第3話 対面授業 動き出す

 秋学期になると隔週対面になって、大学に通えることになった。

 本格的に大学生というアトモスフィアである。


 友達ができた。

 正確には入学の少し前からTwitter経由で繋がっていたのだが、秋学期で一緒に授業を受ける機会ができたことにより距離が縮まった。

 私たちは5限目のイスラーム概論を受けたのちに近くのはま寿司で一緒にご飯を食べた。


 家族以外と寿司屋に行くのが初めてで、寿司を食べながら友達(以下Tと記する)と仲良く語らうのは非常に楽しかった。


 Tは私に対して、私といる時は自然体でいられるし今1番時間をおいてる、と言った。

 普通そんなこと、思っていても本人に言うだろうか。まあでも普通である必要はないと思う。非凡である方が人間というのは魅力的だ。


 しかしこのようなことは、幼い頃から友達が出来にくく孤立気味であった私にはあり得ないことのように思えた。きっとこれが大学、ユニバーシティの広さであるのだ。

 高校まではクラスという箱庭で過ごすことを余儀なくされていたが、そこから外に出れば意外と私を受け入れてくれる人は存在するのだという気づき。


 この頃から私と彼はよくLINEで通話をした。

 私は会話のレスポンスが下手で普通の人相手であるといつも気まずい感じになるから、なんというか、変に空気感を気にせず話題提示能力のあるTでなければ友達になることはできなかっただろう。



 私が高校時代にYouTube活動をやっていたという自己開示をすると、一緒にYouTube活動やってみよう! という流れになって新宿で待ち合わせた。

10月14日。


 カラオケ動画、宗教について語る動画、世界史について語る動画、YouTuberとしての目標を語る動画、さまざまに撮影をした。

(私たちは宗教とか哲学に関心がある若者だからね。)


 私はYouTubeが好きだ。

 YouTube動画を撮ることは楽しく、しかしなかなかに良質な動画を撮ることは難しかった。

 結局YouTube活動については一旦保留にすることを提案された。


 私も、あくまでもこのYouTube活動を是が非でも成功させてやる! という意気込みというよりは、楽しんである程度やれればいいか、くらいの感情であったので、それに同意した。

 でも、友達とYouTube動画を取るというのは一度やってみたいことではあったので体験できて良かった。



11月13日。

 大学が隔週対面になった以上、私には無限の可能性が溢れているような気がした。

 5限目の宗教学概論の授業、私は何かしら行動を起こすことを決意した。


 16時半から授業開始であるのに15時2分に教室前に着いた私は、近くのベンチに腰を下ろした。


 しばらくすると女の子が一人やってきて、一つ離れたベンチに腰を下ろした。


「目の前の好機を、掴み取れ!」


 やるしかない。逃げちゃダメだ。


「あの、宗教学概論って、教室ここであってますよね?」


「はい、そうだと思いますっ」


 スマホから視線を上げて、私に対しにこやかな微笑をたたえながら答えてくれた。

 そこから話を続けて、学年と学科が同じであることが分かった。


 突然話しかけたのにも関わらず、会話を切り上げよう切り上げようというような感じはあまり感じられなくて、私はこれは75%くらいの確率で仲良くなれるのではと思った。


 なぜなら結構な頻度で相手の方からも質問を投げてくれるし、長めに言葉を返してくれるから。

 きっと長い間オンラインだったから、人との会話というのは最小限になっていたはずだから、そういう影響も相まっているのだろう。


 50分ほど話をした。


「そろそろ教室入る?」


「いや、待ち合わせてるので」


 私は衝撃を受けた。


 なぜなら彼女は実は一緒に受ける人がいて、その人は部活一緒で、しかも男であると。そう言ったからである。


 動揺のあまり私は呂律の回らないようなふうで何か言うと教室に入って席に座った。

 そんなことってあるのか? せっかく隣の席で一緒に授業受けられそうだったのに。それがこの先隔週で続いていく、その中で自然とLINE交換したり距離を縮めていくという、私の計画全てが打ち砕かれた。


 授業の内容は仏の顔を描くというものであった。

 本来なら心を落ち着けて描くものであるはずであるのに、私の心は乱れに乱れていた。


「悪い、筆箱忘れちゃって」


 男がそう言うと女の子は貸してあげていた。

 それに対して男はすまない、みたいなポーズをしていた。


 どうして私は一人で座っているんだ?

