襟巻を編む僕ら
マフラーやスヌードは、編み物を始める時の登竜門的存在では無いだろうか。
レシピは星の数ほどあれど、「繰り返し繰り返し、真っ直ぐ編んでいく」ものが殆どだ。シンプルなメリヤス編みでも、凝った模様編みでも、一度「リズムに乗る」と、あとはリラックスして黙々と編める。
「マフラーは編んだことあるよ」という人も多いだろう。
何十年も前には、好きな人に手編みのマフラーを編むのが流行ったりもした。
僕は中学校の相談室で、先生(今思えばカウンセラーさんだったんだろう)が、素晴らしいスピードで「彼氏に贈る」マフラーを編むのを見て、その手並みの鮮やかさにずっと見惚れていたものだ。
僕も結構マフラーやスヌードを編んでいる。
糸はあんまり拘らない。強いて言うならチクチクしないもの。首周りに付けるので、柔らかくて優しい肌あたりのものが良い。
そこそこ奮発した糸も使うし、手触りが良ければ百円ショップの物も使ったりする。
一時リフ編みのメビウススヌード……お花の模様のふかふかの一重巻のスヌードを作るのにハマり、多分三枚作った。
薄いピンクのは母に贈り、僕は群青色のを身に着けていた。もう一枚、ピンクと紫の糸を引き揃えたものも作ったのだが、生憎と自分の首は一本しかないし、僕にはどうも似合わなかった。
どうしたものかと思っていた所、職場の仲の良い女性が声をかけてくれた。
「お花模様でかわいいね。ヨリちゃん編んだの?」
「ありがとうございます。編みました」
「いいなあ素敵だなあ」
後日、恐る恐る三枚目のをプレゼントしてみた。
色白のとても華やかな人で、ピンクと紫のスヌードが似合いそうだったのだ。
「ヨリちゃんが作ってくれたの〜!」
ありがたい事にとても喜んでくださって、頻繁に身に付けてくれた。なんて良い人なんだ。
首周りに付けるものを贈るのはちょっと……というか、だいぶ重たいかしら。
そんな事を思いつつ、仲の良い友達が「スヌード落とした」と言うとすかさず「ねえ私編んでもいい?」と言って、似合いそうな色で編んで押し付けたりしている。
笑顔で身につけてくれている。なんて良い奴なんだ。
ちなみに最愛の夫にはかれこれ五本くらいなんやかんやと編んでいるが、僕の前では全然付けてくれない。
「職場で使うから」「キャンプで使うから」
そんな感じである。何でだよ。
今は自分にイギリスゴム編みのネックウォーマーを編んでいる。
ドイツ製のソックヤーンであるオパール毛糸で。色はヴァン・ゴッホシリーズの「夜のカフェテラス」。
夜景にも星空にも見える、青、紺、グレー、黒、黄色、オレンジが絡み合った素晴らしい糸だ。
一段一段編む度、表情を変える夜色の糸。
濃紺のコートに夜色の襟巻を纏い、僕は冬の街を颯爽と歩くのだ。
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