?ずっと見てきたのもありますし、仮に経験していなくても…

 大人ですから…頭の中だけでも、想像して寄り添える事は出来ます。』



同居人:

『僕は自分が経験していないことは、想像できませんね…。』


『そもそも、妹さんは精神疾患の病気ですよ…。』



凛子:

『はい。妹が精神疾患の病気である事は分かっています。

 精神疾患の病気だから、親の面倒を子供が見るのが当然って言いたいって事ですか?』


『じゃあお聞きします。

 その精神疾患の病気の妹の精神年齢が何歳だと思われてるんですか?』


『5歳ですか?10歳ですか?』


『所で同居人さんは何歳ですか?』




同居人:

『なんですか!!

 お姉さんの言われている事が僕には理解できません。』



凛子:

『じゃあ、理解できるはさておいて、同居人さんの年齢は何歳ですか?』



同居人:

『43歳です。』



凛子:

『じゃあその43歳引く18歳は何歳差になりますか?』



同居人:

『一体…な、なんですか!!』



凛子:

『引き算は不得意ですか?』



同居人:

『う……。25歳差です。』



凛子:

『ですよね?あなた、25歳も甥っ子よりも年上のさらに人の子の父親でもあるんですよ!』


『あなたが18歳で初めて社会人になって、それも親元から離れて寮生活…

どのように想像されますか?』


『あっ、ご経験がない事は想像できないとおっしゃってましたから…

 わからないですかね…。』



同居人:

『…………。』



凛子:

『あなた、25歳の年下の甥っ子を脅したらしいですね。25歳も年下にそのような言動をして恥ずかしいとは思わないんですか?』



同居人:

『なんで?お姉さんが甥っ子さんの代わりに電話をしてきて、僕らはこのように言われないといけないのか?

納得できないです。』



凛子:

『卑怯者だからですよ。』



同居人:

『いきなり、なんなんですか?

 さっきから、黙っていたら好き勝手言われてますが…。』



凛子:

『これは少し言葉が乱暴すぎましたね。失礼しました。

 なら私と同居人さんは、ほぼ近い年齢の大人なので、大人同士で、議論し合いましょう。それが公平と言うものだと思うのですが?

 同居人さんはどう思われますか?』



同居人:

『僕はただ…妹さんの代わりに…甥っ子さんに妹さんの気持ちを伝えただけで…脅しては…ないです。』



凛子:

『では、同居人さんにとって、同居人さんが43歳なので、プラス25歳を足した68歳の大人から、ただ、話を伝えただけだと言われても、何も萎縮しませんか?』


『まぁ、なにを言っても同居人さんは、ご自身が経験していない事は、想像も出来ないとおっしゃられていたので、同居人さんがご経験されてない話は何も受けいられる事は難しいのでしょうね。』


『なので、別にご理解頂きたいとは思っておりません。ただ今後、甥っ子に何かをおっしゃられたいのなら、同じ大人同士で議論し合いましょう。


 それなら公平なので、私も二度と、卑怯者とは申しません。』




傍で太陽もずっと聞いて居たが…

流石に…凛子がかなり静かに激怒していて、拍車がかかって言いたい放題な事を言っていると感じたので、太陽は電話を代わって、同居人さんをなだめていた。



凛子は、電話の奥では妹がうそ泣きをしているのが分かった。


それと同居人のこの男性は、妹の面倒をみる覚悟がまだ持てなくて…

それで、ジタバタ…甥っ子に…そのフラストレーションを向けているのだと感じた。


実はこの同居人も妹と同じように精神疾患を持っていて、精神科の病院で入退院を、繰り返し、労災を繰り返し使ってやり過ごして居たのだった。


妹の事は好きは好きなんだろうが…

妹の人生の責任を持つまでの覚悟を持てるまでには、まだまだ何か?強い必然性でもないと難しいのだろうなぁ〜っと…凛子は感じていた。


この電話を切った後…きっと妹はうそ泣きをずっとし続けて…自分は可哀想な人間で女だとアピールするに違いない。

それをこの同居人の男が、どう受け止めて行ってやるか?だろうなぁって。



凛子は最近…ある偉人の名言で、妹との事を葛藤するに当たって、ドンピシャだと思うものを見つけたのだった。


それは松下幸之助さんの名言で、

『泣かぬなら

 それもまたよし

 ホトトギス』

だったのだった。


そう…妹は妹に合った世界の中で、妹が妹らしく生きられる所で生きていくのが一番いい。


だからこそ

妹を精神科に入院させた事も、そこに通じていく流れだったと凛子は思ったのだった。


今後、この同居人と、生きていくかは?凛子にもわからない…。



だけど…

同居人にも妹にも

凛子なりに、『自立』に導くように、

自らを見つめ直すチャンスを与えたつもりではある。



凛子の好きな言葉に

『果報は寝て待て』とあるのだが…

凛子は常に、今、凛子にできる事は試みる。

その後は、自然の流れに身を委ねる。



凛子自身の大きな軸の中には…

『凛子が凛子らしく生きることで

 周りをも幸せに導く』

そういう自分に自信を持っている所があるのだ。



凛子はどの人に対しても

可能性があると信じている



それと何があっても

凛子は甥っ子の味方でいる

甥っ子を信じている




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