第6話 下校
「いえ、可能性がかなり潰れました。この調子で残る可能性を追いかければ、真相に辿り着くのは時間の問題だと思います。ただ、今日の残り時間でそれは厳しいですね。」
とりあえず俺はこの場を誤魔化すようにそれっぽいことを言った。
「おぉ、そうか。それじゃあ続きは明日ってことか!」
やけに嬉しそうな古都瀬先輩と、少し不満げそうな3人と七篠。
「まぁしょうがないな。」
「もうそろそろ最終下校時間ですもんね。」
「今日は一旦帰りましょう。」
「いや、でも…!」
七篠が全員を引き止めようとするが、民主主義の世の中だ。多数派に勝る少数派はいない。
俺は少し確認したいことがあったので、古都瀬先輩から鍵を預けてもらった。
10分ほど生徒会室でぼんやりしていたら、外はすっかり暗くなっていた。
下校している生徒を見て、俺も生徒会室を後にする。
鍵を返しに職員室に行ったが教師はほとんどおらず、俺が生徒会室の鍵を返すことを咎める人間はいなかった。
人というのは、他人の行動を予測できないものだ。今回の一件がまさにそうだ。いったい、なぜ資料を盗むなんてことしたんだろうか。トリックが分かっても動機が分からなければイマイチ納得ができない。
校舎を出て校門を通過する。
「なにしてんだ?」
「待ってたのよ。一人じゃ怖いと思って。」
俺は幼稚園児かなにかなのか?
虫の音なんかもしないこの季節、自転車のチェーンの音だけが耳に入る。
脇道には水が張られた田んぼが並んでおり、そこから心地良い潤いを感じる。
帰り道が同じ七篠は自転車を押して俺と並列で歩いている。さっさと帰ればいいものを、この期に及んでまだ俺に何か頼もうとしているのだろうか。
「瑛一、あなた本当にまだわかっていないの?」
「なにがだ?」
左足で右足を小突かれる。少し痛い。
「犯人に決まってるでしょ。あなた、誰かに気を遣ってあの場では言わなかったのかと思って。」
だいたい合っているが、俺は黙秘権を行使した。
隣を歩く同級生は、歩くたびに一本にまとめた髪を揺らしている。髪から漂ってくる香りは、何とも言えない。青春の匂いとでも言おうか。
「じゃあ、あなたの貸しにしてあげる。だから白状しなさい。私にも教えて?」
子どもを諭す親のような口調、少しずつ柔らかくなる言葉遣い、俺の顔を覗き込む優しそうな笑顔、目を細めて全てを悟っている顔にも見える。
速めに歩いていたからだろう。少し心拍数が上がっているようだ。
「じゃあ、明日の朝生徒会室に来てくれ。あ、でも鍵は生徒会のメンバーじゃないと借りれないんだっけか。」
まぁ鍵がなくても問題はない。あった方がよいというレベルだ。七篠は口角を上げてなぜか誇らしげにしている。
「大丈夫。教師の目を盗んで借りてくることくらいわけないわ。」
貸し借りのルールには超がつくほど厳しいくせに、学校のルールは守らない。それが七篠椿羽だ。
というかそれは”借りてくる”ではなく”盗んでくる”だ。
「じゃあ8時に生徒会室でな。」
自転車に跨る怪盗が見えなくなるまで目で追いながら、俺は自分の帰路を歩く。
今日は数学の課題が出ていた。
これは明日、早めに学校に行ってその時に終わらせる。今日はゆっくり寝よう。もうクタクタだ。
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