第5話 完全犯罪?

とまぁ、これで全員の行動を聞いた。時計は5時半を回ろうとしていた。参ったな、意外と時間が無い。



「あのさ、緋村、くん?考えてもらっているところ悪いんだけど、あとどれくらいかかりそう?」



ソソッとこちらに寄ってきて、耳打ちをしてきたのは古都瀬先輩。どうやら同じことを考えていたらしい。



「そうですよね。6時が最終下校時刻ですもんね。」



「まぁ、それもそうなんだけど…。」



それ以外何かあるのだろうか。


ソワソワした様子の古都瀬先輩を他所に、他3人は多少神妙な面持ちだ。それは書類がなくなった事ではなく、その犯人がこの中にいるからだろう。


何のために?動機が分かれば解決する問題なのか?

まずは可能性を出してみたいが、ふわふわした状況で可能性すら浮かんでこない。


目を瞑って考えていた鵜飼先輩の目が見開く。



「なぁ緋村。実は書類の提出期限は明日までなんだ。」



「え?そうなんですか。」



では提出するうえでは今のところ今日は見つけられなくても問題はないわけか。



「そうですね。水落木先輩が徹底して前日までに書類を完成させるようみんなに言ってくれたおかげで、命拾いしましたね。」



会長の一言で少し空気が和らいだのか、阿比先輩はニコッと笑いながら水落木先輩に言う。



「完成させているのはみんな。私のおかげではないわ。」



冷静で謙虚な対応、さすが3年生だ。



だが、

「どちらにしても書類の在りかは見つけないといけないんですよね?だったらギリギリまで粘りましょう。」



「そうか。それは助かる。」



感謝を伝えてくれる鵜飼先輩とは反対に、ムスっとした表情の古都瀬先輩。気にしないでおこう。

俺はDay2などごめんなのだ。



「では、こうしましょう。物理的に犯行が可能なのはおそらく目安箱が設置された時間。この間不在になった時間は2分ほど、そう言ってましたね?」



「あぁそうだ。」



鵜飼先輩はゆっくり頷く。



「ではこの間に書類を抜き取れる方法を考えていきます。」



視線が一気に集まる。



「でも、金庫を空けるには時間がかかるんでしょ?」



ここで部外者の七篠が口を開いた。



「確かに。ただそれは、金庫の中に書類が入っていた場合だ。」



「俺たちが目安箱を取りに行く時、すでに書類は金庫の外にあったと?」



鵜飼先輩がとても真剣な表情で問いかけてくるので、こちらも一応真剣な表情をしておく。



「可能性の話です。実際、あの瞬間、書類が絶対に金庫の中にあったとは言い切れないでしょ?」



「いや、言い切れますよ。」



横から爽やかスマイルが飛んでくる。一瞬ムッとしたが、ここは先ほどの水落木先輩に倣って冷静に行こう。



「どうしてですか?」



「僕はこの部屋に入ってからずっと金庫の横に座っていました。それから誰も触っていないのは僕が保障できます。」



阿比先輩自身が開けた可能性が考慮できてないよな。目安箱の回収に行っているタイミングでどこかに隠す事は可能だろう。



「そうだな。古都瀬が開けるまで、俺も書類を見ていないし金庫も触れていない。」



おっと。鵜飼先輩の主張で一気に言葉に重みが出る。

つまりは、この主張にはある程度の信憑性はあるということだ。



「なるほど。では、古都瀬先輩が取り出した瞬間はどうでしょう?」



「え?もしかして、私疑われてる?」



自分を指差し不安な表情を見せている。



「いえ、そうではなくて。古都瀬先輩の注意をなにかしらで逸らして、その間に盗み取ったのではないかって話です。」



「あー、確かに。私書類を机に置いて後ろのロッカーに…なにを取りに行ったんだっけ?」



そこはどうでもいい。ただ、一瞬でも書類から目を離した瞬間がある。これが重要だ。



「そのタイミングで書類を盗み取ったってことか?それもないんじゃないか。」



鵜飼先輩の否定が入る。



「さすがに一瞬すぎますか?」



「そうだな。それに、そんな突発的な出来事にうまく対応はなかなかできない。」



まぁその通りか。



では、もう一つの可能性。



「1年の式田くんが絡んでいる可能性はありませんか?」



「式田は女子だぞ?」



真顔で鵜飼先輩が言う。

おっと申し訳ない、式田さん。なぜか脳が勝手に男として認識していた。

でも、別に女子にくん付けして何が悪いのだろう。デリケートな問題には、あまり触れないに限る。



「式田さんは今日お休みだと聞きました。ですが、避難訓練の時間にこっそりと生徒会室に侵入し、書類を盗んでいった。そう言った可能性はありませんか?」



「ないわ。」



今度は水落木先輩から速攻否定。



「理由を聞いても良いですか?」



野球部の掛け声が4階のこの部屋まで響いてくる。



「さっき私に連絡が来たの。文目(あやめ)のメール、写真も付いてたし間違いないわ。」



証拠のために女の子の写真を見せてください、と言ったら生徒会を敵に回しかねないので遠慮しておく。

書類のなくなる日に欠席している、なんとなくタイミングが良いような悪いような感覚があったが...。

ここは水落木先輩を信じておくか。



「なぁーんだ。じゃあ結局振り出しってこと?」



拍子抜けした古都瀬先輩とは裏腹に、俺はほっと息を吐く。



むしろ逆だ。これで謎は解けたと言っていい。

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