第11話 今日のうちに、もう一回
食べ終わって少しくつろいでいる頃。まだ宵の口。午後6時を少し回った頃。
早めに食事を終えた彼らの姿は、何処にでもいる仲の良い中年夫婦とそう変わらない。それでもあえて違いを述べれば、このような形で過ごしているのはお互いの人生で初めてであるということだけか。そういうことであれば、年を取って再婚もしくは初婚で新婚生活を始めた夫婦と言ってもいいかもしれない。
ある程度仕事を進めて仕事の手を休めている夫が、妻に言う。
「由佳ちゃん、折角だから今日のうちにもう一回」
彼女が思わず顔を赤らめ、頷く。
「待ってキヨくん、自分で脱がさせて。そっちも自分でやってよ」
お互い自らの自由意思で、ひとつになる方向に向かい始めた。程なく彼らは平等に55年前に生まれてきたとおりの姿に戻った。ただしまだ、二人ともメガネはかけたまま。どちらも、パソコンのブルーライトをカットするレンズのものである。
今度は彼が、彼女の唇を少し激しめに奪う。彼、こんな積極的に女の子に迫ることなんてあったのかしら。どこか冷静で冷めた目と意識で相手を見ているところが感じられてならない彼の意外な一面を感じつつ、彼女は自らの身体を任せる。
彼女は何とか、彼の意思に反する液体の動きを阻止するための防具を一つ取出すことができた。待ってと一言、言うが早いか立ったままの状態の彼の突起物に舌を這わせ、やがて口全体で優しく包み込んで愛撫する。その姿に心底興奮しているであろう彼は、彼女の頭を両手で抑えている。彼の手の感覚が、彼女の様々な思いを刺激する。そして彼女は時々その突起物の下にも下を這わせ、球状のふたつの物体を交互に吸っては音を立てて吐出し、また吸っては吐く。そして突起物のほうへと舌を這わせもするが、またも口の中にその物体を咥え込み、舌を這わせる。
いやらしい音が二人の耳にだけ響いた。彼の突起物の元気が程よいところまで増したのを見計らい、彼女はゴム製品の袋を破って取出し、彼のその物体に覆い被せたと同時に、その上からもう一度自らの口で加えて確認した。
彼は眼鏡をはずして机の上に置いた。彼女は依然、メガネをかけたままである。彼女のそのメガネが、自らの欲情をさらに掻き立てている。
「随分、由佳にいやらしいことをさせてくれたわね」
「そンなこと言いながら、そういうことしたかったンじゃないの。他でもないぼく相手に。じゃなきゃ、あんな激しく吸ったり吐いたり舐めまわしたりせんだろ」
「まあね。ふふふ。それなら今度は由佳が上から攻めてあげる。キヨくんはベッドに横になって。ほら」
彼女は軽く彼の唇を奪い、自分の子を寝かしつけるかのように彼を自分のベッドに寝かしつけた。そこでかけていたメガネを取ってベッドの横に置き、彼女は彼の前に向いたまま腰のあたりにまたがり、固く大きくなっていきり立つ彼の突起物を自らの柔らかい手で握り、自らの身体の出入口にゆっくりと差込んだ。
彼女は思わず、声を出してしまった。それを聞いた彼の興奮すまいことか。彼女の腰に両腕を回し、ゆっくりしかし激しく彼女の腰を上下に振らせる。再び、彼女が声を上げる。やがて彼女は腰をかがめ、彼の顔の上に自らの顔を近づける。
「風俗のお店で、度々そういうことしてもらってンでしょ」
彼はその問いに答えることなく、彼女を抱き寄せてその唇を奪うと同時に、両手で軽く彼女の左右の腰あたりを軽く叩いた。
「そういう自分だって、他の男と」
今度は彼女のほうが、彼の唇を奪う。やがて男女の向きが逆転した。それでも上半身を互いに寄せ合ったまま、それぞれ絶頂へと達した。
お互い長年にわたって憎からず気になって来た男女だけのことはある。互いに果て切った後も、しばらく彼らはそのままの状態で抱き合っていた。
「また沢山、出してくれたね」
彼女はメガネをかけ直し、ゴムを彼の突起物からやさしく外し、外れた後の彼の物体についた液体をふき取ったそのティッシュペーパーで包んでゴミ箱へ送った。いきり立っていたその物体も、彼女に搾り取られて神妙そうに小さくなっている。
「お風呂、もう一回はいろ」
彼女の提案に、彼は二つ返事でともに風呂場へと向かった。まだ19時には至っていない。盛り場ならまだこれからの宵の口と言ってもいい時間帯。
ぬるくなったままの湯船につかりながら、二人は余韻を楽しんでいる。
「明日わし、いったん岡山に戻るわ。明日仕事でしょ?」
「うん。今度は来週の火曜と水曜がお休みだけど、どうしよう。月曜日は少し早めのシフトだから夕方には帰って来れる。居酒屋なんか行ってないでうちに早めに来て。木曜日は遅めのシフトだから朝は少しゆっくりできるよ。2日間、一緒にあちこち行こ。クルマもあるし、何だったら岡山のあの小学校まで行ってみない?」
「いいな、それ。何だったら近くにクルマを置いて歩いてみるといいや。わし、実は今年の春の連休のときに何十年ぶりかにあの小学校の校門まで自転車で行ってきた。旅行記のサイトにそれうP(うぷ)しているの、見た?」
「見たよ。懐かしかった。由佳も行ってみたい」
「じゃあ、ぼくが案内するから、行こう」
かくして風呂場でお互い裸のまま、次の週の予定は決まった。
「明日はどうせ遅番。今日は、帰さんけんね」
彼女の言葉に、彼が一言。
「ぼくがお持ち帰りされちゃったみたいや」
「女の子をお持ち帰りしたことなんか、本当は1回もないンでしょ?」
どうやら図星の模様。彼は黙って、体を拭いて彼女の用意した部屋着に着替え、自分のパソコンを立上げてメールチェックと作業にいそしむ。
あっという間に、次の小説のパートが仕上がった。
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