第4話 事情聴取
「そのあとはみんなでくまなくこの部屋を捜索したけど見つからず。そのせいでロッカーにものを突っ込んでこのありさま。お手上げ状態の時にここの廊下を七篠が通り過ぎてさー。前に謎解きが趣味の彼氏がいるって聞いたから藁にもすがる思い出お願いしたってわけさ。」
「ちーがーいーまーすー。そんなこと言ってませんよね?そういうこと言ってると古都瀬先輩の…」
「だぁぁぁぁ!!ごめんごめん!!私が悪かったぁ、先輩後輩、仲良くいこうな?」
古都瀬先輩は七篠に勢いよく駆け寄り、口を押さえている。俺は気にせず頭を整理する。昼休みまではあった資料がこの生徒会室から無くなった、6枚だけ。
もしこれが誰かの作為性のあるものだと仮定するなら、盗んだ枚数は重要なのか、そもそも動機はなんなのか、疑問点がわんさか出てくる。
どちらにせよ、まずは絞り込みをしないと話にならない。
「資料がなくなったとすれば、昼休み後から資料消失発覚の時間まで、いつでも資料を盗める状況だったんですか?」
「そんなことはないと思うよ。」
爽やかで鼻につく声が聞こえる。阿比先輩が初めて口を開いたのだ。
「今日は避難訓練があったからね。5、6限にここに来られた人はいないと思うよ。あと、生徒会室の鍵を借りられるのは基本生徒会のメンバーだけ。たとえこっそり借りても、」
阿比先輩は窓側前方に視線を移す。そこには随分と頑丈そうな金庫のようなものがひっそりと置いてある。床に直接置いてあるから視線に入ってこなかったのか。
「重要書類はこの中にしまってあって、暗証番号を知らないと開けられないんだ。」
「それを知っている人は?」
「生徒会メンバーだけだね。」
なるほど、そうなると資料を盗める時間、人間はかなり限られてくる。
「資料は、放課後から消失発覚までのどこかで盗まれたってことになりますね。これが作為性のある誰かの仕業である場合ですが。」
そこに一同文句はないようで、全員が大きく頷く。
「ちなみに書類の消失が発覚したのはいつ頃でした?」
「5時前だったかな。5時のチャイムがなる前だったし。」
5時になると学校からではなく、どこからかチャイムが鳴るようになっており、子どもの頃はその音を聞いたら帰るという習慣が地元の奴には根付いていた。
そういえばあのチャイムは一体どこからなっているのだろうか。どうでもいいことが頭をよぎる。
「じゃあ放課後に入る4時15分から5時前までに、書類は姿を消したという事ですね?」
またしても全員大きく頷く。
だとすれば話はそう複雑ではない気がする。
「最初に生徒会室に来たのは?」
その問いに、阿比先輩が手を挙げる。
「僕だよ。放課後鍵を借りに行くのは僕の仕事だからね。式田が昼休みに借りに行き、水落木先輩が返しに行って、放課後返しに行くのは古都瀬さんだったよね?」
「うん。今日の昼も私が借りてきたけどねー。」
式田なる1年生が休みだったからか。
一番簡単な答えが正しいかを確かめる。
「どれくらいの時間1人で居たんですか?」
余裕のある笑みを浮かべている。なんだろう、なぜか自分が負けている気分になる。
「もしかして僕、疑われてる?困ったなぁ、僕は多分10分程度1人で居たと思うよ。」
決まりじゃん。
「ちょっと待って。」
七篠が割って入ってくる。さっきまで古都瀬先輩とわちゃわちゃしていたが、和解したらしい。
「私、今日陸上部の練習に行くために友達を待っていたの。1年5組の教室の前で。確かに阿比先輩は生徒会室に入っていったけど、出てきてもないわよ。」
1年5組は生徒会室に最も近い教室になる。位置関係としては、生徒会室、生徒会室準備室(プレートにはそう書いてあった。)、トイレ、1年5組といった感じだ。確かに、顔見知りが出てきたかは分かる程度の距離ではあるな。
顔見知りがいるのに犯行を実行するのも変だ。
少し息を多めに吸う。
そんな簡単なら俺が呼ばれることも無く完結してるだろうし、阿比先輩の様子から潔白を証明できる何かがありそうな雰囲気はある。
