第3話 冒険者ギルドに雇われる
コアンたちがオーガジェネラルと戦っていたころ、別の場所ではカーライルたちがオーガロードと戦っていた。新たにタンクのズーを加えての初の戦闘だった。
ズーはSランクの冒険者であり、コアンが抜けたことで加わったメンバーである。物理攻撃を防ぐ役割を持った仲間がいなかったので、タンク役を募集したところ応募してきて、他の応募者との競争を勝ち抜き、最終的にメンバーとなったのである。
そんなズーにオーガロードの一撃が襲い掛かる。ロードの持っている大剣が容赦なく、ズーの構える盾にぶつかった。
「ぐあっ」
あまりの衝撃に歯を食いしばったズーが吹き飛ばされた。
「オーガロードごときに手間取るな!」
カーライルのしっ責が飛ぶ。
タンクのいなくなった前衛は、オーガロードの振り回す大剣のせいで、接近して攻撃が出来ない。
そこにニーナは違和感を感じていた。
「今日に限ってこの程度の相手の懐に飛び込めないなんて」
「小娘、この程度とは言ってくれるではないか」
オーガロードが格下に見られたことに不快感をあらわにする。オーガロードといえば、SSランクのパーティーで対応するくらいの強敵だ。ただ、魔王軍の四天王を倒した勇者パーティーであれば、四天王よりも格下のオーガロードを見下すのも当然であった。
「初めてのメンバーで連携がうまくいってないだけだ。四天王を倒して気が緩んでいるんだ」
カーライルはニーナもしっ責した。
ただ、そう言うカーライル自身もいままでとは違うという違和感はあった。その正体まではわからなかったが。
結局力押しでオーガロードを倒すことになった。その過程でカーライルもニーナも傷を負ってしまった。インタクトの名前がついてから初めての傷を負ったことに、王都ではちょっとした騒ぎとなったのだった。
そんなことがあるとは知らず、コアンたちはオーガジェネラルの魔石を取り出す作業をしていた。コアンの包丁を使って、ドットが体内から魔石を取り出す。
「オーガジェネラルの魔石なんて、売ったらしばらくは遊んで暮らせそうね」
「Bランクパーティーの俺たちが冒険者ギルドに持ち込んだら、どこで拾ったのかって聞かれそうだな。誰も倒したとは思わないだろうぜ」
アリエッタとドットは会話しながら作業を進める。アリエッタは見ているだけで作業はしていないが。依頼主の商人も興味深げに、おそらくは一生見ないであろうオーガジェネラルの死体を眺めていた。
「牙は素材として使えそうなので売ってもらえないか?護衛の代金に上乗せさせてもらうよ」
その提案にチャックが素早く頷いた。
「そうしてもらえると助かりますがね。金額は弾んでもらいますぜ」
「勿論だ。これを値切ったら商人仲間に笑われる」
値段交渉を終えたころ、ドットの解体も終わった。コアンは包丁を受け取ると、ついた血を落とすために洗おうと、小川を探しに行った。
コアンがいなくなったところで、青いバラのメンバーは直前の戦いについて振り返る。
ドットが最初に口を開いた。
「荷物運びしかできない無能と聞いていたが、世間の評価はあてにならんな。あれはとんでもない逸材だ。俺たちがオーガジェネラルを無傷で倒せるような支援魔法って言えばいいのか。そんなものが存在するとは思えなかった。あれならFランクの初心者でも魔王を倒せる気がするぜ」
一同が頷く。
続いてアリエッタが
「でも、どうやらその価値に自分で気付いていなそうなのよね。気づいていたら勇者だってパーティーから追放するなんてしないでしょうし、コアンも自分のスキルをアピールするはずよ」
と言った。
「わしらと違って、勇者パーティーのメンバーは個人個人がSSSランクの冒険者のようなもんじゃろ。案外そのせいでコアンのスキルの有難味がわからんかったのかもしれんの」
とドーンがひげを撫でながら想像したことを口にした。
そして、それが正解だった。カーライルもニーナも勇者と剣聖というギフトのおかげで高い身体能力を有しており、本人も周囲も無傷で敵を倒せてあたりまえと思っていたのである。
チャックはヘラヘラと笑いながら、コアンをパーティーに誘うことを提案した。
「あいつを正式に仲間に加えたらどうだ?俺たちが一生怪我をすることなく高ランクのパーティー向けの依頼をこなし続けられるぜ」
「そうなったら、私は用なしじゃない」
キャロルが肘でチャックをつつく。回復役の彼女としては、パーティーが無傷ならば仕事は無い。支援魔法も使えるのだが、それですらコアンがいれば事足りる。
コアンを誘う誘わないでわいわいやっていると、ブラハムが突然真面目な顔でメンバーに質問した。
「なあ、コアンは自分自身にスキルを使ったことはないのかな?無能だなんだと言われているのは、戦闘で役に立っていないってことだろう。だけど、あのスキルなら役に立てなかったっていうのは不自然だ」
「あっ、それ気になる」
アリエッタもブラハムの疑問に賛同した。そして、他のメンバーも次々と賛同する。
そうしていると、包丁を洗い終わったコアンがやって来た。
ドットはみんなが疑問に思っていたことをコアンに聞いてみた。
「なあ、コアン。お前のスキルを自分自身に使ったことはあるか?」
「ありますよ。この包丁を作る時とか、カーライルやニーナ、あっ、勇者や剣聖の剣を作る時は、スキルを使って最高の一本を作るようにしていました」
「あー、だからその包丁はすげー切れ味なのか。って、まあそうなんだが、戦闘についてはどうだ?」
「それについては、無いですね。プロセスフローが導き出す、最良のフローが勇者と剣聖による攻撃ですから」
コアンに言われて一同は納得した。モンスターとの戦いにおいて、勇者パーティーのメンバーでの最適解は、勇者と剣聖が攻撃することである。そこに、工程設定者であるコアンが加わることは無い。だから、コアンが戦闘に参加したことは無かったのだ。
ただし、包丁や武器を作る時に、自分にスキルを使っていたので、そう出来るということはわかっている。
「なあ、コアンさえ良ければ俺たちのパーティーに加わらないか?」
ドットの問いにコアンは首を横に振る。
「しばらくは誰かとパーティーを組むつもりはありません」
コアンに拒否されて、ドットは食い下がることはせずに諦めた。
直近でコアンに起こったことを考えれば、誰かとパーティーを組むのを躊躇する気持ちもわかるからである。
その後、バーミンまでは特に問題もなく、無事に到着した。
青いバラは冒険者ギルドに護衛任務完了と、オーガジェネラルが出現した情報を報告した。すると、受付嬢から奥の部屋に来るように言われる。なお、コアンは正式なメンバーではないので、一緒には行かなかった。報酬の分け前をもらうまでは、冒険者ギルドの中でドットたちの帰りを待つことになっている。
一行が奥の部屋に入ると、そこにはバーミンの冒険者ギルドのギルドマスターがいた。
元Sランクの冒険者であったギルドマスターは、初老ながらも筋骨隆々で衰えを感じさせない。そんな彼が待ち構えていたのだ。
ギルドマスターは青いバラをギロリと睨む。
「俺はここのギルドマスターをしているゴーデスだ。聞きたいことがあってな」
そう言われると、青いバラのメンバーは何を聞かれるのか想像がついた。
ゴーデスが続ける。
「オーガジェネラルと遭遇、そしてそれを討伐して魔石を持ち帰った。それもBランクパーティーがな。これがSランクの冒険者だったら俺も何も言わないが、Bランクパーティーがとなると、事情を確認する必要がある。ただ、魔石が偽物だって思っているわけじゃない。鑑定の結果本物だという報告は受けているからな」
嘘を言ったらただじゃすまないという雰囲気が伝わってきた。威圧的な雰囲気の中で、メンバーたちはリーダーであるドットの顔を見た。暗にリーダーが説明してくれと言っているのだ。
ドットはメンバーに後押しされて、ギルドマスターに説明をはじめた。
「実は、俺たちと一緒にバーミンまで来た冒険者がいるんだ」
「ほう、そいつがSランクの冒険者なのか」
「いや、Fランクだ」
Fランクと聞いてゴーデスは声を荒げた。
「Fランクだと!それが何か関係があるのか!」
「話は最後まで聞いてもらわないと。確かにFランクだけど、勇者パーティーのメンバーだった男だ。それが勇者パーティーを追放されてすぐに、王都の冒険者ギルドで冒険者登録をしたからFランクなんだ。ちょうどその登録の時に俺たちがその場に居合わせて、バーミンまで一緒に商人の護衛をしながら移動することになったんだ」
「勇者パーティーのメンバーか。で、それはどの勇者パーティーだ?青か?赤か?緑か?」
「青の勇者、カーライルのパーティーだよ」
ドットに言われて、ゴーデスはカーライルのパーティーメンバーを頭に思い浮かべる。
