セーターを編む僕ら

 と、言いつつ。

 実は冬物のセーターを編んだことは無い。先日出先でラズベリー色のウールの毛糸を十玉買ったので、来年着るつもりで編み始めような……とは思っている。

 編んだことがあるのは、春から初夏にかけて着れるコットンのセーターで、爽やかな青色のもの。

 工業用の大巻の糸を通販で買えるお店がありまして、六百メーター巻を二つ買い、二本引き揃えて輪針で編んだ。毛糸玉だと何玉も必要になり、糸の継ぎ目が多くなるので、コットン糸など継ぎ目が目立ちやすいものを使う時にはそういう大巻の物が編みやすい。

 春から初夏に向けて着るので、袖は少し短め。ざっくりと着たかったからVネックでスッキリと。

 (実はその前にサマーセーターも編んでいたのだが、仕上がりが微妙で、ほぼ完成してから全部ラーメンに……そういう事もある)


 編み方というのは、その年代での流行みたいなものがある。

 実家に、母が若い時分に父に編んだセーターがあった。

 母はやたら針先の方で編む癖があり、ゲージが恐ろしく細かく、……なんと言ったらいいか、目がぎゅうっときつく固い生地で、父は当時「鎧のように重たくて着れない」と言って十年ほど封印し、その後年月で少し編み目が甘くなったそれをやっと着ていた覚えがある。

 ……こんな事を書いていると仲の良い夫婦の様だが、晩年は別居していた。人生色々だ。


 当時の母のセーターは、袖などのパーツを一つ一つ別に作り、最後に縫って剥ぎ合わせて作ってあった。言ってみればプラモデルみたいな感じだ。


 今でもそういう作り方をする事もあるが、今日日は首の所から輪針……付け替え輪針と呼ばれる針とコードが外れる針で、ぐるぐると編んでいく方が主流だと思う。

 胴体までぐるっと一息に編んでから、休めていた目を拾って袖を編む。

 とじはぎが無いので手間がかなり減るのと、付け替え輪針は試着が容易なので、場当たり的に作れるのが魅力だ。たまに編み途中のを着てみながら、「こんなもんかなー」と思いつつ編む。

 昔からこういう編み方もあった様だが、付け替え輪針が無かった頃は、編みかけの目に糸を通して試着したりと手間もかかっただろう。


 こんな事を書いていると、今の時代の方が編み物は進化している様に見えるかも知れない。

 しかし、色々な道具を駆使した所で、僕なんかの技術は歴戦の猛者達の足元にも及ばない。


 こんな出来事があった。

 僕が職場の休み時間に靴下か何かを編んでいると、職場のお姉様達が口々におっしゃった。

「昔は私も色々編んだもんだわ〜」

 そして、ちょっと前の外出自粛の期間。

 あるお姉様は「家に居て暇だったから」と良いながら、手元にあったと言う長い五本針で、可愛いセーターをほんの数日で編んでいらした。

「ありもんで編んだわ〜ちょっと色糸もあったから入れちゃった」

 サラッと仰る。

 本当にすごく可愛かった。しかも、ものすごく編むのが早い。

「可愛い! レシピとかご覧になって編まれたんですか?」

「こんくらいなんも見なくても勘で編めるわよ〜」

 いやはや、諸先輩方は凄い。


 あなたのセーターはどこから?

 僕は首から編むタイプ。

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