第18話 鈴の音

 逃げるコアン達に対して、カーライルは一定の距離を取っていた。恐怖を与えてから殺すためである。


「どこへ行こうというのか?」


 余裕の笑みを浮かべながら追うカーライル。

 それに対してコアンは焦っていた。自分のスキルを無効化してしまうカーライルと、どうやって戦えばよいのか未だにわからないのである。

 そうして逃げていると、前から紅夜叉のメンバーたちがやってきた。

 街中での轟音を聞いて、何事かと確認をしに来たのである。

 そんな仲間に向かってフレイヤが叫ぶ。


「元勇者が乗り込んできた。コアンを殺す気だ!」


 コアンのスキルを知っている紅夜叉のメンバーは、なんでそんなにフレイヤが叫ぶのかわからなかった。

 フレイヤもすぐにそのことに気が付く。


「あいつにはコアンのスキルが通用しない!」

「!??!?!?」


 その話を聞いて一同は流石に驚いた。ならば、逃げているのにも納得できた。

 カーライルはその時、追いかけるのに飽きていた。


「そろそろ終わらせようか。さすがにもういいわ」


【MIS】


 カーライルがスキルを使うと、コアン達の脚力が元に戻った。

 その時である、コアンの頭に閃くものがあった。


「マヤ、みんなに支援魔法を。それで勝てる」

「わかった」


 マヤはコアンの指示に従って支援魔法を使う。そして、メンバー全員がカーライルと戦うために武器を手にした。

 それを見てカーライルは呆れ、馬鹿にしたようにコアン達を見る。


「おいおい、コアンのスキルがきかねーのがわかってねーのかよ?ま、殺されれば嫌でもわかるか」


 カーライルに馬鹿にされるのを気にせず、コアンはフレイヤに指示を出した。


「フレイヤ、カーライルに攻撃を」


 その指示にフレイヤが戸惑う。


「いいのか?コアンのスキルは通用しないが」

「僕に策があるから」


 フレイヤはコアンの言葉を聞いて信じることにした。今までどこか自信が無さそうにしていたコアンであったが、今回はそれを感じなかったのである。それが何故かはわからないが。

 フレイヤは覚悟を決めて、カーライルへと斬りかかる。


「てやー!」

「無駄なことを」


【MIS】


 カーライルはスキルを使った。そして、軽く体を横に動かして斬撃を躱そうとした。

 しかし、今回その斬撃がカーライルの腕を捉えて、皮膚が切り裂かれ血が飛び散った。


「何だと!?」


 これにはカーライルも驚く。MISのスキルは間違いなく発動した。だから、コアンのコントロールプランのスキルの効果は打ち消されているはずなのである。

 しかし、実際には攻撃が当たってしまった。

 そして、フレイヤは何故そうなったのかを理解していた。それは、彼女が狙った場所と攻撃が当たった場所が違うからである。

 つまり、コアンはコントロールプランなど使っていないのだ。使っていれば正確無比に狙ったところを捉えるものであり、それが違う場所を捉え、それもカーライルが躱せなかったということは、そもそもコントロールプランのスキルを使っていないということである。

 つまり、現状はコアンのスキル無しでのカーライルとの戦いである。先ほどのフレイヤの攻撃はその力量さからカーライルに躱されてしまったが、今はマヤの支援魔法で身体能力が強化されている。そのことで、カーライルに攻撃が当たるようになったのだ。

 カーライルもその答えに到達する。


「どうやらスキルを使っていないようだな」

「そうだよ。カーライル、降参して。もう勝ち目はないんだから」


 コアンはカーライルに降参を促す。勝ち目のないカーライルをこれ以上傷つけたくなかったのである。


「どこからそんな風に思えた?お前のそんな言いぐさがムカつくんだよ!俺はそんなに弱くねえ!」


 カーライルは怒りをあらわにすると、ポケットから沢山の小さな鈴を取り出した。


「俺一人でも十分に勝てる。受けてみろ、このエルフの秘儀、五十鈴円陣殺」


 そう言うとカーライルは鈴を放り投げる。鈴は地面に落ちずに宙に浮いたままであり、その鈴がコアン達を取り囲んで音を発する。

 ルリがその鈴を見て驚嘆する。


「五十鈴円陣殺!?」

「知っているのかルリ?」


 フレイヤに訊ねられルリは頷くと説明を始めた。


 ――五十鈴円陣殺――


 古来、生物は目だけではなく音によっても距離を測ることに注目したエルフ族は、それを逆手にとって距離を誤認識させることを研究した。その結果生み出されたのが鈴を魔力で空中に浮遊させ、相手を囲むようにして音を鳴らすというものであった。初めてこの技を使ったエルフの魔法使いト・チギは一度に五十個の鈴を鳴らしたことから、これを五十鈴円陣殺と名付けたのだ。現在はその功績をたたえて、高上の敬称をつけてト・チギ五十鈴円陣高上と言われて、円陣殺を極めんとする者たちに崇拝されている。


 ――ミュンヘハウゼン男爵著『エルフ、その秘めたる歴史』より――


 ルリの説明を聞いてフレイヤの背中に冷たいものが走る。

 ニーナはそうは感じずに、不敵に笑った。


「どうだか?単に鈴を浮かべているだけかもね」

「ならば、かかってこい」


 ニーナの言葉を聞いてカーライルが挑発をする。


「言われなくても!」


 ニーナは大地を蹴ってカーライルに斬りかかる。が、その剣は空を斬った。


「どうした?俺はこっちだ」


 カーライルは余裕の笑みを浮かべた。ニーナが斬りかかるのと同時に、カーライルは横に移動した。当然ニーナの目はその動きを捉えており、そちらに向けて斬撃を放ったのである。しかし、結果は先ほどのように空を斬るにとどまった。


「どうだ。俺の技が虚仮ではないとわかっただろう。今度はこちらから行くぞ」


 そう言うとカーライルは攻撃に転じた。

 ナユタはその攻撃を受け止めようとして盾を構えようとしたが、それよりも早くカーライルの攻撃が襲い掛かった。距離感を見誤ったのだ。


「ぐっ」


 腕を斬られて血が噴き出すナユタ。慌ててルリが治癒魔法を使う。


「ま、こういうことだ。魔王軍のダークエルフにより伝授されたが、中々良いだろう?」


 カーライルは笑う。

 彼がこれを習得したのは魔王軍に所属してからであった。魔王軍に所属するダークエルフが五十鈴円陣殺の習得を目指しており、今は十個の鈴を操ることが出来た。それを見たカーライルも練習をして、先に五十個の鈴を操れるようになったのだ。


「貴様らはどうやっても俺には勝てぬ。この円陣殺の中で死ぬがよい」

「それはどうかのう」

「何?」


 メッテイヤがカーライルの言葉を否定する。すると、カーライルの顔が不快に変わった。


「貴様の五十鈴円陣殺には欠点がある。こんな弱い音(ね)ではとてもとても」

「何を馬鹿な。ではまず貴様から殺してやろう。鈴よもっと強く鳴り響け!」


 カーライルはさらに魔力を放ち、鈴を激しく揺らした。

 すると、鈴は割れて音を出せなくなってしまった。


「何だと!?」


 驚くカーライル。それを見てメッテイヤが笑う。


「五十鈴円陣殺の弱点は耐久性。これだけ振動があれば壊れるのもはやかろうて。まんまと口車にのって強い振動をだしてくれるとはのう」


 悔しさをにじませるカーライル。

 そして、その説明にコアンは納得した。


「五十鈴円陣は振動に弱くて耐久性がないのか」


 傍らにいる精霊も嬉しそうに話しかける。


「まあそういうことなんだけど、その発言は必ず『殺』をつけてね」

「どうして?」

「こっちの都合だよ」


 精霊の言うことがよくわからないコアンであったが、ひとまず窮地を脱したことで心に余裕が出来た。

 そしてカーライルに言う。


「カーライル。さあ、決着をつけようか」


【後書き】

実在の人物・団体・メーカーとは一切関係ありませんので、そこのところを間違えないように!

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