「あそこで追放されそうなのは、無能の荷物運びか」
「その通り。だけど、実は無能じゃなかった」
「まさか。勇者と同郷ってだけで同じパーティーにいただけだろう」
「それが世間の評判だな。だけどそれは間違いだ。コアンっていうんだが、あいつのスキルはとんでもない。なにせ、俺たちがオーガジェネラルに勝てるような状況を作り出すんだからな。わかるように言うとすれば、超強力な支援魔法だ。青の勇者のパーティーがインタクトって呼ばれているが、それはコアンのスキルによるものだと思っている」
ドットの説明に、ゴーデスは信じられないと首を振った。
「そんな報告、どこにもあがってないだろう。それが本当なら国王や冒険者ギルドの上層部が知らないわけがない」
「たぶんだけど、勇者や剣聖なら強くて当たり前という先入観が、コアンのスキルを見逃しすことになった原因だ。ひょっとしたら勇者自身も気づいてないかもしれないぜ」
ドットの説明を信じられないゴーデスであったが、Bランクパーティーが無傷でオーガジェネラルの魔石を持ってきたことを考えれば、それが正解なのだろうと納得するしかなかった。
「で、そのコアンってやつは今どこにいるんだ?」
「受付付近で俺たちが出てくるのを待っている。報酬をわける約束だからな」
「なるほど。で、バーミンまでやってきて何をするつもりだ?」
「さあ。パーティーに誘ってみたけど断られたよ」
コアンがこれから何をやりたいのかはドットが知るわけもなく、ゴーデスの質問には肩をすくめてみせるだけだった。
訊いたゴーデスも、ドットの態度にそれもそうかと納得した。
「事情はわかった。本来安全なはずの街道にオーガジェネラルが出たのも気になるが、勇者パーティーを追放された逸材が身近にいるのだから、それを手に入れる方が優先だな。ここに呼んでもらえるか?」
「それはかまわないが、俺たちが報酬をわけてからでもいいか?話が長くなるかどうかもわからないから、先にこちらの用事を済ませてしまいたい」
「それでいい」
話が付いたところで、青いバラのメンバーは受付へと戻った。
「コアン、待たせたな」
「いえ。そんなに待ってませんよ」
「それならよかった。ほら、これがお前の取り分だ。中身を確認してくれ」
ドットは金貨の入った袋をコアンに手渡した。
コアンは中に金貨が入っているのを確認すると、それを背負い袋に仕舞った。
「枚数を確認しなくてもいいのか?」
「手に持った時の重量でわかりますよ。中を見たのは金貨以外が入ってないかの確認です」
金貨の重量は国で厳しく管理されているため、重量でその枚数を把握することは出来る。工場における数量の管理を、重量で代用しているのと同じように、コアンは手に持った重量で枚数を確認したのだ。
これもコントロールプランによる効果である。
「じゃあ、俺たちはここでしばらく活動するから、拠点となる宿を探しに行く。コアンはギルドマスターが呼んでいたから、奥の部屋に行ってくれ」
「ギルドマスターが?」
「ああ。話があるらしいぜ」
コアンにはギルドマスターに呼ばれる心当たりがなかったため、何を言われるのかと不安になった。そんな空気を察知したドットは
「悪い話じゃないと思うぜ。顔が怖いから勘違いするかもしれねえけど」
とコアンを安心させた。
コアンはドットたち青いバラと別れて、奥の部屋に行く。
そこにはギルドマスターのゴーデスが待っていた。
「コアンです。呼ばれたのでやってきました」
「俺がここのギルドマスターのゴーデスだ。なに、青いバラの連中から話を聞いてな。バーミンで仕事のあてが無ければ、うちで働かないかと思ってな。料理が得意なんだってな。ギルドが経営している食堂でコックを募集しようと思っていたところだ」
思わぬ提案にコアンは戸惑ったが、特に仕事のあてもなかったのでそれに飛びついた。
「お願いします」
「宿もないんだろう。それもギルドが経営している宿の一室を貸す。給料天引きだけどいいか?」
「ええ。探す手間が省けてちょうどいいです」
冒険者ギルドは隣接する宿を経営しており、そこの一階が食堂になっていた。コアンはそこに就職が決まった。
こうしてコアンはバーミンの冒険者ギルドで働くことになったのである。
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