『星を掴もう!』

 ググは星を見ることが大好き。

 べっとり暗い闇色の空に、さまざまな色の光がまたたいて、ぼんやりと、あるいは煌々こうこうと、星たちは毎晩灯るのです。

 おやすみの前には必ず、窓から空を眺めます。

 四角く切り取られた、ググだけの星空。

 とっておきの絵画。

 そして、その宝石のようなきらめきが、竜の瞳であったり、妖精の飛びまわった跡であったり、魔女や聖人の魔法であったりすることを、ググはちゃんと知っていました。

「もっと近くで、見られたらなあ……」

 けれども、星を生み出すとくべつな生き物たちがいるのは、ずっと遠くの空。ですから、ググにはその星たちが小さな点々にしか見えません。

 それがとても、寂しかったのです。


 悲しいことがあった日も、ググは星空を眺めます。

 涙をいっぱいにためた目で見上げた空はいつもより輝きを増していて、ググを励ましてくれるよう。

 それでも星は、遠いまま。


 ググの悲しい夜は、季節の移りゆくあいだ、とくに増えました。

 春から夏へ、夏から秋へ、秋から冬へ。

 そうしてまた春がやってくるころには、星空を切り取る窓枠に、水たまりができるほどの涙がこぼれました。

 うわあん、と。ググの呻き声が水面を揺らし、そして、こだまするように響きます。

 うわあん、うわあん。

 やがてそれは、少年の声になっていました。

「星を、近くで見てみたい?」少年の声はそう言いました。

「とっても」それからググはまた涙をこぼします。「けれど、ググはお外へ行かれないの」

「なら、キミのところへ星を連れてきてあげよう」

「ほんとう?」

「ほんとうだよ。ボクは人間の味方。キミがたくさん祈ってくれたら、もっと頑張れるんだけど」

 ググは祈ります。どうかどうか、お星さまに出会えますように!

 すると、どうでしょう。

 ざあっと、涙の水たまりに光が走りました。

 突然のまぶしさに目をつむったググがおそるおそるまぶたを持ち上げると、水たまりには、立派な青年が映っていました。けれど、さっきの声の持ち主ではなさそうです。

「君も、星が欲しいのかい?」

「あなたはだあれ?」そう尋ねながら、ググはうっとりしていました。

 青年の瞳は夜空をはめ込んだみたいにきれいな青い影の色で、その髪は、星が明るく燃えるように輝いているのです。

「明星を愛してやまない者さ――ああ、こんなに遠くでは、星の明るさもよくわからないだろう。だからほんとうの星を知らない子供が多すぎるんだ。それじゃあいけない。僕は、星の配達人になろう。君も、星が欲しいのかい?」

 最初と同じ言葉が繰り返されただけでしたが、ググはなんだか楽しくなってきて、「欲しい!」と、元気よく答えました。もしかすると、今まででいちばん、元気な声が出たかもしれません。

 青年は、片目をつむってみせました。

「じゃあ、きっとだ」


 けれどもそれから、青年は一度もググの前に姿を見せませんでした。

 ググは毎晩、星を見ながら折りました。またあの不思議な少年の声がして、星の配達人を映す鏡を作ってくれますようにと。


 それは、よく冷えた、冬のある晩のことでした。

 ググの四角い星空を、なにか大きな光が横切りました。はっとして目をこらすと、次から次へ、たくさんの光が――星が流れ落ちているのが見えます。

 そのうちのひとつが、ぐんぐんこちらへ近づいてくると思ったら。

 ぴしゃんと、あいかわらずの涙の水たまりに着地したではありませんか。

「妖精さん!」

 それは小さな小さな星の妖精でした。

 ググの手のひらほどもない小さな羽を、それでも一生懸命に光らせた妖精でした。

 すぐに、ピンときます。あの青年は、ほんとうに星を運んでくれたのです。

 だとしたら、このたくさんの星々はググのような子供のところへ向かっているに違いありません。

「いっけぇぇぇ!」

 ググは大きな声で星々を応援しました。そんな子供たちの声の、たくさん響く夜でした。

 星は、いくつもいくつも、際限なく降ってきます。

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