第27話:迷ってしまった俺達
【◆ゲーム世界side◆】
ダンジョンに入る前に、先生からマップを渡された。たけどそれには第一階層しか記載されていない。
『マギあま』のプレイでダンジョンに入ったけど、マップなんて覚えているはずもない。
だからここから、どちらにどう歩けば上の階層に上がれるのかわからないのだ。
「困りました。どちらに行ったらいいかわからないから、危なくて動けませんね」
「そんなのテキトーに動いてみたらいいんじゃない?」
「ハルルちゃん、それはダメでしょう。慎重に行かないと」
「そっかなぁ。レナは心配性だなぁ。大したことない魔物しかいないようだし、大丈夫じゃない?」
レナとハルルの会話が耳に入ってくる。
二人の性格の違いが出て面白い。
慎重になりすぎると動けなくなる。だからと言ってなんの考えも無しに動くのは危険が大きい。
大したことはないと言われてはいるけど、実際にどんな
慎重に行動するに越したことはない。
うーむ、どうしたものか。
──あ、そうだ。
俺は第一階層のマップを広げた。
第一階層から第二階層に降りる階段は2ヶ所表記がある。そしてさっき落ちたのはこの辺り。
ここから、2ヶ所の階段のうち近い方に行くとしたら──方向的にはあっちか。
「なあレナ……とハルルさん。あっちの方に向かって歩いてみよう」
「え? なぜですか?」
首を傾げるレナに地図を見せながら、さっきの考察を説明した。
「なるほど。さすがツアイト君です。でももしも第二階層の通路が曲がりくねっていたら、途中で方向を見失うかもしれませんね」
確かにそうだ。第一階層と第二階層の造りがまったく違う場合、第一階層の地図を見ながら、この第二階層の階段の所まで行けるかどうかわからない。
「そうだね。だから今どの方向を向いているか、確認しながら進まないといけないね」
「でもここの通路は微妙にカーブしたり、方向感覚がわかりにくいです。自分たちが向いている方向を知るなんて、魔法でも無理ですよ」
「だったらスマホの
──と、ズボンのポケットに手を突っ込んだが、そこにはスマホはなかった。
しまった。ここは『マギあま』の世界。
スマホは存在しないんだった。
「スマホ……ってなんですか?」
ヤバい。誤魔化さなきゃ。
「スマッホ〜っ! って楽しく叫んだら上手く行くかなぁ~って思った」
我ながらアホだ。言い訳が下手にもほどがある。
きっとレナに軽蔑されたに違いない。
「さすがツアイト君です。困った時ほど明るくいこうってことですね」
ちょっと待って。なにその信じ切ったキラキラした瞳は。
レナってピュアすぎないか?
「それって……テキトーに言ってるんだよね?」
さっきからほとんど話してくれなかったハルルがようやく口を開いたと思ったら、アホを見るような目で見られた。
まあ自分でもアホだと思うから仕方ないんだけど。
それにしても今までクラスで、他の生徒は俺に冷淡な態度だったが、ハルルだけは優しく接してくれた。
そのハルルがなぜか、今日は冷たい態度だ。
やはりあの手紙の差出人がハルルで、彼女はレナの大ファンで、だからレナと仲良くしている俺を本気で疎ましく感じているのだという気がしてきた。
だけどそれが真実かどうかに関わらず──
「とにかく今はこのダンジョンから無事に脱出することだけを考えよう」
「はい。ツアイト君は頼りになります」
学園イチ美人の女の子に頼りにされたら、頑張らないハズはない。
よし。いいところを見せよう。
慎重に周りを警戒しながら、俺が先導して少し暗いダンジョンの中を歩き始めた。
***
──おかしい。同じところをぐるぐると回っている気がする。もしかして……
「道に迷ってしまったようですね」
鋭いなレナ。俺の落ち度だ。すまん。
ちょっと歩き疲れたこともあって、立ち止まって前を見る。
目の前に、左右二つの通路が開けている。
「うーむ。これはどっちに行けばいいだろうか?」
さっきも同じような景色があった。その時に進んだのは左。
ということは、正解は右の通路か。
「よし、右に行こう」
いや待て。簡単に決めつけちゃいけないって気がする。
はっきりした根拠はないけど虫の知らせってやつだ。
俺たちがさっきから同じようなところをぐるぐる回っているのは、人を道に迷わせる能力をもった魔物が潜んでいるということもありうる。
そんな魔物っているのか。
『マギあま』をプレイしたのはもう三年前だから記憶が薄いが……思い出せ。
「なにをぐずぐずしてるの?」
「ちょっと迷ってるんだ。もう少し待ってくれないか」
「ここはさっきも通ったじゃない。で、左に行ったら同じところに戻ってきちゃった。っていうことは右側に行けばいいってことでしょ」
「ストレートに考えたらそうなんだけど……」
ああっ、もうちょっとで思い出しそうだったのに。
ハルルとのやり取りのせいで、思考が頭から消えてしまった。
「待ってらんない。レナちゃん、行きましょ」
「あっ、待ってください……」
ハルルが強引にレナの手を引いて、右の通路に入って行ってしまった。
「あ、思い出した」
幻獣ムジナ。人の方向感覚を狂わせ、道に迷わせる能力を持った
直感的にこちらだと思う方向は大体間違っている。
攻撃力は全然大したことがなく、レベル的には低い魔物だ。
だからこの辺りに出現してもおかしくはない。
俺たちがさっき左に行ったと思っているのも幻想だとしたら。
本当の正解は、左に行かなきゃいけない。
「ちょっと待ってよハルル、レナ!」
レナたちは右の通路の奥に入ってしまった。慌てて追いかける。
奥に進むと、少し先を歩く二人の背中が見えた。
さっきよりも暗く、じめっとした空気。
今までの空間よりも邪悪な雰囲気が漂っている。
ここはあまり奥に入り込むとまずいんじゃないか。
「おーいっ、二人ともっ! こっちは違うぞ。引き返そう!」
俺の叫ぶ声が聞こえたようで、二人は立ち止まって振り返った。よかった。
──と思ったら。
ハルルはまた前を向いて、どんどん奥に向かって歩いていく。
レナは引き返したそうな素振りを見せたけど、手を引かれて、仕方なく一緒に歩きだした。
ああ、やっぱハルルは俺の言うことを聞いてくれない。
仕方ない。早く彼女たちに追いつかなきゃ。
しかし駆け足で追いかけたけれど、彼女たちは案外早くてなかなか追いつかなかった。
ユーマ・ツアイトが普段不摂生をしているせいなのか、身体が重いし息は切れる。
道が曲がりくねってるし、所々二股、三股に道が分かれている。
時々二人の姿が視界から消える。下手したら見失ってしまうぞ。
しばらく走ってようやく彼女たちの後姿を捕捉した。
二人が突然立ち止まった。どうしたんだろ?
──と訝しく思ったら。
突然壁面の影から巨大な狼の魔物が現れて、彼女たちの前に立ちはだかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます