第3話 宿屋のマリー

宿屋のなかへ入ると、

開け放たれた、明り取りの鎧戸から、差し込む陽光が、

がらんとした、薄暗い店内を照らしていた。


一階はロビー兼食堂と、言ったところか、


人気のない店内の奥へ行くと、

小さなカウンターが有り、カウンターの前迄行くと。


「ごめんくださーい」


と声をかけた。

すると、カウンターの後ろにある廊下の奥から、


「はーい!今行くよー」


と、返事が返ってきた。

廊下の奥から、まだ若い、

二十歳位の女性が、こちらにかけて来た。


薄暗いので、はっきりとはしないのだが、

金髪のようだ。

背丈は165CMと言った所か?


カウンターに来た店員?

おかみさん?薄暗いから分かりずらいが、

目鼻立ちは整っている様で、美人さんだが、とても痩せこけて居た。


「お客さん、泊りかい?」


「はい、一泊したいのですが、いくらになりますか?」


「素泊まりで、大銅貨一枚だよ、食事は見ての通り、食料が無くてね、

自分で用意しておくれ」


俺は大銅貨を懐から出す振りをして、

ストレージから取り出して、手渡した。


「はい、それで結構ですよ」


「お客さんあんた、手ぶらの様だけど、食料を持っていたりするのかい?」


「ええ、有りますよ」


と言って、ママゾンを開いて、菓子パンを五つ程購入すると、

すぐに、骨付き肉のロゴが点滅した。


「は、はや~」


神様サービス良すぎ、


ストレージから菓子パンを、五つとり出した。


「じ~~」


菓子パンを見つめている。どうやら、おかみさんの様だ。


「ねえ、お客さん、こ、これは?」


「菓子パンって言うパンです。」


「触ってもいいかい?」


「え、はい、良いですよ」


おかみさんは、恐る恐る菓子パンに触ると、


「な、なんて柔らかい、フワフワだわ、とても美味しそう」


出てるから、ヨダレ出てるから。


「ネエ、お客さん?宿代はいいから、

譲ってくれないかい?

宿代とは別にお金を出しても良いし、

何なら、今夜、夜の相手をしても構わないよ、

あっ、勘違いしないでおくれよ。

私はその辺の淫売とは違うよ、死んだ亭主以外は、男を知らないし、


・・・・。


もう3日、何も食べて無くてね、後数日もすれば、私も、

城門前広場の隅に積み上げられた、

死体の、山の中行きさね、年増の未亡人で悪いけど・・・・」


あそこの城門前広場、

まだ死体の山が、あったのかよ!

あそこで、引き返して良かったわ~色んな意味で。


「それでは、宿代はそのままで、

別に体もいりませんし、菓子パンをお譲りしましょう。

その代わりと言っては何ですが。

私は、遠い異国の地より来た者でして、この国の事が良く分かりません。

色々と教えては貰えないでしょうか?」


「えっ、そんな事でいいのかい?

喜んで教えさせていただくよ・・・・」


じ~~


「食べても良いかい?」


「あっ、どうぞ召し上がれ」


おかみさんは、

ぴっと口で袋を開けて、菓子パンにかぶりついた。

そして、目をとじ、

ゆっくりと、ゆっくりと、味わう様に、咀嚼し始めた。


えっ、泣いてるの?泣いてるよ~此の人、

鼻水たれてるし~


「大丈夫ですか?」


と聞くと、コクコクと、うなずいている。

俺も、神界からこっち

何も食べていないことを思い出して、ママゾンを開いて、

菓子パン三つと、ペットボトルのコーヒーと、紅茶を購入した。

すぐに骨付き肉のロゴが点滅したので、

ストレージから取り出すと、紅茶のキャップを開けて、

おかみさんの前へ置いた。


おかみさんは、それに気付くと、

じ~~っと見つめている。


「紅茶と言います。

パンは喉が渇くので、それを飲んで下さい」


と言うと、咀嚼しながら、コクコクとうなずいた。

菓子パンを、三つ食べ終わった所で、

ペットボトルに口を付けて。


こわごわと口の中へ入れると、目をかっと見開いて、

半分位、一気にゴクゴクと飲んだ。

ペットボトルから口を離すと、


「なに此れ?美味しいし、あ、甘い!」


と呟くと、又ぴっと、菓子パンの袋を口で開けて、

菓子パンにかぶりつき、ゆっくり味わうように、

幸せそうな顔をして、咀嚼し始めた。


ポロポロと、涙を流している。


俺もコーヒーを飲みながら、菓子パンを食べ始めた。


「うん、美味い、」


俺もお腹が、すいていた様だ。

俺はパンを一つ残して、コーヒーを飲んでいた。


ん、何?この突き刺さるような視線は?


おかみさんですよ、まだ若いけど、おかみさんですよ、

残った菓子パンを突き刺さるような視線で、ロックオンしてますよ~、


じぃ~~~


俺はにっこり笑って


「これも食べてもらって、良いですよ。」


「えっ、良いのかい?」


「はい、」


おかみさんは、


バシュッとパンをひったくると、ぴっと袋を開けて、かぶりつき、

又幸せそうに、咀嚼しだした。


「あっ、やっぱり泣くんだ。」


菓子パンを食べ終わり、

ゆっくりと、紅茶を飲み干すと、


おかみさんは、ゆっくりと顔を上げ、幸せそうな微笑みを浮かべて、


「私・・もう死んでも良い・・・・かな?」

と呟いた。


いや、いや、いや、いや、

菓子パンで、死んじゃだめでしょう、

おおげさだって~って、そんな幸せそうな顔しないで~

って、又泣くんかい!


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