第15話 生活

 9月から開始したルームシェア。

 私は一人で過ごす時間が必要な人間だ。そのため、本来は生産性のない長々とした雑談を他者と交わすことは望まない。


 しかし、ルームシェア生活によって、私は自己変革を果たせるのかどうか試行したかった。すなわち常にシェア相手、Tが家にいる状態に身を置くことで、次第に私は心を開いていき、初めて他者に対してパーソナルな部分を晒すことができるかもしれない、と考えた。


 だから、私は純粋にルームシェアを楽しみにしていた。それぞれの部屋はあったが基本、Tが家にいる時にはTの部屋で一緒に過ごすことが多かった。せっかくルームシェアをしているのだから当然ではあるだろう。


 私が影響を受けた本、フランクル『夜と霧』において、三つの価値が提示される。創造価値、体験価値、態度価値である。 


 創造価値と態度価値に関しての私の取り組みは、前話(第14話)を参照されたい。


 私はこのルームシェア体験によりどのような価値を創出していけるだろうか。他者に心を開くこと、他者を愛するということが可能だろうか。


 その感触を知りたいという、結局は私自身に対する知的好奇心なのだ。私は自分自身にいつも興味の矢印が向いている。

 しかしTはどちらかと言えばその逆だと言ってもいいだろう。人と話すことで自分の思考を言葉に落とし込むタイプというのか。


 また、話していても他人の話が多い。彼が属するサークル周りの人間とか、彼の学科の教授とかの話。コミュ力が高いから女とも簡単につながることができる。

 しかし彼は彼女がいたことはないから、分類は強者と弱者の中間の階級であるだろう。



 まだ夏休みが続いていて、私たちはお台場の科学館や上野の東京国立博物館などに出かけた。そうやって共に過ごす時間はとても貴重なものだったと思う。貴重だなんて、わざわざ言語化すること自体が野暮ったいだろうか。

 お互いに学問が好きだったから良かった。ニュートリノとか、微細な物質にまつわる化学的な展示物は、私たちの身体という小宇宙の神秘を感じられていいよね。宇宙の起源とか太陽系とか、天文学系の展示物は大宇宙の(以下略)。


 スーパーへ買い物に行って食材を買う。料理は専ら私が担当した。

 実家にいた頃は料理なんてほとんど知らなかったから、実際に料理をしなければならない立場になることで、色々と知れて良かった。こういった体験価値は人生にとって重要だ。


 味噌汁、カレー、唐揚げ、ハンバーグなど、やってみると以外と簡単に作れるものなんだな。今の時代、検索すればいくらでも調理の仕方が出てくる。その通りに実行すれば素人でもそれなりの味で作れる。

 ブロッコリーや人参などの野菜はある程度しっかり茹でないと硬くて美味しくないことを知った。



 スーパーに行った際たまたまプリキュアのグミが目に入った。へえ、今は『デリシャスパーティ♡プリキュア』なんだ。

 料理にまつわるプリキュアらしかった。何だかシンクロニシティを感じるな。


 と思い視聴すると『デリシャスパーティ♡プリキュア』は面白かった。

 今のプリキュアの変身シーンはすごいんだな。キラキラで、クルクル回転して。(デパプリの変身バンクは本当にすごい。)


 正直プリキュアって、変身前の状態の方が可愛いというイメージが男子である私の中にはあった。派手すぎて不自然というか、髪型とかもボリューミー過ぎるというか、ね。

 でもデパプリは比較的そこまでではないから、見やすかったのかなと思う。

 ヤムヤム可愛い。


 大学近くに引っ越したのですぐ登校できるし、バイトもやってないし、彼女を作るためのあれこれも特にもういいかなといった感じだし、わりと時間はあった。

 秋学期が始まるとTは日中家にいないことが多かった。一方の私は、交友関係の少なさゆえ講義受け終わったらすぐに帰宅するわけで。


 この際、プリキュアシリーズを全部視聴していったら面白そうだな、と思った。

 プリキュアが好きというのは、かなりアイデンティティにはなりうるだろう。(自身に対するキャラクター性、主人公性を意識するのはかなり根強い私の性質である。)


 『HUGっと!プリキュア』だけは昔に少し見たことがあった。その際もプリキュアって面白いんだな、という知見を得たが、高校生時期というのは大学生の今よりも相当多忙だったし、当時ハマっていた色々なものがあったから本格的にプリキュアにハマる、シリーズを見るということはなかった。


 

 デパプリと並行して私はスタプリとヒープリを見ることにした。トロプリはまだdアニメになかったから、直近の作品2作ということでね。


 見ていくうちに、プリキュアのルールというか、どういった心持ちで見れば楽しめるのかというのがだんだんと分かってくる。


 昔は「バトルシーン要るのか? 日常パートだけでいいのに」と思ってた。アンパンマン的なお決まりというか、ただのノルマみたいに思ってた。


 でもそうじゃなくて、本来は普通の少女であるプリキュアたちが、一生懸命に問題と向き合って頑張るところに心打たれるんだ。

 プリキュアの強さ、エネルギーというのは彼女たちが持つ無限の可能性で、そういったものを言葉や概念ではなく視覚的なものとして表したプリキュアフォームというのはなんて芸術的なんだろう。そう思うと決して不自然でなく素敵なものだって思える。


 人に優しくすること。それが簡単なことではないことは大人になればなるほど分かる。プリキュアは本当に強くてかっこいいんだ。


 心が浄化される。本当にあるべき姿とは何なのか。私もプリキュアみたくなりたい。強く優しくなりたい。

 そのような気持ちは次第に強くなった。これは私の生き方、私の答えにとってどのように作用するだろうか。

 

ーーー


 前半ルームシェア生活について、後半プリキュアについて書いてるけど、果たして後半部分要るのか? と思った方もいるかもしれません。


 でもプリキュア作品に触れたことは私の大学四年間を振り返った時に、かなり大きなファクターであって、この先を綴る上で、変に説明を端折ろうとすると伝わらない部分が出てきそうだと思ったのでしっかり書きました。


 次話は2022年10月以降の出来事。

 引き続きルームシェア生活とか、文化祭とか色々書きます。

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