第17話 終局、徒然
ルームシェア生活から1ヶ月あまり。Tとの会話の中で、私は心からの自分になる必要はあるのか、よく分からない日々だった。
例えば、私が好きなYouTubeチャンネルについて話をしたかったとする。しかし、それが相手にとっておそらく興味がないであろうものだったとして、私はそれを話す意味があるのか。
別に私が話題を提示せずとも、Tの方から彼が話したい内容が振られるから、私はそれに対しただ反応すればよかった。それが私にとって興味があるものでもないものでも。
そのような、自分の話をする空気感にもっていくことができる能力のある人間は、コミュニケーションにおいて主導権を握り、好きに話すことができるから楽しいだろう。
私のような人間はそれを諦めた方が楽になれるから。
本当は男二人でルームシェアをするにあたって、YouTubeれてんじゃだむchみたいなことができたら楽しいだろうと思っていた。
色々ネタは考えていたけど、結局実行されることはなかった。冷静になればほとんどがしょうもないものばかりだ。
しかし私にとって、YouTubeドリームの幻想は圧倒的青春であり、胸を躍らせる筆頭であった。
そうではあっても、その観念を共有しようにも、私のコミュ力は不完全であったし、これは私の勝手な思いでもあって。
コミュニケーションというのは他者を必要とする点でコストがかかる。常に自らの元に他者がいてくれるわけではないし、理解し合うことはとても難しいし。
だからこそ、そのコストのために必死になることは不毛に思える。最初から諦めてしまえばいい。寂しくなったら自分自身と会話すれば問題ない。
そういった私が抱える愛着障害回避型的な性質。人に心が開けない、対人不安・緊張。これは環境を変えるとか、短期的な思い切りで解決できるものではないのだろう。そこに気づけただけでも、このルームシェア体験には意味があった。
……そうは言っても、この賃貸は2年契約であり、つまり2024年の8月までこの生活の期間はあるのだ。何か結論づけるには早い。それまでに何かしら新たな気づきはあるだろうから。
最近は精神疾患について、精神科医の益田先生のYouTubeチャンネルなど色々と調べていた。それを見ることで、あほんとに私はASDとか社交不安障害とか愛着障害回避型に当てはまるなぁ、と。前から思ってたことではあったけどね。
*
やふーちえふくろで「彼氏が愛着障害で試し行動をしてきたり、1日に何度も通話をかけてきて困っています。どのようにサポートすればいいでしょうか」みたいな投稿を見つけて、あー羨ましいなぁ、人助けがしたいならそいつ助けるよりも私を助ける方がだいぶ安上がりなのに。それどころか私は最低でも三週間程度付き合ってくれればいいから、片手間で……とか考えて、多分その人だから助けたい、そばに居たいんだろうなと思った。私にはよく分からないよ。他者なんて他者でしかないのに。
というか、彼女ができたことある愛着障害不安型って強者か? 私は考えた。
例えば親からDVされて育ったことで、常に不安感が解消されない、言うならばいくら愛を注がれても、器に穴が空いているゆえにいつまで経っても満たされない、その穴を修復することは容易くない、と。そういう場合を考える。
彼女居たことある=強者理論は、心の器がある程度機能を保てている人間における限定的な理論であるかもしれなかった。
しかし、そうではない大多数の人間を考えた時には、彼女居たことある=強者が成り立つよな。
いや、本当にそうだろうか。世の中の彼女居たことある人間を観察したとき、彼らはなぜかそれ以上を求めているように見える。彼女作る=ゴールなのに、ゴールしてもなお進もうとしている滑稽さがある。そのような人間も同様に心の機能に難があるのではないか。ということは理論が適応されない?
