第20話 怖くない、怖くない
「怖くない、怖くない、・・・」
彼の言葉を、彼女が反芻するようにつぶやく。
彼女はそれがプリキュアから来ている言葉とは気づいていない模様。彼がその手のアニメをずっと見ているのは彼の話などからすでに知っているものの、だからと言って今のプリキュアの内容まで知っているわけではない。
「怖くない。それはほんの一時の刹那。由佳ちゃんの今のその恐怖感は、ときとともに薄れて過去のものとなっていく。これが何らかの結果をともなうものであったとしても、それはその事実のみが未来永劫残るだけ。いっときの、ユメマボロシに過ぎないものなのよ。どうか安心して、その恐怖と向き合ってごらんよ」
彼の声に、彼女は電話口の向こうで頷いた。
「そろそろ寝た方がええやろ。明日は遅番かもしれんけど、土曜日やからそれなりに忙しいのと違う?」
彼女はすっかり安心したのか、彼の声に少し吹っ切れたような声で答えた。
「わかった。もう寝る。おやすみ、キヨくん」
「じゃあ由佳ちゃん、おやすみ。日曜の朝10時には電話かける。それまでは御免けどプリキュアがあるから無理や。メールはいつでもチェックしているからね」
「そうしよ。じゃあ、プリキュアおじさん、よろしく」
そこでプリキュアおじさんはないだろうと思いながら、彼は電話を切った。
彼女はその御実家の布団に戻ってぐっすりと眠った。
彼のほうは、これから約3時間ほど執筆の仕事に費やした。それから夜明けまでのしばらくの間、彼は再び横になって仮眠をむさぼった。
「怖くない、怖くない」
別に怖いものなど目の前にあるわけでもないが、彼もまた、横になったまま、あの少女の変身時の声を反芻した。
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