第8話 収納魔法

 コアンのコントロールプランのおかげで22階は難なく踏破した。スカウトのジャマーが23階へと続く階段のところでその感想を口にする。


「罠も敵もあっさり発見できたし、苦労ってもんがなかったな。なんていうか、今までの人生で一番うまくやれている。今までの苦労や努力はなんだったんだろうなあ」


 それにルリが相づちうつ。


「まったく。私なんて出番なしよ。誰一人かすり傷すら負わないんだもの」

「油断はするなよ」


 とフレイヤがくぎを刺した。

 が、そのフレイヤ本人もあまりのあっけなさに自戒しなければ、と心の緩みを自覚していたのである。

 コアンはといえば、紅夜叉のメンバーのレベルの高さに感心していた。コントロールプランがあるとはいえ、元々の技量の高さは伝わってくる。つい、インタクトのメンバーと比較してしまい、頭を振って彼らのことを忘れようとした。

 そして、一番後ろを歩くコアンのそうした仕草は誰にも見られることが無かった。

 23階では今までよりも強い魔物に遭遇することになった。


「前方にアースドラゴンが2匹」


 ジャマーが仲間に索敵結果を告げる。

 アースドラゴンは羽のないドラゴンである。その鱗はとても硬く、並みの剣士の攻撃は通用しない。モンスターランクはSSとなっており、Sランクパーティーの紅夜叉ではかなり苦労するか、最悪負ける可能性のある相手である。

 しかし、元々フレイヤは並みの剣士ではないし、今はコアンのスキルと武器でその能力が底上げされている。

 タンクのナユタが2匹のヘイトを集めるのを待たずに、フレイヤが前に飛び出した。


「右の首を落としてから、左のしっぽの攻撃が来ますので、それを倒したアースドラゴンの体の陰に隠れてやり過ごしてください。そうすれば左の方に隙が出来ますから、そちらの首を落としておわりです」


 コアンはコントロールプランによって作り出した工順を伝えた。

 フレイヤの口角が上がる。戦乙女に例えられることの多い彼女ではあるが、この時ばかりはバーサーカーが適切な例えであった。見ている者はパーティーメンバーしかいないが。

 そして、フレイヤはコアンの指示通りに右のアースドラゴンの首を一撃で斬り落とすと、その体の陰に隠れた。

 すると、先ほどまでいたアースドラゴンの首の下を、左のアースドラゴンのしっぽが通過する。

 その風圧で土埃が舞うが、フレイヤの視界を奪うようなものではなかった。


「素晴らしい」


 とフレイヤは一言口にした。

 そして、力強く地面を蹴ると、残ったアースドラゴンの首を目掛けて突進する。アースドラゴンは次撃を出すことなく、その首が地面に落ちた。

 ジャマーがヒューっと口笛を吹く。


「アースドラゴンがあっという間か。信じられねえな」

「かつてないほどの完璧な動きが出来ている。今なら魔王でも倒せそうだ」


 フレイヤはそう言いながら剣と倒したアースドラゴンを交互に見ていた。切断した首の断面と、剣の状態を確認して、刃こぼれせずにドラゴンの鱗を斬ったことがいまだに信じられないのだ。


「そうしたら俺たちが勇者パーティーだな」

「コアンあってのことだがな」


 フレイヤがコアンに笑顔を向けると、コアンは恥ずかしくなって慌てて目をそらした。

 アソウギとメッテイヤが倒したアースドラゴンの素材をはぎ取る作業に入る。


「この素材だけでも今回は大幅な黒字じゃな。全部持ち帰れんのが残念じゃが」

「まったくだ。残していく素材でも一生遊んで暮らせるくらいになりそうだな。収納魔法が使えればよかったのだが」


 それを聞いたコアンが二人に近寄る。


「収納魔法を使えるようにしましょうか?」

「出来るのか?」


 アソウギが素っ頓狂な声をあげた。


「すまん。いきなりそんなことを言われて驚いてしまってね」

「出来ますよ。コントロールプランで素材持ち帰りの項目を設定すれば、持ち帰る手段が作られます。今から大きな袋を用意出来ないので、おそらくは収納魔法が使えるようになるはずです」

「至れり尽くせりだな。頼む」


 アソウギに言われてコアンはコントロールプランのスキルを使って戦闘後に素材回収の項目を設定した。すぐに効果が現れて、アソウギは収納魔法が使えるようになる。


「あ、なんか収納魔法が使えるようになったのがわかる」


 アソウギは試しに収納魔法で手近な石を収納してみた。地面にあった石が瞬時に消える。そして、それを取り出そうと念じると、目の前に石が出現した。


「コントロールプランの発動中は何度でも収納と取り出しが出来ますが、それが無くなれば取り出したところで終わりです」


 コアンがそう説明すると、アソウギは残念そうに自分の手のひらを見つめた。


「永続じゃないのか」

「ごめんなさい」

「いや、責めてるわけじゃないから」


 コアンが深々と頭を下げて謝罪したのを見て、アソウギは慌てて否定した。ここでまたコアンの陰気な気持ちを起こしてしまい、帰ると言われてしまってはこの後に支障がでる。


「しかし驚きじゃな。収納魔法が使えるように出来るスキルがあるとは」


 メッテイヤがあごひげを触りながらコアンを見た。魔法を覚えるには師匠から教わるか魔導書を読むのが一般的な方法だ。収納魔法は使える魔法使いが殆どおらず、魔導書も出回っていない。さらに、覚える本人の適性もあって、使えるようになるのには、かなり難易度が高いのだ。

 それをわかっている魔法使いのマヤは興奮気味である。


「スキルの効果が消えても、収納魔法を使った感覚が残っていれば、あとは適性の問題よね。適性があれば自分で使えるようになると思うの!私も使ってみたい」

「今なら効果がありますから、大丈夫ですよ」


 コアンに言われてマヤは急いで収納魔法を使った。


「へえ、こういう形で術式を構築するのね。わかってしまえば、あとは自分でも出来ると思う」


 と魔法を使った感想を述べた。

 そして、コアンの顔をまじまじと見る。


「何か?」


 見られたコアンはマヤに訊ねた。

 すると彼女は笑う。


「コアン君と一緒にいたら、どれだけの魔法を使えるようになるのかなと思ってね」


 マヤとしてはこのチャンスにもっと多くの魔法を使えるようになりたいと思っていた。できることなら、コアンを固定メンバーとして迎えたいとも。




【後書き】

製品レイアウトしくじって、振動試験の評価でNGくらってなんかここまで更新ができない状況に。開発手順は守ろう。なろう系の後書きとしては不適切ですが。

 いやー、本当にやばかった。既存の開発プロジェクトが火を噴いているのに、ミュールが飛び込んできて。良いものなんて出来ないよね。

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