第26話:落ちてしまった俺達

【◆ゲーム世界side◆】


◆◆◆◆◆


 私の警告を無視してレナちゃんから離れようとしないキミが悪いんだよ。


 暗いダンジョンの中でレナちゃんと二人きりになって、いやらしいことをしようとでもしたのかな?

 そんなキミの悪だくみなんて、私が邪魔してあげる。


 そこまで考えていないとしても、キミみたいな男がレナちゃんと二人きりで暗い道を歩いていると考えるだけで、私はモヤモヤして我慢ができないのよ。


 このダンジョンの第二階層は、苦戦はしてもなんとか倒せるレベルの魔物がいる。

 命には危険はないけれど、それでも一層目よりも割と強い魔物がいる。

 たった一人でそんな魔物と出会う恐怖はきっと格別だよ。


 ふふふ。下の階層に落ちて、ゆっくり恐怖を味わえばいい。

 ここでバイバイだユーマ・ツアイト君。


***


 俺は何か見えない力で引っ張られて斜面に投げ出された。

 なすすべもなく急斜面を転がり落ちる。

 上の方からレナの声が聞こえた。


「ツアイト君! 私も行きます!」


 壁の穴から身を乗り出し、斜面を滑って降りようとしている。


「だめだレナ! 危ないから来るな!」


 俺が叫ぶのとほぼ同時に、同じことを叫ぶ女の声が響いた。


「行っちゃダメだよレナちゃん!」


 滑り落ちながら上を見ると、飛び降りるレナを後ろから手を伸ばして引き止めようとする女子がいた。


 その小柄な銀髪女子の手がレナの腕をつかんだ。

 だけど勢いよく飛び出したレナの身体は止まらない。

 レナの腕を握った銀髪女子までもが引っ張られて、斜面に身体が投げ出される。


「きゃあっ!」

「え? なんでハルルがここにっ? 危ないから離してください!」

「もう無理っ! 落ちる!!」


 俺はやがて平らな地面まで落ちて止まった。

 どこも痛くない。斜面は柔らかかったし幸いケガはないみたいだ。


 斜面を見上げると、レナとハルルが絡むように、俺の方に向かって滑って来る。


 うわ、やべぇ!

 なにがヤバいってぶつかる心配よりも──


 学年一の美人と学年一の可愛い女子。

 そんな二人のスカートがめくれて、奥が見えそうになってる!


 うむ、レナは白。ハルルは赤か。


 ──って、俺はなにをじっくり見てるんだ!?


「いやあぁぁぁん、ツアイト君、どいて! どいてくださいぃぃぃ!!」


 レナが叫び、ハルルが恐怖に怯えた顔をしているがもう遅い。

 ぼんやりパ●ツを見ていた俺が悪い。

 滑り落ちてきた二人の美少女がドシンとぶつかった。


「うぐっ……」


 胸に衝撃を受けて息が詰まる。

 この苦しみは地獄と言えよう。


 一方俺の脳内には先ほどの眼福な光景が刻まれている。二人の美少女のパンツを同時に見れるなんて、まさにこの世の天国だ。


 つまり今の俺は天国と地獄を同時に体験している。

 かのクラシック作曲家、オッフェンバックが名曲『天国と地獄』を作曲したのは、きっとこういう体験が元となったに違いない。


 ──知らんけど。


「だ、大丈夫ですかツアイト君!?」


 頭がくらくらする。いろんな原因のせいで。


「ああ、大丈夫。レナの方こそ大丈夫か? ケガはないか?」

「はい、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」


 レナが無事でホッとした。

 そうすると気になるのは──


「ハルルも大丈夫?」


 そう。ハルル・シャッテンがなぜここにいるのか。


「うん、大丈夫だよ」

「私を助けようとして、一緒に落ちてしまったのですね。ごめんなさい」

「いいよいいよ。私はケガもなにもなくて、全然だいじょーぶだからっ」

「ハルルが腕を引っ張ってくれたおかげで、落ちる勢いが弱まって助かりました」

「たまたま通りがかったらレナちゃんが壁の隙間から身を乗り出してるのが見えたからね。危ないって思って慌てて手を伸ばしたんだよ」


 たまたま通りがかった? ホントかな。


「でもレナちゃん。先生からは絶対に下に降りちゃいけないって言われたのに困ったなぁ」


 銀髪で小柄な美少女は、不安げな表情でレナを見た。


「大丈夫です。強い魔物が出ても、私がみんなを守りますから」


 胸を張るレナ。責任感が強い彼女らしい。

 実際にこの中では、レナが一番魔法力が強い。

 だけど女の子に頼りっきりというわけにもいかない。


「いや、一人でみんなを守るなんて考えちゃダメだよ。無理をしてケガでもしたら大変だ。みんなで協力し合おう」

「あら、ツアイト君は私なんかを心配してくださるんですか?」

「なに言ってんだ。当たり前だろ。心配するよ」


 冗談ぽく言ったことに、俺が超絶真面目にリアクションしたからか。

 レナがちょっと驚いた顔をして、急に頬が赤く染まった。


「そ……そうですか。ありがとうございます。う、嬉しいです」

「このダンジョンはそんなに強い魔物はいないって話だけど、それでも慎重にいかないとな」


 ──ん?

 ハルルが俺の横顔を真顔で見ている。

 いつも笑顔の彼女なのに、やはり不安が大きいのかな。ちょっと励ましておこう。


「ハルルさん。君も不安だろうけど、無事に脱出できるように協力して行こう」

「いや私は別に不安とかないし」


 突き放したような口調。

 いつも明るくて、誰にも分け隔てなく対応するハルルにしては珍しい。


 なんだろ。もしかして俺、なにか彼女の機嫌を損ねるようなことをしたのか?


 さっき教室で、俺とレナのやり取りを覗き見ていた人物。

 あの後ろ姿は──ハルルだった。

 俺の杖を隠したのも、レナに近づくなという手紙を出したのも彼女のような気がする。。


 そして下層階につながる壁に穴を開け、そこに魔法を使って俺を引きずりこんだのも……


 ちゃんとした証拠があるわけじゃないけど、そんな気がするんだ。

 彼女が『まぎアマ』に出てきた表と裏の顔のギャップが激しいヒロインなのかもしれない。


「とにかく上の階に行って、出口まで行きましょう」


 いくら危険が少ないダンジョンだと言っても、一階層目よりは強い魔物が生息している。

 気を抜かずに、できるだけ早く上の階まで戻るべきだ。


「そうだな。そうしよう」

「はい。そうしましょう」


 レナは俺を見つめて微笑んでくれた。

 ハルルは不機嫌そうな顔をしている。


 やはり俺とレナが仲良さげにしているのが気に食わないのだろうか。


 ところで。

 ──上層階に向かう方向ってのは、いったいどっちだ!?

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