Phase.008『 龍神慶歌と新しい家族 』
「――龍を投げ飛ばす経験は、なかなかできるものではないなぁ。
次郎もまた、輝く粒子たちを見送りつつ、静かに笑い、
「二度とないと思いますよ」
と、言った。
京香はそれに満足げに頷くと、次いで
「どうだ。慶歌。――祭りは楽しめたかな?」
慶歌は頷き、嬉しそうに鳴く。
[うむ。とても楽しめた。慶歌の願いを叶えてくれて本当にありがとう。――約束通り、慶歌はこれで家に帰るよ]
そんな慶歌に、京香は
「うむうむ!
そして、京香に慶歌がまたひとつ嬉しそうに鳴くと、京香と共に訓練場に下りてきていた
「天宮城総隊長様。異能隊の皆様。この度は、僕らにお力をお貸しくださり、そして、慶歌の
春摩は、深々と頭を下げる。
京香はそれに、優しく笑んでは言った。
「うむ。我が隊の力が役に立ったようで何よりだ」
春摩はそこで、ゆっくりと頭を上げる。
そして、京香に今一度礼を告げると、さらに続けた。
「――それでその、我々は皆様に比べれば非常に非力ではありますが、今回の御礼もさせて頂きたいので、――今後、僕達でお役に立てる事がありましたら、その際はいつでもお声がけください……! 全力でご協力させて頂きます!」
すると、京香はそれに嬉しそうに言った。
「おお! そうか、そうか! それは、ありがたい申し出だ! ――私としても、是非とも諸君らに力を借してもらいたいと思っていたところでな」
そんな京香の言葉に、春摩は背筋を伸ばして言った。
「そ、そうだったのですね! 光栄です! 僕達でお役に立てる事でしたら、いつでも――」
「――今すぐに」
「あ、今すぐに! はい! それは、もちろ――……え? い、今すぐに?」
ー Phase.008『 龍神慶歌と新しい家族 』ー
動揺する春摩を前に、京香はにやりと笑う。
「ふふふ。そうだ。今すぐに――だ」
その京香の言葉に、春摩はさらに動揺する。
「え、ええっと、そ、それは具体的に、どのような事で……?」
動揺しながらも何とか春摩が問うと、京香は満足気な表情で両手を腰に当てる。
「うむ。まぁ、我が隊は人員不足ではないし、スタッフも十二分に足りている。――とはいえ、私は常、才ある者たちには目がないのだ。それゆえ、これほどまでに素晴らしい自立型プログラムを生み出してしまうような秀才たちを、私営ラボに置いておく事がもどかしくてな」
「な、なるほど……こ、光栄です……?」
「うむ。――と、いうコトで、だ。春摩博士」
「は、はい……?」
「春摩博士と、博士率いる春摩研究所の秀才達には、今日から我が隊の一員となり、是非、この異能隊本部のラボで、諸君らの研究を続けてほしい! ――と、思っているのだが……――どうだろうか? 春摩博士」
「は、いや、え、……ええ?」
京香の申し出に、春摩はさらに動揺した。
しかし、そんな春摩を置き去りに、京香は続ける。
「我が隊の一員にさえなってくれれば、諸君らの研究費用も設備もすべて我が隊から提供できる。つまり、今後、諸君らは一切のコストを気にする事なく、かつ、我が隊の秀才たちと共に研究に臨んでゆける上、この慶歌にもより大きな住まいを与える事も可能なのだが……――いかがかな? 春摩博士。 ――是非とも、我が隊に加わってはもらえないだろうか?」
京香は首を傾げ、にこりと笑む。
そんな京香に対し、春摩はたどたどしく言葉を紡ぐ。
「そ、それはもう、断る理由がないというか、その……、ほ、本当に、本当によろしいのですか? もちろん、僕は嬉しいですし、きっと皆も――」
春摩はそこで、観覧エリアの仲間たちを見る。
すると、京香との会話音声を聞いていた春摩の仲間たちは、両腕で丸を作ったり、親指を立てたりして、喜びと賛同の意を表現していた。
そんな仲間たちの意を受け取り、春摩は京香に向き直り言った。
「あの通りです! ですから、こんな素敵な申し出――、僕も皆も、こちらからお願いさせて頂きたいくらい嬉しい申し出です! 是非、受け取らせてください!」
そして、春摩が今一度頭を下げると、京香は嬉しそうに言った。
「おお! そうか、そうか! それは良かった! ――では、必要な機材や設備はもちろんだが、希望する者には住まいも我々から提供しよう。――無論、研究所や君達の引っ越しにおいても我が隊が全面サポートするぞ」
その京香の言葉に、春摩は再び目を丸くする。
「えぇ!? そ、そんなところまで!? ――し、信じられない。あ、ありあとうござ――」
そして、春摩が礼を告げようとすると、それを遮るようにして京香が言った。
「ただし」
「えっ……」
「――ひとつ、条件がある」
「な……、なんでしょうか……」
春摩がそれに再び動揺しながら尋ねると、京香はひとつ頷き言った。
「うむ。――君達も知っての通り、我が隊はあくまでも、この
「は、はい」
「――よって、仁本や世界の平和を脅かすような活動を行った場合は、我が隊の家族とて一切の容赦はできん。――最悪の場合、命を奪う必要すら出てくるのだが、――その点は、問題ないかね?」
そんな京香の言葉を恐る恐る聞いていた春摩だが、最後まで聞き終えると、やや緊張感のある様子で背筋を伸ばし、言った。
「そ、それはもちろん!! 一切、問題ありません!!」
春摩は、一度仲間たちと視線を交わし合い、続ける。
「――僕達は、第一に、科学や研究が好きで科学者になりましたが、皆、自分達の技術や知識を誰かのために使って、誰かの役に立ちたくて科学者を続けているんです。――人間だけじゃない。――自然や動物たち、地球や宇宙のすべてが平和になり、すべての存在が平和に共存できる世界を、僕らは切に望んでいます。――ですから、平和を脅かすような研究は絶対にしませんし、もし、何かしらの事故で人が変わり、僕が平和を脅かすような人間になってしまったとしたら――、その時はすぐに殺してください。僕がそんな人間になってしまったとしたら僕は――、そんな僕を、この世に置いてはおけませんから」
京香は頷く。
「そうか、そうか。博士の口からそれを聞けて安心した。――だが逆に、我らの同志である限りは、諸君の安全、そして、この慶歌の安全も、我が隊が責任をもって守ると約束しよう。――ゆえ、諸君も我々を信頼してくれると嬉しい」
そして、京香が凛と笑むと、春摩は力強く頷いた。
「は、はい……! それはもちろん!! ――本当に、本当にありがとうございます!」
京香は再び満足げに頷く。
「うむうむ」
そして、次郎・
「さて! ――と、いうわけで、我が隊が誇る、精鋭諸君! 今日から新たに、才ある家族がこんなにも増える事となった! これも、諸君らの素晴らしい働きのおかげだ! 心から感謝する! 此度も大変ご苦労であった! ――褒美は弾むぞ~!!」
そんな総隊長からの称賛を受けた隊員達は、それぞれらしい様子で喜び、京香に応じた。
そうして、その場が気が一段と晴れ晴れしくなった時。
「良かったな。
不意に、その場の誰の記憶にもない声が音を紡いだ。
「うん! ――って……、えぇ!?」
思わず頷いたものの、すぐさま異変に気付いた春摩は驚きの声をあげ、咄嗟にその声の主を見上げた。
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