第3話 消失した書類

色々と話を整理してもらった。まず生徒会メンバーについて。


会長の鵜飼先輩、副会長で大人びた女子生徒である水落木(みらぎ)先輩、ここまでが3年生。

親しく七篠と話していた小柄な女子生徒が書記の古都瀬(ことせ)先輩、会計担当である爽やかニコニコ男子生徒の阿比(あび)先輩が2年生。

一応広報担当の1年生、式田という奴がいるそうだが、今日は病欠で休んでいるそうだ。

1年生の5月から生徒会に入っているというのはどういうことなのか、気になりはしたが名前も知らない同級生の深掘りはしなかった。


ここまでの詳細は全て水落木先輩が話してくれた。冷たい第一印象とは裏腹に、口調や語気はとても優しく、面倒見の良い先輩という第二印象を持った。あともう少し口元が笑ってくれるとこちらとしてはやりやすいが、それは他人に求めていい条件の範囲を超えている気がした。


一生関わりなどないと思っていた生徒会の皆々の紹介を聞いたが、ここまでは前置きだ。



「それじゃあ、本題に入ろうか。なにが聞きたい?」



鵜飼先輩が切り出す。これはきっと重要書類消失の件だと察するが、驚くほどスルッと本題に入ろうとする。

一旦流れを切りたかったが、おそらく彼ら彼女らにとって俺は、本当に謎を解くためだけに存在するロボットか何かだと思っているのだろう。


唐突に大きな重圧がのしかかってくる。あまり期待はしないでください。



「事件当時の事を教えてください、なるべく詳しく。」



「えっと、確か最初に気づいたのは古都瀬だったな。話してくれるか?」



会話のボールは鵜飼先輩から古都瀬先輩へ。



「ほーい。」



軽い返事が飛ぶ。古都瀬先輩は天井を見上げながら当時の事を思い出しているようだ。



「今回なくなった重要書類はね、毎月このファイルに入れて生徒会担当の望月、先生に渡すことになっているの。」



「先生」を付け忘れそうになった古都瀬先輩は、机の上に黒く分厚いファイルを置いた。ドッ、と重厚感のある音とともにそれは現れる。


表紙には「ー生徒会重要書類ー」という文字と担当の望月先生の名前がある。

横から中に入っている資料の様子を確認する。資料がたくさん入っているが、質量自体はこのファイルが大半を占めていそうだ。



「昼休みに資料がすべてあるか確認したんだけど、念のためもう一度チェックしたの。そしたらびっくり、後ろ6枚の資料がなくなっていたの。」



緊張感のない声でそう言うと、ファイルを開いて最後尾の資料を開いてくれた。



ーー6月行事の一覧と目的ーー



最後の資料にはそう書いてあった。記入者は水落木と記されている。

が、もともとの資料の配置も知らなければ、そもそもどんな資料が入っているかもさっぱりな俺には、資料がなくなったかどうかの判断が付くわけがない。



「なくなった資料はどんなものだったんですか?」



「6月行事に関する資料だったな。1枚を残して全てが盗られていた。」



今現在、一番後ろの資料と関連性のある資料ってことか。



「じゃあ6月行事関連の資料を盗むための犯行ではないという事ですね?」



「まぁ一枚のこってるしな。違うんじゃないか?」



鵜飼先輩の声には若干緊張感があるが、そんなに切羽詰まった感じでもない。意外と今回の件は生徒会にとって、大事ではないのか?



「昼休みに資料をチェックしたって言ってましたけど、それは間違いないですか?」



「間違いない!だって担当した資料を各メンバー全員が確認したんだもん。」



古都瀬先輩はにこやか、かつ誇らしげな顔でそう言う。

重要資料消失の内訳は、鵜飼先輩の資料が2枚、古都瀬先輩の資料が3枚、阿比先輩の資料が1枚らしい。紙の厚さからして資料はおよそ50枚弱、資料は1人10枚程度の担当と考えると、3枚も無くなっている古都瀬先輩が流石に気づくよな。

仮に古都瀬先輩が見落としていても、各個人が自分の資料を確認したのなら、誰も気づかないのはおかしい。


資料が消失したのは昼休み後ということか。

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