第10話 真の黒幕
12時10分。昼休憩。
時計を確認して俺は生徒会室に直行した。1年生のフロアなので行き来が楽である。
最初は重々しい雰囲気に感じたこの埃っぽい部屋にも慣れてきた。
「やぁ。どうしたんだい、僕だけ呼び出して。」
入口から、トーンを抑えた声が聞こえる。
「すみません阿比先輩。少し確認したいことができまして。」
阿比先輩は笑いながら、チラリと横の机に目をやった。
「あ、そういえば七篠ちゃんから聞いたよ。書類、見つけてくれたんだね。どうもありがとう!」
念のためか、七篠が金庫にしまっておいた6枚の書類を確認しながら俺に感謝の言葉を伝える。
「いえ、そんなことはどうでもいいんですよ。」
「どうでもよくなんかないよ。君が見つけてくれなかったら望月先生に大目玉喰らうところだったよ。改めてありがとう。」
望月は生徒会の担当教師か?昨日も聞いた気がしたが、それを確認する余裕はこの時の俺には無かった。
「でも上の方に穴が開いちゃってるなぁ。これは、画鋲かな?」
撫でるように資料を触る。
「単刀直入に行きましょう。あなたですよね?今回の1件を引き起こしたのは。」
聞いた瞬間こちらを向いて、阿比先輩は昨日のややむかつく笑顔を作る。
「へぇ、緋村君は僕を疑っているんだ。でも残念、僕はこの書類を隠した覚えは無いよ。」
煮え切らない人だ。
「そうですね。この6枚の書類に関しては、ですよね?あなたが盗んだのは、」
腹筋に力を入れて、お腹が鳴りそうなのを必死に堪える。
「水落木先輩の書類なんですから。」
阿比先輩の表情は固まっていた。「こいつは何を言っているんだ?」という顔なのか、「なぜバレたんだ?」という顔なのか、俺には判別がつかない。
「ちょっとちょっと、水落木先輩の書類だって?先輩の書類ならファイルに全てあったはずだよ?紛失した後にみんなで確認したんだ。それはないと思うけどな。」
「ええ、6枚の書類がなくなった後、その書類は再びファイルの中に戻されたのですから。確認した際にあったのは当然ですよ。」
徐々に阿比先輩の顔からは笑顔がなくなっている。
「それってどういうことだろ?」
「簡単な話だったんです。昨日の昼休みの段階で、すでに一枚の書類が消えていたんです。」
埃っぽさに嫌気が刺したのか、俺から目線を外し窓を開け、外の様子を見ている。
ただ今日は風が少し強く、余計に埃が舞い上がってしまっている。
「紛失したすべての書類が部活動に関わる書類だったのに、不自然に1枚だけ残っていましたよね。水落木先輩の書類だけが。それは、最初ファイルの中に無くて抜き取れなかったからだ。いやむしろ、それがなくなっていなければ今回の書類紛失は起こらなかった。」
こちらを冷ややかな目で見てくる。入学初っ端の自己紹介で滑り倒した時に向けられるような視線とでも言おうか。まぁ向けられていたのは井戸端だったが。
「あなたは水落木先輩の行動を予測していた。自分の書類がなくなっていればこうすると分かっていた。そうじゃないんですか?」
「さぁ。僕はテレパシーが使えるわけじゃないから、無理じゃないかな?それに、僕がやったっていう証拠はないでしょ?」
「裏付けることはできます。」
多少弱いから、この事はあまり言いたくなかったが。
「というと?」
俺はポケットから1枚の紙を取り出す。
「朝、4階の目安箱に白紙の紙が入ってました。2回折ってあるのでぱっと見では白紙かどうか判断できませんけど。」
白々しく顎に手を当てて不思議がる。
「誰のいたずらだい、それは。」
「こんな目安箱に1枚白紙の紙を入れるなんていたずら、高校生がするとは到底思えない。」
「だったら?」
「書類を隠す場所を潰したんだ。昨日、6枚の書類を抜き取った水落木先輩は目安箱回収の際に書類を箱の中に隠そうとした。いや、そうするように誘導された。だが、そこに1枚回収されていない意見書らしき紙が残っていた。そうなると、この後回収が行われる可能性が高い。よって、そこに隠すことはできない。止む無く書類に、」
画鋲を刺し、勧誘ポスターの裏に隠した。
勢いで水落木先輩の名前も出してしまったがここまで来たら関係ないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます