第10話 不本意な禁欲主義者
6月の末、「君はロックを聴かない」をギターで弾けるようになった。
ここまでくるのに約四ヶ月。ストロークと運指を同時にリズム良くできなかったから。
まだ全然上手くは弾けないけれど、確かに上達していることを感じた。
嬉しい。やったー!
レフティギターということで買う前は不安はあったけれど全然問題なく練習できている。
Green Dayの「Basket Case」も練習していてこの曲は現在の私のことを歌っているような気がした。
"Sometimes, I give myself the creeps Sometimes, my mind plays tricks on me It all keeps adding up I think I’m cracking up Am I just paranoid? Am I just stoned?"
エレキギターとアンプを購入した。
早く上達してサークル内でバンドを組んで舞台に立って、そうしたらノルマ達成だ。
その目標達成まではサークルに顔を出すというノルマを設定した。
それを達成すれば僕はサークルに顔を出すのをやめるつもりだ。
早く上達したい。
コミュニケーションが取れなくて辛いから。
本当に私は集団に属せない人間なんだ。輪に入れない。7月ライブで、私は居場所がなくてとても辛かった。
*
マッチングアプリを1ヶ月やって1人の女性ともデートにまで辿り着けなかった。
7月になった。
大学に行くのがしんどかった。
髪も染め、軽音サークルにも入り、この夏に勝負をかけると意気込んだ春から、どうしてこのような陰惨な結果が導き出されよう。
思えば今年の2月頃からマッチングアプリを最後の希望として明確に設定して、希望にして生きてきた。
モチロン簡単に出会えるなんてことは思っていなかったんだけどネ。
だけど、何かはあると思ってた。
学校に行くのが辛くて仕方がなかった。
何が辛いかって、学校に着いて用を足し、ふと洗面所の鏡を見るとわりと顔の整っている自分が目に入る。
決してイケメンではないが清潔感は人一倍あるはずなのだ。そのための弛まぬ努力があるのだ。
それなのに、私のその容姿を見せる女性を私は持っていなかった。
何のために整形したのか。何のために毎度毎度髭を剃り、化粧水や乳液を使い、散髪をしているのか。何のために生きているのか分からなくなってゆく。そんな絶望を鏡を見るたびに感じる。
苦しい。
そんな時は脳内彼女に話しかけたり、お気に入りの二次元のエロ画像を見て元気を出す。
ただ女の子と一緒に授業を受けたい。
けれど私を待っている女の子などこの世界のどこにも存在しない。
そのような悲劇的な、あまりに悲劇的な事実を思うと教室に行くのが苦しい時があった。
教室に着けば、女の子と隣り合って座る強者男を目撃してしまうかもしれない。それが恐ろしかった。
*
恋愛弱者である私はひたすらに耐えるしかないようだった。
私は非暴力不服従のマハトマガンディーこそ真に立派だと信じているゆえ、エリオットロジャーのように直接彼らに危害を加えはしない紳士だった。
恋愛強者から視覚的、聴覚的暴力を受けようとも決して負けないで生き続ける。
そして望みを捨てないことこそが彼らへの、もっと言えばこの世界への抵抗だ。
今まで積み重ねてきたこと、そしてこれから積み重ねることがいつ報われるのか分からない。
1ヶ月後か、1年後か、5年後か、10年後か。
下積み下積み下積み。下積みの人生。
寝ることとマスターベーションしか楽しみがない。
いつまで頑張ればいいんだろうね。
外に出れば男女で楽しそうに談笑したり手を繋ぐ光景ばかりが目に入って涙が溢れた。
あまりにも余裕がなくて、でも余裕を失えば失うほど彼女を作れる可能性が減っていく。
でも余裕なんて1ミリたりともない。
だから演出するしかなくて、コミュニケーションの全てにおいて演技演技演技。
気遣いをしなくちゃ、明るく振る舞わなくちゃ彼女ができない。
適度に振り回してドキドキさせないと、無理にでも笑顔を作らないと彼女ができない。
今この瞬間、女性が少しでも私と一対一で談笑してくれたなら全ては解決する。
どうしてそれほどの苦しみを女性は与えるのか理解できなかった。
*
1年生の秋学期に、私が勇気を出して声をかけたあの子。
あの子が私に一言でも、なんでもいいから声をかけてくれたなら、その瞬間から私の人生は意味のあるものになるだろう。
私自身、2年になって授業が被った際に、何度かその子に声をかけたけれど全然自分から話してくれなかった。
まるで私と話すのが嫌かのように。(被害妄想カナ?)
そして授業が終わると私に何もなく足速に去っていったのだ。
それでも尚、あの子に再び声をかけるべきなのだろうか。
私はあの子の幸せを願っていて、下手にでしゃばって困らせたくないからそんなことはしない。
定期的に夢の中に出てくる。
私は授業前にこんな私と楽しく談笑してくれたあの子のことが大好きで忘れられない。
でも、私のこの好意は女性への渇望ゆえのもので、決して彼女単体に対するものではないのじゃないか。
そう思うと自分の全てが嘘っぱちに見えて、奈落に落とされたようで、恋愛があまりにも難しく思えた。
自分のことばかりで相手のことを考えられる精神状態でない私は恋愛をするべきでないように思えた。
私一人が苦しめばそれで丸く収まる。私はこの世界のボトルネックだった。
このような一連の思考すら自己犠牲的な自己憐憫に浸るための方便に過ぎないのだと分かっていた。
本当は別に、誰が苦しもうが私は私自身が楽になれればそれでいいのだから。
人が毎日何人死のうが私に恋人ができればそれだけで毎日はハッピーで、それが私の本質だ。
閑話休題。私の恋愛遍歴。
2020年2月29日、SNSで知り合った裏垢女子の女の子とショッピングデート。(3日後にラインブロックされる。)
2020年6月30日、ストナンでライン交換した女の子とカフェでお茶をする。(しばらくしてラインブロックされる。)
かような経験を経て、幻の至宝と言われる薔薇色のキャンパスライフを切望し大学生という身分を手にしたのに、一向に恋人候補すら現れないという、さながらヨブ記のヨブのような神からの責め苦に遭っている。
人生チェックメイトかかってるよな。
なぜ私に恋人ができないのかという問題は隠れ東洋大学七不思議の一つと言えるだろう。
そして井上円了ですらこの謎は解けやしないであろう。
ーーー
ギター弾けるようになってきた! +21p
軽音サークルの7月ライブでコミュ障発揮する −4p
出会い系アプリやって出会い0 −10p
青春ポイント−951p
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