第2話 生徒会室
今日は学校に残っている生徒が少ない気がする。すれ違った生徒は、3階から4階を気にする男子生徒1人だけだったし。俺も帰りたい。
生徒会室は4階にある。なぜ1年生のフロアに作ったのかは謎だが、毎回横を通り過ぎるときはなんとなく背筋が伸びる。
もしかしたら、そういった狙いがあるのかな。
「失礼します。」
ノックもせずに生徒会室に入る七篠の後に続いて、「しまーす。」とだけひっそりと言って着いていく。
中は教室2つ分程度の広さで、部屋の大半は横長の机と椅子が占めている。コの字に配置された机はおそらく生徒議会用だ。委員長と学級委員、それに生徒会メンバーが集まる時にはこの程度の広さが必要なのだろう。それにしても机の上はこんなに綺麗なのに…。
後方には教室と同様、ロッカーがある。
中は遠目だと何が入っているかわからないほど紙でグチャグチャとしているが、上にはサーキュレーターやクルクルと丸まった大きめの模造紙が置いてあり、どれも時の流れを感じる風格だ。とにかく散らかっている印象を受ける。
その横にひっそり佇んでいるのは、掃除用具入れか?ここは元々教室だったのかもしれない。
廊下側には大きめの書類棚も配置されているが、ここも整理されているようには見えなかった。
「おう、おかえり。それで、どうだった?」
ガタイのよい男は振り返って元気にそう言う。
やけに見覚えのある顔だ。いつ会ったのだろう、俺が(おそらく)3年の先輩と会う機会なんて、今まで数えるほどしかなかったはずだ。
「はい会長。連れて来ましたよ。これが緋村です。」
おい、個人情報を勝手に漏らすな。あと”これ”って言うな。
無理やり連れてこられて上級生の前で勝手に紹介されている。軽く会釈をするが、上級生と関わりを持ちたいとは毛ほども思わない。
さっさと帰りたい。
「おぉ、お前が緋村か。よろしく、俺は鵜飼だ。生徒会の会長をやらせてもらっている。」
会長と鵜飼という名前ではっきり思い出した。この人、入学式で何か喋っていたな。確か、「高校生活はどれだけ短く感じても、みんな等しく3年間だ。その間に何を成すべきなのか、1年生である今だからこそ考えてほしい。」と、こんな感じのことを言っていた。
少し高校生離れしていて、達観した言葉に聞こえたが、なんだか心に刺さるものがあった。
俺とは違ってこの人には未来のビジョンがあるのだろう。目標に向かって突っ走っているからこそあんなことが言えるのだ。羨ましいとは思わないが、会長の目にはキラキラした何かがあるように思えた。
「その人が、噂の謎好きな彼氏ぃ?」
会長と七篠で隠れて見えていなかったが、その場には他にも生徒がいた。今喋っていたのは...おそらく小柄な女子生徒だろうか。
「彼氏じゃないって何度言ったらわかるんですか、古都瀬先輩!これはただの道具、使い勝手の良い謎解きマシンってところです!」
「ふうん?まぁとりあえずそういうことにしておこか。」
冗談めいた会話が続いている。って、今俺のこと”使い勝手の良い謎解きマシン”って言ったのか?人間ですらないのか、俺は。
あと古都瀬先輩とやら、そこは少し怒ってほしかった。
他にあと2人、奥の椅子に座っている。片方は異常に整った髪をサラッと撫で、ニコニコとこちらを見つめる爽やか男子生徒、もう片方は正反対に、ムスッとした顔でこちらに疑念を持った目を向けている女子生徒だった。
黒髪ロングで姿勢が良く、非常に大人びた印象を受けるが、その分俺とは一線離れているような気がする。おそらく3年生だろう。
「あ、緋村っていいます。あの、なにがあったんですか?俺、突然呼ばれて…。」
かなりたじろいだ話し方になってしまった。理由は明白、今この場には基本上級生しかいないから緊張するのはむしろ普通だ。
しかも、上級生の中でも優秀な人材が揃った生徒会メンバーの目の前だ。いや、生徒会と言っても優秀かどうかはわからないか。
「生徒会の重要資料が無くなったんです。七篠さんから話は聞いていないんですか?」
熱を感じないその声は、大人びた女子生徒からだった。背筋がゾクッとした。
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