仕方ない、ずっと構ってあげる。
第21話 そして、日曜日
土曜日のうちに、彼女と彼はメールでいくらかやり取りした。
とにかく、昼の11時には岡山駅前のGホテルに来るようにとのこと。そこには彼女の両親がやってくる。実は彼も自分の母親をその地に呼んでいた。さすがにそれはサプライズというわけにはいかないので、彼女にすぐ伝えた。
もっとも、彼の父親に関しては、母親との関係があるため伝えていない。というよりすでに故人であるため、この地に来ようがない。もっとも彼は、自宅にある父の遺影にその旨の挨拶はしていたのだが。
日曜日の朝。
彼は夜明けとともに起きだし、テレビのチャンネルだけは合わせておいた。消音にしたまま、入念に身だしなみを整えていく。
やがて、8時30分。今日のプリキュアが始まった。
何と、マフラー=編み物 が今回のテーマ。
中学入学と同時に家庭科無罪放免だった彼が編み物などするわけもない。加えてそんなものを編んでくれる彼女がいるわけもないまま50年以上生きてきた。自らの尊厳を維持向上させ、この世で生きていくために。その彼の市井はまさに、パリ五輪で金メダルを目指したハロルド・エイブラハムズを描いたあの映画を現代の日本で再現するかのようなものであった。
縁談を実力粉砕し、取込もうとした者たちに苛烈に当たって生きてきた彼だが、彼女の前ではそのような要素を出したりはしない。
とはいえ、抜き身でこそないものの見る者が見ればそんな要素を持っていていざとなればいつでも抜刀できるだけの準備ができていることを、彼を改めて取巻き始めた彼女の周囲の人たちはすでに感じ取っている。
ダブルのスーツに手結びの蝶ネクタイ。鼈甲風のカフスボタンにダブルカフスのワイシャツと、彼基準にてビシッと決め、正式用として使用するジョンレノンブランドのセルロイドの黒の丸眼鏡。
さらに彼は鞄にパソコン一式を入れ、Gホテルに向かうことに。
9時35分、彼はすでにテレビの電源を落としている。
そして10時前、エアコンの電源も落とし、彼は岡山駅前へと出発しようとしたそのとき、彼女からの電話が入った。
「キヨくん、うちまで迎えに行くから待っていて」
彼女はすでに彼の住所を知っている。どうやら今日は、岡山駅からタクシーで迎えに来るとのこと。ほどなく女性一人を乗せたタクシーがアパート前に。彼はそれまでに自宅の戸締りを済ませ、自転車置場の前で待っていた。
「ほな、Gホテルまでお願いしまっさ」
行先は既に聞かされているとはいえ、彼はそれを運転手に伝えた。
タクシーに乗ること10分程度。新婚夫婦は目的地のホテルに到着した。
これから2日間、彼らはこのホテルで過ごすことになっている。
1階のラウンジにはすでに、二人の親たちが集っている。
3人の新郎新婦の親たちの彼への最初の言葉は、妻の父親のこの言葉だった。
「貴君が噂の、プリキュアおじさんですね?」
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