第4話 彼・彼女のことを、もっと知りたい。

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 その後、メガネ熟女は遅くまで自宅の自分のノートパソコンを開いていた。

 彼の書いた文章を隅から隅まで読み込むかのように、ネットに公開された作品群を読み漁った。


 あの子のこと、彼、米河清治という人物を、もっともっと、知りたい。

 それには、作品を読むことが一番早い。

 本はかれこれ買って読んでいるから、大体のことはわかる。


 彼女は最近の作品にも目を通した。

 なんかこの数か月で、彼の作品に明らかな変化がみられる。

 いわゆる「性描写」が見られ始めたこと。それに加え、鉄道の絡む場面での知識が虚実相いれ合う世界の中でものの見事に昇華されている。私の知らない頃の少年時代の彼なら、もっと抜き身で切りかかるような知識の出し方をしていたはず。だけど今のあの子なら、あのくらいのことは書いてくるかも。刀を抜くことなく相手を追い詰めるような力を、あの人は持ち合わせている。

 小学生の頃の自分にちょっかいをかけてくるように寄って来たあの子と、今ここでこれだけの文章を書きまくっている中年男性。あの子と今日話した彼は、本当に同一人物なのだろうか。私には、まだ判断がつきかねる。彼の服装や顔つきは、もうしっかりブログで見ている。いまさら見るほどのこともない。

 そう思いつつも見るほどに、あの頃のあの少年にはなかった強烈なこだわりが随所からあふれ出していることを、嫌というほど感じさせられる。

 例えば自分の眼鏡店で彼の意に沿わないものを売ろうとしたら、怒るだろうな。そう言えば彼、金属アレルギーで金属物のフレームは無理と言っていた。由佳のこの眼鏡、たぶん彼と同じくらいの度数だと思うけど、これはあの子にはかけさせられないわね。ペアにするなら、私がセルロイドにしなきゃ。

 しかし、アダルトビデオが趣味なんて、例えでも出すんじゃなかったかも。

 興味が全くないとは言わない。確かに女性にしてはよく観るほうかもしれないけれど、一番の趣味ってほどでもない。あの子の鉄道に対する感覚のようなものなんて、あの手のビデオに対してあるわけないもん。


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 一方こちらは作家氏宅。

 彼女より送られてきたメールと先ほどの電話でのやり取りに加え、小学生のときと今の彼女の写真を読み、見てはひたすら自分なりに分析している。


 彼女の髪型、案外変わっているとは思えない。おかっぱ頭に近かったのが、いささか妖艶さを加えたセミロングのストレート。来ている服はスーツなどではなく、いかにも夏物の薄手の色のもの。上半身までしかわからないが、少なくとも今では成人女性らしくそれなりのふくらみが写真からもうかがえる。

 こんなこと指摘したら、あの娘(こ)怒るかなぁ。可愛い女の子にちょっかいを出す少年みたいに思われるのも嫌だし。

 しかしなぜ、眼鏡店なんかに就職したのかな。あのクラスで眼鏡をかけていたのはあの子ともう一人、女の子がいたよな、あの娘とも仲の良かった少女。彼女のほうがもう少し彼女より背が高かったっけ。その女性の同姓同名のそれらしき人は、ネットで確認できた。どうやら公務員でそれなりの役職についているみたいだ。彼女とあの娘がつながっていたら確実にわかったと思われるが、結局そこには至っていないまま今日を迎えた。


 しかし由佳ちゃん、アダルトビデオを見るのが趣味だったらとか、実質初対面に近い同年代の男に向って随分と挑発的な例え、出していたよな。

 なんでまた、わしにそんなことを例えとはいえ持出すのか。

 それが嘘であって欲しいのが半分。でも事実だとしたらどうかな?

 それはそれで自分としては彼女の意外な一面を知れた喜びが湧き出すかも。

 現に彼女は自分がセーラームーンやプリキュアを観ていることに同じような思いを抱いたみたいでもあるし。こっちは例えでも何でもない。れっきとした事実で、多くの人に知られた話でさえある。


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