クリスマスなんてクソ喰らえ
「おつかれ青島やっほー」
「おおー伊能どした?」
「ねえ…あのさ、…クリスマスイブって空いてる?」
「…あ、空いてるけど?」
「だよねー!バイト代わってよ!?」
「はあー!?つか、だよねーってなんだよ」
「彼女いないんだしどーせヒマでしょ?」
「ぐっ…」
「ウケる~青島最高!ありがと~メリクリ~」
…クッソ伊能…なにがメリクリ~だよ…。
『クリスマスイブって空いてる?』って言われた時の俺の心拍数すげえ事になったんだぞ。めっちゃ期待しちまったじゃねーか。
正月に俺がバイトしてるステーキハウスに伊能が入ってきた時、俺がこの世でいちばん好きな肉を初めて凌駕するモノが現れたと思ったんだぞ。それからずっとドキドキムラムラしてた俺の2021年を返せよバカ。
「あー青島やっぱりいたぁー!」
つーか伊能と代わったんだからいるに決まってんだろ!バカか!休みだった俺を引っ張りだした挙句、ちょっとどころかめっちゃかわいい服着た伊能が男と来るのを見せつけられるってどんな罰ゲームだよ。俺が何したってんだよ。
12月のシフト表見た時、24日も25日も伊能が出になっててビックリしたし俺が休みでもっとビックリした。なんのドッキリかと思ったらやっぱりこんなオチだよ。
あーやだもう死にたい。なんなん。クリスマスなんていつからこんなカップルがイッチャイッチャする日になったんだよ。誰だよ決めたの。なんの陰謀だよ。クッソが。
俺は今年も大好きなステーキハウスで過ごすんだよ。うん、大丈夫。俺には肉がある。肉は俺を裏切らない。俺は肉しか信じない。俺にはもう肉しかない。今日終わったら肉食わしてくれるって店長が言ってたから俺は生きていける。肉最高肉大好き。俺はもう肉しか愛さない。
「店長ごちそうさまでした~!青島も今日はありがとね」
店長のスペシャルコースを堪能した伊能は男と仲良く夜の街へと消えていった。
ラストまで働いて約束通り店長に肉食わしてもらって帰ろうとした時スマホが鳴った。
『外で待ってる』
男と消えた伊能からメッセージ。
送信先間違ってんじゃねーよ、とぶつくさ文句を言いながら店を出たところに伊能がいた。
「間違ってません。お疲れ様」
「独り言聞いてんじゃねーよ」
「今日はありがと。代わってくれて」
「あーはいはい。俺は彼女とかいないんでね、どーせ毎日ヒマこいてますんでね、あの彼氏とデートの時はまたいつでも代わりますんでね、遠慮なく言ってください」
「彼氏なんていないけど私」
「はあ?じゃあさっきの誰?メンノンモデルみたいなあのイケメンは」
「弟」
「またまたご冗談を」
「ねえ、ケーキ食べたい私」
「はあー?つーか代わってやったのにお礼のひとつもないんすかねえ?伊能さん」
「どこにも行ってほしくなかったの今日」
「なんだそれ」
「どうしても今日青島に会いたかったから」
「な、なに言ってんだよ」
「…明日一緒にバイト行こ?」
「…伊能、それってさあ」
「…うち来ない?」
「…俺の答えわかってて言ってるよな?」
「…あたりまえじゃん」
肉食な俺が好きになった女もとんでもない肉食だとわかったクリスマスイブ。
幸福論 まりも @maho-marimo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。幸福論の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます