第25話:ダンジョンを初体験する俺
【◆ゲーム世界side◆】
「ほぇ~っ、これがダンジョンかぁ!」
ラノベや漫画ではお馴染みだけど、生まれて初めて足を踏み入れたダンジョン。
『マギあま』のプレイでもダンジョンは入ったけど、はっきり言ってしょぼいグラフィックだったし、こうやってリアルに体験するのとは全然違う。
天井は高く、壁は石積みで幾何学的な模様が刻まれている。
周りは少し薄暗いが、壁に魔石を利用した明かりがいくつも整備されているおかげで、普通に視界は確保されている。
さすが学園が管理するダンジョンだ。これなら大きな不安もなく探索ができそうだ。
「なんだかワクワクしますね。ツアイト君と二人きりなんて、楽しみです」
「いや、ピクニックじゃないんだから」
「そうでした。授業だし、しかも魔物退治をしなきゃいけないのでした」
レナって生真面目なタイプのはずだが、案外お気楽なところもあるのかな。
弱いとはいえ魔物が出てくるんだから、気を抜いちゃいけない。
そうだ。しっかりしているとは言え、レナは女の子だ。
ここは男である俺が彼女を守っていかなきゃいけない。
「あっ、魔物です!」
レナが指差す先には、小さなスライムがいた。
小さいしスライムだし、全然怖くない。
なんならちょっと可愛いまである。
さっきまでの緊張が急に解けた。
──なんてほのぼのしていたら。
小さな魔物が急にこちらに向かって襲いかかってきた。
思ったより素早いスピードで目の前に迫ってくる。
うわっ、ヤバい!!
「危ない! 私に任せてください!」
いつもの凛とした声で叫ぶレナ。
きりりとした態度がとても頼もしい。
赤い髪の美少女は素早く俺とスライムの間に立った。
そして魔法の杖をかざし、呪文を唱えた。
「炎の魔法!」
杖の先から赤い炎が飛び出して、見事スライムに命中し、魔物は蒸発するように消えた。
スライムのいた場所に小さな魔石が落ちている。
魔物というのは生き物ではなくて、魔石に邪悪な魔力を流し込むことで作り上げられる物体らしい。
魔物を倒すと蒸発して消え、体の中から魔石が現れるのだ。
レナはその魔石を指先で拾い上げた。
魔物を倒した証拠として魔石を集めて教師に提出するルールとなっている。
「すごいなレナ」
「ありがとうございます。ツアイト君に褒められたらやる気が出ます」
魔力測定で見せたあの数値なら、スライムごときはあっという間に倒せる。
だけど実戦で落ち着いて魔法を繰り出し、一発で命中させるなんてすごいな。
カッコよすぎるよ。
それに比べて俺はおたおたしてるだけだった。
「俺なんて、弱くて情けない姿を見せて恥ずかしいよ」
きっとレナは俺をかっこ悪い男だと見下げたに違いない。
「ツアイト君。そんなふうに言わないでください。あなたは私を励まし、勇気をくれました。決して弱くて情けなくはありません。それどころかとても素敵……いやん、私ったらこんなところで何を言い出すのでしょう。私こそ恥ずかしいです」
両手で頬を挟んで照れるレナが可愛い。
そんなふうに思ってくれてるなんて、この人はなんとピュアなのだろうか。
俺のことを買いかぶりすぎだけど、嬉しいよ。
感激のあまり、レナの美しく整った顔をついじっと見つめてしまっていた。
「ツアイト君……」
「え?」
「そんなに見つめないでください」
レナは真っ赤な顔でもじもじしている。
「あ、ごっ、ごめん!」
ついつい尊敬の眼差しで見つめてしまっていた。
しまった。セクハラだと思われたに違いない。
「と、とにかく先に進もうか」
「そうですね。進みましょう」
大丈夫だ。もう油断しないぞ。
いやマジで。フラグでもなんでもなく、油断しないから大丈夫だって。
周りに注意を払いながら、慎重にダンジョンの奥へと進んで行った。
途中で何体か魔物が現れた。
その度に俺たちは──いやレナは華麗に魔法を繰り出してやっつける。
うーむ。レナって美しくてしかも頼りになる。
出てくる魔物はスライム以外に『吸血こうもり』『ベビーウルフ』等々、事前に聞いていたとおり弱いヤツらばかり。
だから実際に魔法を使うのに充分な練習になる。
レナだけでなくて、俺だって魔物を倒したぞ。一体だけだけど。
やがてダンジョン一層目の一番奥の突き当りまでやってきた。
目の前には石を積み上げた壁がある。
うん、楽勝だ。
ルートマップによると、あとはこのまま折り返してもと来た道を戻ればいい。
「ん? なんだここは?」
一番奥はマップでは行き止まりになっているが、なぜか突き当りの壁に人が一人通れるくらいの大きな穴が開いている。
近づいて穴の中を覗いてみた。
そこには土に覆われた下りの急斜面があった。
ここを降りて行くと、ダンジョンの一つ下層階につながっているっぽい。
ダンジョンってのは下の階層に行けば行くほど、強い魔物が生息している。
第二階層には、ここ第一階層に比べると明らかに強い魔物が棲んでいるのだ。
だから生徒たちが下層階に行かないように、通路にはバリケードで封鎖してあるって話だったのにな。
ここの壁はバリケードが壊れているじゃないか。
充分人が通れるくらいの隙間が開いている。危ないな。
「ツアイト君。危険ですよ。下りないでくださいね」
「ああ、わかってる」
胸を張って偉そうに言うことじゃないが、ビビりな俺が下層階に行くわけがないじゃないか。
──と思っていたのだけれども。
「うわぁっ」
急激に腕を引っ張られる感覚がした。
踏ん張ろうとしたが、それよりも強い力で俺の体は引きずられ、目の前の急斜面を転がり落ちた。
これは、なにか魔法の力だ。
誰かが魔法を使って俺を引きずり込んだ?
土の地面が滑って止まることができない。どんどん下に落ちていく。
「つ、ツアイト君っ! 大丈夫ですかっ!?」
──多分、大丈夫じゃない。
そんなことを思いながらゴロゴロと斜面を転がり落ちて行った。
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