Phase.007『 龍攘戌搏の戦いごっこ 』

 

 

 

 地下訓練場にて行われる龍神と人間の戦いごっこは、二人一組のバディが入れ替わりで手合わせを行う交代制で進行される事となった。

「――さてさて、それじゃあ一組目は俺らだけど」

 第一戦目に戦闘を行う二人は、観覧エリアの仲間たちに見守られながら慶歌けいかの前に歩み出た。

「一応、自己紹介しておきますかね」

 

 

ー Phase.007『 龍攘戌搏りゅうじょういはくの戦いごっこ 』ー

 

 

「やぁやぁ、初めまして、慶歌クン。――俺の名前は、歴利れきり燈哉とうや。一戦目、ヨロシクね」

「初めまして、慶歌くん! 俺は、正月まさつき春丞しゅんすけ。よろしく~!」

 一戦目を担当するバディ――燈哉・春丞が、それぞれらしい様子で手を振り挨拶をすると、慶歌は嬉しそうに鳴き、二人に綴った。

[初めまして、燈哉、春丞。慶歌と遊んでくれてとても嬉しい。こちらこそよろしく。二人には、彼らと手合わせをしてほしい]

 そして、挨拶を終えた慶歌はその場に光る粒子を生じると、慶歌と同じ天色あまいろの獣を二体生成した。

「おお~」

「すげぇ~! マジでゲームだ~!」

 春丞の前には額の一角が神々しい大きな馬型魔獣、燈哉の前には大きな羊型魔獣が凛々しく佇む。

「こりゃすげぇわ。マジでこんなかっけぇのと戦えんのか~」

「ワクワクしてきた……」

 燈哉・春丞は、そんな天色の魔獣たちを見上げ、嬉しそうに言った。

 慶歌はそれに嬉しそうに鳴き、二人に綴る。

[そう言ってもらえると、慶歌も嬉しい]

 燈哉は、そんな慶歌に微笑み返す。

 そして、軽く準備運動をし、

「よし。――それじゃ、後ろも詰まってるし。そろそろ始めますか」

 と、燈哉が言うと、屈伸運動をしていた春丞も、

「うんうん。始めよう、始めよう~」

 と頷きながら、羽織っていた上着のチャックをすべて開け放った。

[うむ。始めよう]

 そして、慶歌も二人に頷くと、次いで高く浮上した。

 燈哉は、両脚に備えていた数本の伸縮型の小さなスティックの中から一本ずつを抜き出すと、言った。

「それじゃ。いつでもドーゾ」

 その燈哉に続き、その身を人型の大柄な銀狼へと変えた春丞は、鋭い爪を備えた大きな手を振った。

「どっからでもかかってこ~い」

 すると、それぞれが戦闘への備えを終えたところで、二体の魔獣が勢いよく天を仰ぎ、大きく吼えた。

 その咆哮は、四者の開戦の合図となった――。

 

 そして、それから四者は、互いに跳び回りながら激しい攻防を繰り広げた。

 そんな、しばらくの激戦の末――。

 羊型魔獣が天井に、そして、馬型魔獣が壁に叩きつけられたところで、一回戦目の勝敗が決まった。

 そうして、燈哉・春丞に敗れた魔獣たちは、天色の光のちりとなりゆっくりと消失していった。

「もうちょっと遊びたかったけど、後ろ詰まってるから。俺たちの番は、ここまで~」

 馬型魔獣を投げ飛ばした両手をパンパンと叩きながら、春丞は言った。

「いや~、久々におもっきり運動できたのは良かったけど、危うく重力酔いすっとこだったわ」

 続く燈哉は、ふよふよと宙に浮かせた二本のスティックをつつき回転させながら言った。

「アハハ。お疲れ様。燈哉」

 燈哉にそう言うと、春丞は、その身を人間の姿に戻しながらバディのもとへと歩み寄る。

「おう。そっちもお疲れサ~ン」

 燈哉は、そんな春丞に笑顔と労いを返す。

 そして、二人は次いで、慶歌に向き直った。

「――さて、大分遊ばせてもらったけど。慶歌クンは満足できたかな?」

 燈哉が尋ねると、慶歌は微笑むように瞬きをし、嬉しそうに鳴いた。

[うむ。とても楽しかった。二人のデータに間違いはないようだ。遊んでくれてありがとう]

「ははは。楽しめたようで良かった良かった」

「こちらこそありがと~」

「――そんじゃ。俺達はここまで。次の二人も楽しんで~」

 燈哉がそう言うと、慶歌は今一度礼を綴った。

 そうして、第一戦目は無事に幕を閉じ、次のバディが慶歌の前にやってきた。

 