もうわざわざ聞く必要もないから聞かないけど。
「じゃあ次に来た方は?」
「俺だ。」
鵜飼先輩が低めの声でそう言う。
「多分4時半頃だった。今日は金曜にある部活定例のための議題を考えていたんだ、阿比と一緒に。この部屋に特に変わった様子はなかったと思うがな。」
部活定例って毎週やっているのか。だとすると部長にはすごい負担になるよな、だとすれば月ごとと考えるのが妥当か。
関係ないから聞かないけど。
鼻を啜って水落木先輩が窓を開ける。
確かになんだかほこりっぽい。しばらく手をつけていなかった書類を一気に動かした弊害が現れている。
「あぁ、ただ最初に目安箱の回収に行ったな。」
各フロアに配置されているあれか、生徒会室の前にもあった。掲示板の横にポツリと存在し、掲示板は部活の勧誘で賑わっている中、対照的に隙間風が吹き荒れている印象だ。入学から1か月ちょい、俺は一度も入れていないが、果たしてどれほどの要望が生徒会には届いているのか。
「俺が2階と1階。阿比が4階と3階を回収しに行ってくれた。とは言ってもほとんど入ってはいないんだがな。」
だと思った。存在を覚えている生徒の方が少数派な気がする。
「どれくらい部屋を空けたんですか?」
「俺は3分から4分ほどだな。阿比は2分ってところか?すまんが性格ではないと思うぞ。」
「いや、そのくらいだと思いますよ。」
実証すれば目安の時間を出すことはできるだろうが、阿比先輩の賛同も得られているなら正しそうだし、その必要はない。
問題はそんな突発的なタイミングで、たまたま盗みに来る奴がいるかってことだ。しかも2分であの金庫から。
「ちなみにその金庫から書類を抜き取って持ち去ることは、2分で可能ですか?」
「無理だ。どんな手際だろうと3分弱って所じゃないか。」
少し驚いた。
「そんなにかかるんですか?」
「あぁ。この金庫、暗証番号を入れても2分開かない設計なんだ。一応強盗に襲われても時間が稼げるかららしいけど、ここで使う分には不便でしかない。」
なるほど、じゃあこれは本来お店で使われるようなものなのか。なぜここにあるのかは知らんが。
暗証番号付きでそのタイムラグが生じるとすると、やはり外部の人間には抜き出す事は厳しそうに感じる。
「次は私が来ました。4時45分頃だったと思います。」
間を空けて静かに水落木先輩が進める。危ない危ない、時系列の話を聞いていたのを忘れかけていた。
「...。」
生徒会室には沈黙が5秒近く続いた。
「それだけか?」
鵜飼先輩が腕を組みながら水落木先輩を見る。
「だって、来ただけだし。くしゅん。」
「それもそうか。」
どうやらそれ以上話すことはないようだ。あと、水落木先輩は埃が苦手なようだ。
じゃあ最後は、
「最後に私が来たよ。50分は過ぎてたかなぁ。」
異様に遅いな。放課後から30分以上、いったいどこで何をしてたのやら。
「ということは、来てすぐ書類を持っていこうとしていたんですね。」
「そうそう。ちょっと今日は私用があったんでねー。」
古都瀬先輩は髪の毛を触りながらそう答える。
「先輩、部活も生徒会の仕事もやらずに何してたか、あとできっちり聞かせてもらいますからね?」
「ごめんよ椿羽ちゃん。ここは先輩の顔を立てるために許しを与えてくれないでしょうか…。」
手を合わせて後輩に懇願する先輩。身長関係も相まって、どちらが先輩か分からなくなる。
「ダメです。きっちり説明してもらいますからね。」
怖いな、この後輩。俺は七篠と目を合わせないようにする。
「水落木はなんで遅かったんだ?」
話題を変えるためにか、鵜飼先輩が水落木先輩に投げかける。
「日直の仕事、やってたの。」
後輩には敬語を使い、生徒会メンバーにはタメ口という奇妙な採用基準をしている水落木先輩、今日はお疲れさまでした。
同じ境遇の者同士、仲良くやっていけそうです。うん?いやでも...。
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