第1話 今の状態がこれだ!
気づけば、時計の針はすっかりと進みきっていた。
現在、午前8時。出発の時間。
ゲームやってて学校に遅刻は流石に洒落にならん。
「俺、もう行ってくる!」
俺は慌ててひとまず自室を出る。
「お兄ちゃん、今日もあそこいくの?」
我が妹、
「ああ、うん行くつもりだけど」
「なら、けっこー遅めなのね」
久美は特に激しく反応することもなく、俺を見送った。
*****
俺の名前は
高校一年生。
至って、普通の男子高校生のつもりであるが、他の人と少し変わっている特徴がある。
それは、凄い女の子のような見た目をしているということだ。
しかし、決してジェンダーレスだとか、性同一性障害とかではないのだ。心は男。外見こそこれだが、しっかりちんこもついてるし、おっぱいは膨らんでいない。
服を脱げば秒で男と分かるのだが、猥褻部を隠すと本気で女に見えるそうだ。しかも結構可愛く見えるようだ。
俺の知り合い曰く、「男の娘属性」が備わりすぎているようだ。
男の娘は大好物だが、それになろうとは思わないので、女装とかする気などはないのだが……。
まぁ、そんなのだからか、トイレや銭湯の時には結構苦労することはある。まぁ、しっかり正体明かせば大丈夫なのだが。(ご開帳)
そんな感じで、俺はこの見た目に結構悩まされている節はあるが、まぁそれを除けば、今はそこまで不自由のない生活を出来ている。
しかし、例のあの場所では俺の自分の扱いは少し違ってくる。
多分、意味わからないと思うが、後々分かると思うので、気を楽にして、読み進んでもらいたい。
そんなわけで俺は梁団扇高校に着いた。
超マンモス校の私立高校。
その11組が俺のクラスだ。
そこで俺は普通に授業を受けている。
「親友」と呼べる者に覚えはないが、多少話せる程度の「友達」はいる。そんな感じの友好関係だ。
「よう、立花。今日、なんか課題提出あったっけ?」
「今日はカエルの解剖実験の考察ってやつの提出日だろ?」
この俺に課題提出の存在を訊ねてきたのは、俺に「男の娘属性がある」と言ってきたあいつだ。名前は
小さい女の子(に見えるものも可)が好きなようで、おっぱいの許容カップはA~Cのようだ。勿論、そんなの全く持ってどうでもいい情報なのは重々承知なのだが、当の本人が必要以上に話してくるのだ。そのおかげか、こいつの趣味についてはかなり理解できていて、オタク趣味に関しては多少通じる仲間だということも分かっている。
まぁ、つまりはこいつがある程度の友人なのだ。一緒にオタバナができる、言うてもかなり貴重な友人。
「まじか!アレ、今日か!ちょっと見せてくんね?」
そう勝司は合掌して俺に頼み込む。
「そのまま写すとバレるぞ?」
「ちょっとだけ変えとくから、丸写しじゃなければ、大丈夫だろ」
そう言いながら、彼は俺のカエルの解剖考察プリントを奪い取っては、それを凝視しながらペンを進めた。
そして、今日も何事もなく授業を終えた。
部活にも入ってないし、放課後に学校に用がない俺は大体、足早にここを立ち去る。
俺は今日もさっさとここから出ようとしていた。
その時、俺はふと、とあるJKの存在が気になった。
今、廊下で団欒しているそこのJKだ。
キラキラしている感じの明らかに俺のような朝っぱらからギャルゲーやるようなやつとは真反対に属する人種だ。
俺はその娘たちを横目に見ながら、足早に学校を立ち去った。
*****
俺には居場所がある。
俺が必要としていて、俺が必要とされている場所だ。
だから、学校に帰ってくると、早々に私服に着替えて、そこに向かうのが俺の毎日の習慣だ。
何故、学校から直で行かずに一回家を経由するのかと言えば、俺はこの場所を学校とかと別にしたい。しなければならないからだ。
だから、ここに制服で行くわけにはいかないのだ。その為、良い感じの私服で行く。
そこで俺は……ギターを弾いているのだ。
ガリガリにディストーションの効きまくったロックギターだ。
「おらあああああ!!!盛り上がっていくぜえええええええええええ!!!!!!!」
この演奏のギターボーカルを務めている男そういう風に雄叫びをあげる。
観客もそれにノり、「うおおおおおお!」と手を挙げて盛り上がる。
そして、俺は声はあげずに、ただひたすらにギターリフを弾いていく。
ただ、弾くのだ。
まぁつまりはこの場所での俺の立ち位置は「サポートギタリスト」というわけなのだ。
これでも、結構上手いって有名なんだぜ?
