第4話 バイト内容
翌朝、出勤前に闇金に電話する。電話といってもLIN◯電話だし、相手の名前も表示が『山口』なだけで本当の名前はわからない。僕はお金を借りる時に全ての情報を渡している。免許証や勤務先、親、妻、子供の通う学校まで教えている。闇金から逃げたりしたらどうなるかなんて分かりきっている。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします」
『おはようございます。早いですね。これから仕事ですか?』
「はい、もう少ししたら出勤します」
『じゃ、最初にやってもらいたいことだけ説明するよ。まず、適当な会社名と個人名で名刺と社員証を作ってほしいのね。実在する会社はやめてね。まずはそれだけやってもらって、また夜に連絡貰えるかな。あと、経費として一万円振り込んでおくから必要時に使ってね。余っても返金しなくてもいいからね』
「わかりました。また夜に連絡します」
経費まで貰えることに余計に安心感が増してしまった。やる事はまともじゃないだろうけど……。
通話が終わったら出勤する。職場は徒歩数分の有料老人ホームである。このホームでは介護さんと比べて看護師の仕事は楽だ。内服の用意や数人の処置が終われば後は記録を書いて過ごす。その間に職場のパソコンと名刺用紙を拝借して山口に言われた物を用意する。立派な横領だが、ゴミクズはこんな事は気にしない。
『有限会社 ゴトウ技術
代表 後藤 真司
東京都⚪︎⚪︎区××13-××
TEL 03-××××-⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎』
こんな感じで名刺を作成した。何も考えずに作った会社名と個人名、もちろん電話番号は同じ後藤を会社名に持つ関係のない番号だ。横領して勤務時間に全く別のことをしていることに罪悪感はなく、むしろ、どんなことをするのかとワクワクしてしまっていた。
この日もダラダラと仕事を終わらせて午後五時に退社する。歩いて家まで帰り、帰宅早々、山口に連絡を入れる。経費の一万円もちゃんと振り込まれていた。
「斉藤です。画像で名刺送ったんですけど大丈夫でしょうか?」
『お疲れ様です。よくできてるよ。じゃ、仕事について説明してもいい?何かにメモっておいたほうがいいよ』
急いで紙とペンを用意した。
「準備できました。お願いします」
『まず、雑誌が入るくらいの封筒に適当な漫画雑誌かコンビニで貰えるパンフレットなんかを入れて作った名刺の名前に送ってね。品物は書籍とか契約書にして住所は取りに行ける距離の白犬便の営業所留めにして、追跡番号確認しながら届いたタイミングで取りに行ってね。二箇所くらいやっておくといいよ。その時に何も確認されないか、名刺を確認されるか、身分証を確認されるか知りたいから、結果教えてね』
「わかりました。今日中に配送手配します」
『早くて助かるよ。じゃ、よろしくね』
通話が終わるとすぐにいらない封筒を持って近所こヘブンイレブンに向かう。コンビニで無料配布されている求人情報を数冊いただき、封筒に入れて近場の中野区と新宿区の営業所留めで送付手続きをした。明日は休みなので明日中に確認できるだろう。早く作業を終わらせれば、早くバイト代が貰えるかもしれないとも思っている。
翌日の昼、追跡番号を確認したらすでに営業所に届いていたため、自転車を走らせて取りに向かう。お金のためなら大した苦にもならない。最初は中野区の営業所だ。
「ゴトウ技術宛に荷物は届いてないでしょうか?」
緊張しながら受付の女性に声をかける。まだ悪い事はしてないんだけど。
「少々お待ちください」
数分後、昨日自分で送った封筒を持ってきてくれる。
「身分証はお持ちでしょうか?」
やばい、やばい。
「あいにく免許証を持ってきてなくて、名刺でもいいですか?」
ドキドキしながら自分で作った名刺を差し出すとお姉さんは確認しながら奥に引っ込む。まだ悪い事はしてないが、これはかなり不味い状況なのでは。身分偽ってる時点で犯罪になるのかな……。そんな事を考えていると女性が戻ってくる。
「今回はこちらでお渡ししますが、次回からは身分証明書をお持ちくださいね」
「ありがとうございます。次回から気をつけますね」
受け取れたことにホッと胸を撫でおろし、そそくさと営業所を後にした。
次は新宿区の営業所へ自転車を走らせる。自宅からは少し距離があるがお金のためなら気にならないのがゴミクズなのだ。
「ゴトウ技術宛に荷物は届いていませんでしょうか?」
「少々お待ちください」
受付にいた女性は奥に引っ込み、すぐに封筒を持ってきた。
「こちらですね。ご苦労様です」
女性はそう言うと封筒を渡してくる。確認しないのかい!
「ありがとうございます」
先ほどの営業所は身分証まで確認が必要だったのにこちらは全く確認しない。どうやら営業所によって対応が違うようだ。
荷物を受け取り、帰宅してから山口に連絡を入れる。
「お疲れ様です。荷物の受け取り終わりました」
『どうでした?』
「中野区の⚪︎⚪︎営業所は受け取れましたが、次回から身分証を持ってくるように言われました。新宿区の⚪︎⚪︎営業所は全く確認されずに受け取れました」
『そうですか、では新宿区の⚪︎⚪︎営業所を使いましょう。少し面倒でしょうが警察に捕まるリスクを減らすためなんで我慢してね。絶対に捕まらないようにこっちも色々考えるから。今日中に荷物送るんで、追跡番号見ながら取りに行ってね』
「わかりました」
数時間後に追跡番号が届き、翌々日には営業所に取りに行った。今回も確認はされず、受け取った封筒の中には少年誌の間に挟まった全然知らない人のキャッシュカードが入っていた。
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