終章

エピローグ・B

 歪な構造だ。己を照らすものへ向かってまっすぐに伸びる石樹を見上げ、魔術師はそんな感想を抱いた。

(漂流物とは、そういうものなのだろう)

 時の波をさまよって生と死の境を曖昧にする灯りであり、またどちらでもない場所で迷わぬための道標でもある。

 漂流物の由来はさまざまだが、その役割を考えれば、ほとんどが長命な生き物たちの手によるものだ。手にしたランタンの中で光を放っているものも、そうであるらしい。

 しかしこの石樹は違う。意図的ではなかったにせよ、たしかに人間が人間として組み上げたもの。そうして築かれた精霊も、人間のためにその力を使うという。

(それが真実であるか否かは、自分で確かめるほかないが)

 はたしてこの選択はどこへ転がっていくだろう。

 博打を好むわけではないが、未来の見えない不安定さは人間だけが持ちうる質なのだと思う。その先で大きな事象に手が届かせることができるなら、どれほど愉快なことか。

(ここから、一年)

 時はきた。長らく積み重ね、膨らませてきた己の欲を試す時が。

 悪意と善意を極限まで薄めれば、そこにはいつだって切望の運命がある。


 ――遠く、歓声と悲鳴の音を聴く。

 ローブの下で魔術は紡がれ、泉はひたりと水位を増した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る