*****
「なかなか良い感じでしたね!」
「そうだな!」
俺たちの出番が終わり私は一息をついた。
今日も上手く出来たなと。
「それにしても、凄いギター上手かったですね!やっぱり!」
「そりゃ、どうも……」
私は今日組んだバンドメンバーにそう言われて、思わず後頭部をかいた。
「おい!次のバンド始まるみたいだぜ!ちょっと見ようや」
「そういえば、結構可愛いガールズバンドだったよな」
そこにいた男たちはゾロゾロとそのライブを見に行った。
———俺も暇だから、見に行こうかな。
そう思い、俺も立ち上がった。
……結構人がいるな。
しかし、なんか客層がいつもと違う気がする。
*****
観客はどちらかというとオタクっぽい人たちで溢れていた。あまりライブハウスでは見ない客層だ。
「なんだ?こいつら……?」
我らライブハウスの民が思ったことはそれであった。
その客層はいかにも「オタク」に属する人種であった。つまりは俺と同じような人種。
「もしかして、アニソンコピーバンドだったりすんのかな?」
俺は一人でそう呟いた。
そんなことをしていると、彼らの待ち望む者たちがライブハウスの舞台に立った。
そのバンドはどうやらガールズバンドのようだ。人数は四人。
長髪のボーカル、ポニーテールのギター、背が小さすぎてベースに持たれているロリ、陽キャ雰囲気を醸し出しているドラム。
統一性のないバラバラなタイプの人間が集まった異質なバンドだ。
「皆さんどうもこんばんはー!デンパライトです!今日はいつもと違うハコですが、盛り上がっていきましょー!」
ボーカルの女が腕を突き上げ、そう叫んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
前列の男たちが雄叫びをあげた!
そしてギター、それに応えるかのように一回大きく振りかぶってストロークを魅せる。
そのコードはすごく特徴的であった。
俺がプライベートで聴いている、とても大好きなコード進行……。
*****
「いやーハナミさん!今日は本当にありがとうございました!」
ライブが終わると臨時サポートしたバンドからはこんな風に喜んでもらえる。こんな声は結構励みになるものだ。
「ところでこの後空いてますぅ?良かったら一緒に打ち上げ行きません?こう、クイッと!」
「私未成年っていうこと忘れてますよね……?」
「そうでした!ハナミさんは女子高生!ですもんね!」
「あはは……」
俺のこの場の扱いは女性となっている。これには「何故か」をつけた方が良いのであろうか。
この扱いは俺がライブハウスに通うことになってから始まったことだ。
初めてライブハウスに入ったときにこの容姿とライブハウスは比較的女性も男性のような恰好をする人がいるという理由なのか、それとも俺がその時あまり服に気を遣わず、ただのTシャツとズボンという中性的な恰好で行ったのがそうなのかは分からんが、その時に「女性」として扱われ、今に至る。
正直、さっさと訂正したいとは思っているのだが、気づかぬうちに結構有名な女性ギタリストとして知られてしまい、言うことを躊躇ってしまっているのだ。
勝司よ。ライブハウスに来てみろ。本物の男の娘が見られるぞ。
俺はこの後、今日組んだバンドと別れ、一人帰路についた。
そんな時の出来事である。
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