第6話 ギター 女性との楽しい会話

 ふと、サイクリングに出かけた。

3月1日。


 いつもは外に出るのが億劫で、なかなか必要時以外は外出しない。

 けれど今日は身が軽かった。


 しばらく自転車を走らせ、お気に入りの公園へと近づくにつれて違和感を感じた。


 風が違う。


「もう春なんだな」


 純白で紅の梅の花が咲き乱れる。

 今年の春を実感した。


 春になったからよし外出しようと思うのではなく、春になると自然と外出したくなる。


 自然に春を実感できる。


 私自身が自然の一部であることがなんだか嬉しい。


 私たちは一人じゃないんだ。


 公園でセブンのコーヒーを飲みながら一息ついた。


 そのあと送電塔巡りをしながら帰宅した。



 家に帰るとアコースティック・ギターが届いていた。


 万年音楽の授業幽霊部員だった私がついに楽器奏者になることに時の流れを感じた。


 私はミュージシャンになるための第一歩を踏み出した。


 以前から、音楽で食っていく道も模索しようと思っていた私だったが、作詞はできても作曲となると、楽器に触れた経験が皆無ゆえになかなか感覚がつかめない思いだった。


 ならいっそのことギターを買って色々と曲を弾けるようになることで作曲がしやすくかもしれないと考えた。


 また、ギターによってさまざまに芸術活動の表現の幅が広がると思った。文章だけでなく。


 私は、大学を卒業したら、何か芸術的なことをやっていきたい思いだった。


 もともと他の有象無象とは違うんだ、という意識を幼い頃から持って育ってきた私は、何か面白いことをしたい、自分だけにできることを悔いを残さない程度にやりたいという思いが強い。


 若いうちに夢を追いかけるというのは妥当な選択のように思えるし。


 ギターは青春の代名詞ということで、兼ねてから抱いていたロックンロールへの希望、夢想を私に与えた。



 ギターってこんな音するんだ、抑える位置によって音が大きく変わるという驚き。


 まずは基本的なコードを押さえてみたりした。


 春になったことで3月は早起きできることが多かった。

 早起きといっても9時とかそのくらいに起床。


 コーヒーとハムエッグの朝食を食べてサイクリング。


 道端に咲く花を見て、昼食はカツ丼を食べ、ギターの練習をして、17時半から23時までバイト。


 家に帰って軽くご飯を食べて、音楽鑑賞して眠った。


 なんとも健やかさんだった。



 飲食のバイトを始めて一ヶ月。

3月18日、Cさんが私に明るく話しかけてくれた。


 それは事務的なやりとりではなかった。


 私の受け答えは不自然ではなく、声も震えてはいなかった。


 彼女とは仲良くなれるのではないかと思った。

 そのためには会話を頑張らなければ。



3月25日、終わりの時間が同じで、お疲れさま、と言葉を交わした。


 その後に私は事務所のインターフォンのボタンを間違えて押してしまって、Cさんは「ちょっと何押してるの笑」と言った。


 そんなふうに戯れあったのち、今日すごい混んでたよねとか、今日はホールの〇〇さんがお休みで、とか他愛のない花を咲かせる。


 Cさんは家が近くて歩きで通っているらしかった。


 一緒に帰りたかったが、ホールの友達を待って帰るからと言ったので、ここは速やかに退くことにした。


 でも楽しく会話をすることができてよかった!



 3月の末になると緊急事態宣言の影響か何かで、ラストオーダーの時間が遅まって、以前よりも仕事が大変になった。


 それでも私には希望があったので苦ではなかった。


 春休みのお出かけは学科の友人と鎌倉に行った。


 妙隆寺、宝戒寺、杉本寺、報国寺、鶴岡八幡宮などに行った。


 豊かな自然や報国寺での抹茶を楽しんだ。ちょうど桜も満開だった。


 昼は魚介のピザを食べ、あじさいソフトも胃に落とし込んだ。


 浄智寺は特に静かでとてもよかった。古風でシックな様は個人的に好き。布袋尊の御尊顔を拝んだ。


 また、メトロポリタン美術館の展覧会に行って絵画鑑賞を楽しんだ。



 Twitterで新たな一年生に話しかけることによって交流を試みた。


 しかし結果は芳しくなく、マッチングアプリでも始めるしかないのかなと思った。


ーーー


春になって元気100% +7p

ギター買った +3p

バイト先のCさんと恋の予感だぜ +5p

Cさんとカンバセーション +60p

春休みを楽しむ +3p


青春ポイント−784p


「だいぶ充実しているね! でもマナセくんは自分に一度も彼女ができたことがないことを四六時中気にしているみたいだよ。なんだかなあ、だよね」

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