いや、困難さの違いはあるよね。普通の人であれば、彼女一回できたことあるから十分だ、と満ち足りることは訓練すればできる。いざとなればね。結局苦しむだけの余裕があるから苦しんでいるように見える。
このように弱者強者理論を構築していくことは私にとってネガティブなものでなかった。単純に考えるのが楽しいというのもあったし、自己分析や他者分析をし分類することは私の認知の歪みの是正に寄与するものだっただろう。
*
シェア生活において、金銭感覚が合わないことはかなり問題だった。
寿司食いにいこう、と彼が言ったとき、私は思う。「自炊ですませば安くすむのに、なんでこんな頻繁に外食するんだよ」と。
だから「家で食べよう。お金かかるし」と言ったことは何度かあった。でも何度も言うことに辟易して、私は自己主張をやめる。
私は外食って1ヶ月に1、2回くらいだと思うんだけど、やっぱり今この瞬間の快を重視する人間と、安定を求め未来に投資したい(安く済ませたい)人間では噛み合わないだろう。どちらが悪いとかでなく。
私はお金を使わないことに幸せを感じる。500円節約したとき、それはこの瞬間500円を貰ったことと同じであり、我慢により財を創出したのであり、嬉しい気持ちになる。
世の中、散財や暴食をすることでストレス発散をする人がいるけど、そういう人たちとは価値観が対極だ。私の考えは、後で後悔することをしたら未来の自分が苦しい。苦しみを避けることは最優先。苦しみが最小限になるものを選ぶ。今この瞬間の幸福? 今この瞬間は次の瞬間には過去になっているから大丈夫。……でも、私みたく今をやり過ごす能力が高くないとこれは無理なのだろうか。
まあでも、そういった思い通りにいかない不快は、経験への投資と思えば問題なく消費できた。こんなことを考えつつも私は普通に満足して過ごせていた。
国立博物館の毒展に一緒に行ったり、夜に月の観察をしたり、酒を飲みながら動画見たり、数学の勉強したり。
青春ポイントを計るのは辞めたが、青春は私にとって有意義なものとして存在していた。女性への欲望も。
正直、引っ越すに辺り、もしかしたら同じアパートや近所に同年代の女の子がいて、ひょんなことから仲良くなるなんてことも想像していた。そんなことは現実的ではないと思いつつも、もしかしたら春の入学シーズンになれば、この大学から近いマンションに女の子が引っ越してきて、仲を深めるということは0%ではないだろう。
そうなったらリアルNHKにようこそだな、と思った。私が佐藤なのか山崎なのかは分からないけど。だから春への期待感が高まった。
期待をするというのは0円で幸福度を高められる画期的な方法である。そしてそれは極めて個人で完結しているもので、誰にも迷惑をかけない。
*
結論から言えばシェア生活は3ヶ月で終わりを告げた。
お互いの不満あってのことだけど、円満に終われて、特に何も引きずることなく今なおも友達で居続けられているのは良かった。
プライベートなことゆえに詳しくは語らないけど、私は無理して続けるよりもあの局面で終われたからこそ良かったとは思っている。致命傷にならない程度でというか、ね。
これからの生活の中に点在させていた期待に関しては、また新たに作ることもできるし、改めて、そのようなものが要らない状態へと入っていける気がした。
他者と生活を共にし、密に関わり色々なことがあった。たった3ヶ月といっても、私にとって大きな出来事だった。でも3ヶ月か。社不エピソードとしては面白いだろうか。ありふれてる気もするけど仕方ない。
私のようなコミュ障人間は、仮に友達ができても次第に距離ができていき一人になる。気まずい沈黙と、自らの分厚い心壁だけが意識される。
そんな中、ここまで時間をともにし、長期的に関係を続ける友達ができたことは私にとって重要な意味を持つことであるし、それはTでなければ無理であっただろう。
明らかに自分は恵まれていた。そしてその事実に気づき、運命を司る唯一なる意思(自然)を感じられる点でも恵まれていた。
また実家から電車で大学へ通うことになり、その際に見かけるアベックへの妬み、劣等感との戦いが始まる。やがて私は感謝によりこれらに打ち勝つだろう。
以前より増えた、元に戻った一人の時間。その間に私は自らの弱者論を練った。また、自分の思想や今日あった出来事などを徒然ならままにスマホのメモに書き綴る。より一層詳細に。
これまでは客観性が足りていなかったと思う。いずれは私がこれまで経験した出来事を一つの物語にして世に放つ計画に向けて。その行為に持たせる意義についても吟味して。
あー、大学生活もう色々と経験したというか、一段落ついたな。
とりあえず、これまでの大学生活をまとまった文章にしなくちゃ。
ーーー
初期案は『青春ユニバーシティ組曲』だった。この組曲には色々と意味があるのだが、結局『青春獲得ユニバーシティ日記』となった。分かりやすさ、簡潔さの重視。
この頃書いたものを推敲して、説明が必要な部分を付け足したりして、今こうして投稿している。
聖書チックな構成、例えば詩篇とか言って私の徒然なる思いを挿入したり、タルムードすなわち解説書としての詳細な説明を挟むとか、私はとにかく壮大なすごいものを作ろうと思った。カバラ(秘伝書)による実践儀礼とかも入れたり。
もしくは、もっと創作的に脚色して、エッセイではなく小説として面白いものにするとかも考えた。
でも、決めあぐねた末に、この時期にこうしてシンプルに投稿している。
私の活動の、何かしらの布石になるように。まあ、難しい思考は放棄して、投稿しない限り誰にも読んでもらえないわけで。そうなると何の影響も及ぼせない。この世界に対して、一人の人間として私は、私は。
といったわけで、今のところほぼ毎日投稿していて3pvしかないわけだが、もう少しだけ続くます。わくわく!
青春獲得ユニバーシティ日記 プロ弱者マナセ @jakusha-jnana
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