第6話 銭湯

「タカシ様、もうそろそろ日が暮れますよ」


少しのまどろみの後、目を開けるとベットに腰かけて、

優しく髪を撫でる女性、部屋の中はもう真っ暗である。


鎧戸の隙間からは、茜色の光が遠慮しがちに、

うっすらと、女性を照らし出している。


「マリーさん、ですか」


「はい、蝋燭も此処にはもう無いので、

日暮れ前に起こしに、参りました」


「ああ、そうかこの国は今、大変な時でしたね」


俺はママゾンを開いて、ランタンを二つ購入し、

ストレージから取り出すと、電池を入れ、灯りを付けて、


一つをマリーさんに渡した。


「今日の所はこのランタンを使って下さい」


「この灯りは、ランタンと言うのですか?」


「はい、そうです」


「とても明るいですね」


「えっ、そうなの?」


「夜は、蝋燭しか無いので」


たしかに、蝋燭の灯りに、比べれば

LEDランタンのほうが、何倍も明るい。


「では食事の前に、風呂にでも入りますか」


「えっ!此処に風呂なんて物は無いのですが、王族や、貴族や、

一部の金持ちは、持っているとは聞いた事が有りますが、」


「いえ、俺には人にない特別な能力がありまして、

他言無用でお願い出来ますか?」


「はい!墓にまで持って行きます」


「其処まで大袈裟な事では無いのですが、

他の人に知れると、大騒ぎになってしまいますので、」


「はい!承知致しました」


俺は銭湯を開いた。すると壁にドアが現れた。


ドアを開けて中に入ると、左右に下駄箱が置かれて有り、

その前にすのこが置いてある。


いわゆる、風呂屋の玄関である。


靴を脱ぎ下駄箱に入れて、下駄箱の番号が打ってある、

木の板で出来たカギを抜く。


入って正面には、左に女湯、右に男湯ののれんが掛かっており、

奥に引き戸がある。昭和臭がプンプンするまさに、銭湯であった。


マリーさんに風呂の説明をする為に、

女湯ののれんをくぐり、引き戸を開けて中に入った。

決して俺が女湯に入りたい訳ではない、決っして、・・・・


中に入ると、すぐに番台があり、

タオルやひげそり等が置かれてある。


「マリーさん、此方が女湯になります」


「男女別々なのですか?」


「はいそうです、向かって左が女湯になります。


右が男湯となっています。


タオルは番台この台に乗っているので、それを使って下さい、


番台の横にある冷蔵庫に飲み物が入っているので、

風呂から出たら、飲むと良いですよ」


脱衣所の左右には、胸位の高さのロッカーが並んでおり、

その上には大きな鏡、ドライヤー、脱衣かごが置かれている。

脱衣かごを取り出して、


「この中に、服を入れて下さいね」


「ハイ、分かりました」


脱衣所の説明を終え、奥の引き戸を開けて、浴室へ。


「この桶で掛かり湯をしてから、

湯船に入って下さいね、体を清めてから湯につかるのは、マナーですから」


「マナーですか、はい、承知いたしました」


「良く体が温まったらこちらで、体を洗ってくださいね。


此の赤いノブを押すと、熱いお湯が出ます。

青いノブを押すと、水が出ますので、


丁度の力加減で両方を押して、丁度いい湯加減のお湯を出して下さい。


このカランを回すと、シャワーが出ます」


「シャワー?」


「ああ、分かりませんよね~」


これをこうすると、ほら、実演すると、


「まあ!凄い」


ボディソープを見せて


「タオルを濡らしてこのポンプを押すと石鹸がでますので、

良く泡立ててから、体を洗って下さい」


又石鹸の出し方を実演すると、


「まあ!凄い」


「此れが、体を洗う石鹼で、こちらが、髪を洗うシャンプーで、此れが、

洗った後の髪をしっとりさせる、リンスです」


「ハイ、覚えました」


「男湯と女湯の仕切りは上が、いけいけなので、

分からない事があれば、声を掛けてくださいね」


「ハイ、承知いたしました」


「では、俺は男湯の方へ行きますので、ゆっくりと

入浴を楽しんで下さいね」


「はい」


俺は、脱衣所に戻ると男湯の方へ向かった。


籠を取り出して、着ている服を籠に入れて行くと、

後ろから、ぱさりと音がした。


「えっ!」


と、振り返ると、マリーさんが着ていた、


服をかごにいれていた。って

一枚脱いだだけで、全裸かよ!


マリーさんが着ていた服はいわゆる、綿の白地のワンピースだ。

下着はつけていない様だ。


「マリーさん、ここは男湯ですよ?」


「ハイ、承知しています。


タカシ様のお世話をさせていただきたいので、こちらにまいりました。


このように、やせ細ってみっともない体の私では、

ダメでしょうか?」


確かに、骨と皮だけの状態と言っても過言では無い。


前は胸も豊かだったのだろう、


油切れのラクダの様に、皮だけがたれている。

膨れた下腹部が痛々しい。


餓死寸前と言っていたが、冗談では無かった様だ。


「マリーさんの体が心配なのですが、

マリーさんがそれで、納得出来るのなら、かまわないですよ」


「はい!これから毎日お世話させて下さい。

其れから、私の事は、マリーと呼び捨てでお呼び下さい」


何か、手を組んで、目をキラキラさせて、

祈っているんですけど~、


「マリーさん、いやマリー、俺は変わった能力はある様だけど、

普通の人だから、ネッ、祈りを捧げるのは、勘弁して下さい」


「タカシ様が、そうおっしゃるのであれば、我慢いたします」


我慢するする程の事なの~?服を脱いで浴場へ行き、

マリーに体をお湯で流してもらってから、湯船に浸かった。


洗い場で待機しているマリーに、


「掛かり湯をして、マリーもお湯に浸かりなさい、気持ち良いですよ」


「はい、承知致しました。」


とマリーも掛かり湯をして、湯船にと言うか、

俺の隣に来ている。


「はあ~、気持ち良いですね~」


「はい、お風呂とはとても気持ち良い物ですね、」


ホント~今日一日色んな事があったけど、

疲れが溶けて、流れ出して行く様だわ~


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