「やっほ~! オレ、折紙おりがみ渚咲なぎさ~! よろしく~!」

九石さざらし陽翔はるとだ」

 第二戦目のバディ――渚咲・陽翔が自己紹介をすると、慶歌も応じた。

[慶歌だ。こちらこそ、よろしく。慶歌と遊んでくれて、とても嬉しい]

「アハハ。どういたしまして~」

 そうして、第二戦目の挨拶が済んだ頃。

 二人の前で天色の光の粒が集まり、渚咲の前には大きな猿型魔獣、陽翔の前には凛々しい鶏冠とさかを備えた大きな鳥型魔獣が生成された。

 そんな魔獣たちに渚咲が大いに感動し終えたところで、第二戦目――陽翔・渚咲バディと魔獣たちの手合わせが開始された。

 手合わせが開始されると、陽翔はその身を大きな白獅子に転じ、渚咲は驚異的な治癒力を誇る身体と携帯型シールド、散弾銃を駆使した恐れ知らず戦闘スタイルで魔獣たちの猛攻に応じた。

 それから、その激しい手合わせがしばらく続いた頃。

 陽翔の行動から学習した魔獣が、いよいよと陽翔の動きを読むようになった。

 猛攻を受け流す中、それを察した陽翔が言った。

「流石の学習能力だな。――長期戦になると面倒そうだ」

 そして、そう言った白獅子の陽翔に鳥型魔獣が首を噛み潰されたと同時に、猿型魔獣もまた、渚咲による各関節への散弾猛攻に屈した。

 魔獣たちは轟音を立てて地に伏す。

「少し早く済ませすぎたかもしれんが、長期戦は好みじゃなくてな。――まぁ、後ろの三組で楽しんでくれ」

 光の粒子と成ってゆく魔獣たちを見送り、獅子から人間の姿に戻った陽翔がそう言うと、慶歌は嬉しそうに鳴き、感謝の念を綴った。

 そして、慶歌と挨拶を交わした陽翔・渚咲がその場を後にすると、第三戦目のバディが入場した。

 

「さて、次は俺らだな。――黒葛つずらりんだ。よろしくな」

「ルシだ。よろしく頼む」

[慶歌と遊んでくれてありがとう。燐、ルシ。こちらこそよろしく]

 そうして、燐・ルシが慶歌と挨拶を交わすと、二人の前には天色の魔獣たちが生成され始め、燐の前には大きな犬型魔獣、ルシの前には大きな猪型魔獣がそれぞれ生成された。

 そんな魔獣たちを眺めると、燐は、

「おお~。立派、立派。やっぱり、間近で見た方が綺麗だな。――よし。それじゃあ、どっからでも来な」

 と言い、魔獣たちに向け、二度手を叩いた。

 すると、それを合図に咆哮した二体は、ぞれぞれ燐、ルシへ向かって駆け出し、第三戦目が開戦となった。

 手合わせが開始されるなり、燐は、その身に翼を生成したり身体の一部を獣化させながら犬型魔獣の猛攻を交わしつつも、度々と魔獣を煽った。

 また、燐と同様に、ルシも猪型魔獣を静かに挑発しながらその身を透過させ、魔獣の突進を交わすようにし、それぞれが魔獣たちの猛攻に応じた。

 そうして、魔獣たちの猛攻を交わし、煽り立てながらも、燐・ルシがそれぞれの魔獣に細かなダメージを的確に与え続けた頃。

 タイミングを見計らうようにした燐が、魔獣たちの気を引くようにして指笛を鳴らし、

「お~ら。こっちだぞ~」

 と言い、魔獣たちをこれまで以上に煽った。

 すると、散々の鬼ごっこで興奮しきった魔獣たちはその指笛に煽られ、訓練場の中央で背中合わせとなった燐・ルシめがけ、咆哮を上げながら驚異的な速度で駆け出した。

 その直後。

 二体の魔獣は互いに正面衝突すると、轟音を立てて地に伏した。

 大きな黒翼を一度羽ばたかせて消失させた燐は、光を散らし消失してゆく魔獣たちのそばに着地し、言った。

「いやぁ、イイ運動させてもらったぜ。ありがとよ。慶歌クン」

 その燐の隣で透過した身体に色を戻すと、ルシも続く。

「世話になった」

[こちらこそありがとう。とても楽しかった]

 そして、そんな燐・ルシに嬉しそうに鳴いた慶歌が礼を綴ったところで、第三戦目も終幕となった。

 