 腕ごと置いて退けよ。なぜなら、その位置は私のものだからだ。

 きっと彼はそのようなことを過去にも経験したことがあった。ライフ・イズ・アンフェアここに極まれり。


 授業が終わったら二人は並んで歩き部活に行く。

 私は洋梨(用無し)である。アイアムラフランス。できるなら君とフラダンスを踊りたいと、私は切に願った。


 本当はもっと建設的なことを考えねばならなかった。この状況でも尚、あの子と仲良くするにはどうすればいいのか。どのような言葉を紡ぎ、どのような態度であるべきか。   LINE交換をここで決めるべきか。でもいきなり?

 焦って事を仕損じるべきではないか。でもこのコマ以外で授業被ってないんだよな。

 ということは二年生以降の布石とすべきか。冷静に振る舞え。そして、チャンスがあれば何かしらいい感じに……虎視眈々……。

 

 授業終了のチャイムが鳴った。

霊峰遠く望みつつ 見よ青春の潮の高まり


 私ががさごそリュックに筆箱を詰めていると、彼女は僕のところに来て、気を遣って言葉をかけてくれた。なんて優しいんだろう。


 それに対し、私は気の利いたことは言えなかった。

 オタクみたいな早口でいやいやこちらこそありがとうそれじゃ、とカチコチになりながら言うのがやっとだった。


 電車の中で僕は泣きそうになりながらイヤフォーンで、「夢で逢えたら」を聴いた。

君を想うことが それだけが僕のすべてなのさ


「頑張ったね。すごくかっこよかったよ」


 頑張った。今日のところはこれまで。それでほんとうに良いのか?


「再来週があるよ。きっとうまくいくよ。未来は輝いてるよ」


 でも、なんか最後引かれてしまったかもしれない。

 あれで引かないのなら彼女はきっと私にとってのツインレイ女性なのだろう。


 そうさ、そうに違いない。


 彼女はそんな私を見て、「何動揺してるんだろ、照れてるのかな。かわいい♡」と思ったに違いない。

 ……そんな訳ないだろ! 何度同じミスを繰り返すつもりなのか。


 さまざまな恋愛にまつわる恥ずかしい思い出(掲示板でLINE交換した女の子にデートドタキャンされたり、挙句大好きという想いを10行以上にわたる長文メールとして送りつけたり、LINEブロックされたり、LINEブロックされたり、ナンパでカフェ連れ出しして思うように盛り上がらなかったあの瞬間、4月の就学手続きの日の失敗だったり)が脳内を駆け巡った。


 しかし『HUGっと!プリキュア』43話のキュアエールの「頑張って行動した人を馬鹿にする権利なんて、誰にもない!」という台詞を思い起こして、私は出来るだけ自分の頑張りを讃えようと思った。


 頑張って行動した今日は素敵な日になって輝く。

 再来週、どうかな。またちょっと早めに来てくれてたりするといいな。そうすれば話せるから。もしくは相手の男の方が欠席とか。

 また話したい。それだけなのにどうして。


 もう気にせずやぶれかぶれで距離詰めてく方が良いだろうか?

 いや、自然にするべきだ。しかしそれが恋愛弱者である私にできるなら苦労はない。

 難しくてとにかく頭を悩ませた。


ーーー


大学で友達ができて話したり飯食ったり一緒に動画撮ったりした +65p

大学で女の子と1時間弱ぐらい仲良く話せた +80p


青春ポイント−860p


「かなり大躍進だね! でも、一緒に授業受けられてればポイント200はいったのに、残念だよ。けどこのペースでいければ、なんとか負債は消化できるんじゃないかな、かな?」

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