 また、その後。

 第四戦目に応じたウラル・シャンドのサリバン双子は、それぞれ大きな鼠型魔獣、牛型魔獣と手合わせを行った。

「――俺が鼠チャン相手するのは卑怯だったかな?」

 魔獣たちとの手合わせの後。

 上空からの猛攻で魔獣を返り討ちにしたウラルは、その身をふくろうから人間の姿に戻しながら言った。

 そんなウラルに対し、己の影から生成した漆黒の散弾銃を肩にかけたシャンドが言った。

「大きくても、天敵に変わりないからねぇ。審判の判定はどうかな」

 判断を仰がれたと分かると、慶歌は嬉しそうに鳴いた。

[卑怯ではない。慶歌の生成した魔獣たちに特定の天敵はいない。だから、これも正当な結果だ]

「――だってさ」

「アハハ。良かった、良かった」

 

 そして、そんな和やかな雰囲気で第四戦目が終幕となった後。

 第五戦目を担うじゅんさとるは、それぞれ大きな虎型魔獣、兎型魔獣と手合わせを行う事となった。

 その身を煙と化しながら、聡が巧みに魔獣たちを翻弄する中、淳が、生成した水弾で的確に魔獣たちにダメージを与えてゆく。

 そのような戦法から、無事に魔獣たちとの手合わせに勝利した聡は、感心しながら言った。

「戦闘過程で学習した内容をリアルタイムに活かしてゆく方式は、訓練という意味でも素晴らしい発想だね。慶歌君」

 慶歌はそれに、嬉しそうに礼を綴る。

[ありがとう。聡に褒めてもらえて、慶歌は嬉しい]

「ふふ。そう言ってもらえて僕も嬉しいよ。――さて、次が最後だけど」

 そんな慶歌へ微笑むと、なんとなく満足げな淳の隣で聡はそう言い、訓練場のゲートに視線を向ける。

「最後は、異能隊の中でも特に人間離れした二人だから、かなり楽しめると思うよ」

 その聡に頷くと、慶歌は、

[うむ。大いに楽しめるだろうな]

 と綴り、聡と同じくゲートに顔を向けた。

 ゲートが開くと、そこには次郎じろう太郎たろうが居た。

 

 最終戦――第六戦目を担う次郎・太郎は、異能隊が誇る特級ランクの精鋭戦闘員である。

「さて、最後は俺たちだが。――とりあえず、自己紹介か」

「そうだね。――初めまして、慶歌くん。俺は、山田やまだ太郎だよ。よろしくね」

田山たやま次郎だ。よろしく頼む」

 次郎・太郎が笑みを向けると、慶歌は喜んだ様子で綴る。

[こちらこそよろしく。次郎と太郎のデータは、見ているととてもワクワクするな。人間とは思えない実績だ]

「あはは。どうもどうも」

 慶歌の言葉に太郎が柔らかく笑うと、次郎も短く笑っては言った。

「運が良いだけさ」

 慶歌は綴る。

[運もまた、実力のうちだ]

 次郎は片眉を上げ、楽しげに笑んだ。

「まぁ、そうとも云うな」

 慶歌も楽しそうに頷き綴る。

[だからこそ、最後も非常に楽しめそうで嬉しい]

 そして、そう綴り終えた慶歌は、ゆったりと高く浮上した。

 次郎・太郎の眼前では、天色の粒子たちが集い始める。

 次郎は特に備えるでもなく、集う粒子たちを眺めた。

 そんな次郎と共に天色の粒子たちを眺める太郎は、胸元から小振りな特殊合金製のスティックを二本取り出し、それぞれを仁本にほん刀へと変形させる。

 そして、しばらくすると、太郎の眼前には天色の大蛇が生成され、次郎の眼前には、慶歌よりも厳格さを感じさせる大きな天色の龍が生成された。

「まさか、この世で龍とやり合う事になるとはな」

 次郎が言うと、太郎は嬉しそうに言った。

「俺も、こんなでっかい蛇と戦うなんて、現実でできるとは思ってなかったなぁ」

「最初で最後だな」

「あはは。そうだね。――っていうか、じろちゃん。ほんとに素手でいいの?」

 太郎が問うと、次郎は楽しげに言った。

「あぁ。せっかくだしな」

 そんな次郎の言葉に、

「おっけ~」

 と言った太郎は、次いで二本の愛刀を構えると、

「――じゃ、始めますか」

 と、言った。

 その瞬間。

 凛と輝く双方の刃文はもんは、酷く美しい天色に染まった――。

 

 

 

 

 

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