第21話:レナからお守りをもらった俺
【◆ゲーム世界side◆】
◆◆◆◆◆
あの男、なんなの?
なぜ急にレナちゃんと仲良くなったの?
あの男が気に入らない。ウザい。男なんて信用できない。
レナちゃんはきっと騙されている。
私がちゃんとあの男をレナちゃんから引き離してあげるから安心してね。
***
レナ・キュールは、この前別れ際に「明日学校で渡したいものがある」と言った。
なんだろ。気になってしかたない。
だから俺は一夜明けた朝、早めに学校に行って、また『マギあま』の世界に行くことにした。
いつものように白い祠の扉を鍵で開けて、ゲーム世界へ転移する。
無事にゲーム世界に戻ってきた。
朝。登校時間のマギア学園だ。
校舎に向かい、教室の扉を開ける。
自分の席に座っていたレナが目ざとく俺を見つけて、近寄ってきた。
「おはようございますツアイト君」
「あ、ああ。おはよう」
教室の中でいきなり堂々と挨拶されるとは思っていなかったから面食らった。
「ちょっといいですか?」
「あ、うん」
レナが先導する後をついて、廊下に出た。
「渡したいものはこれです。さすがにクラスの皆の前で渡すのは恥ずかしいので、こんなところまでお呼び立てして申し訳ありません」
レナが大事そうに両手で差し出したのは、小さなお守りだった。
「私の手作りです。まだまだ未熟ですが、ご加護の魔法もかけてあります」
「え? なんでお守り?」
「ほら、来週から
魔物退治の実戦だって? なにそれ?
そう言えば『マギあま』にそんなイベントがあったな。
ヒロインやプレイヤーの魔力を高めるために経験値を積むことができるイベント。
それが来週から始まるのか。
当然学生でも危険のないエリアで弱い魔物を相手にするだけだが、生まれてこの方ゲーム以外で魔物なんて見たことがない。
目の前に魔物が出現するのを想像すると……恐怖しかない。
「そ……そうだな。でもなんで俺にお守りを?」
「ツアイト君がケガをしない様にです。ぜひ受け取ってほしいのですよ」
マジか? 女の子がクラスメイトの男子に手作りのお守りを渡すなんて、それはもう付き合ってるカップルがやることじゃないのか?
少なくとも現実世界ではそうだ。
このゲーム世界では、気軽にお守りをプレゼントする風習があるとか?
それにしてもレナって他人にも厳しい性格かと思ってたけど、案外
「あ、いいなそれ。俺にも作ってよ」
たまたま通りがかった上流貴族の御曹司ドンケル・ゾンネがそんなことを言ってきた。
彼はこのゲーム世界の主人公のはずだし、レナは彼にも作ってあげるのかな。
「嫌です」
ありゃ。秒殺だった。
「だって俺がケガしたら困るだろ?」
「困りはしません。気の毒ではありますが」
「だったら俺にもお守り作ってよ」
「嫌です。ケガをしないよう自分で気を付けてください」
うーむ……なんという塩対応。いつもの厳しいレナだ。
あまりにクールで無表情の冷たい態度。
「うぐぐ……くそっ。やっぱハルルにするか」
「なんですか?」
「いや、こっちの話だ。じゃあな」
顔を歪めたままゾンネは教室に入っていった。
「よかったのか?」
「はい。ゾンネさんには特に恩義もないですから」
「俺だって別に大したことしてないし」
「いいえ。ツアイト君は特別です♡」
──ん?
なんだか語尾が可愛く跳ねたような気がする。
「じゃあこのお守りはありがたくいただくよ」
「はい、どうぞ」
さっきのゾンネへの冷たい表情はどこへやら。レナは優しく微笑んだ。
俺たちが教室に入ると、ゾンネがハルルに何か言われていた。
「ごめーん! わたし、親の遺言で他人にお守り作っちゃダメって言われてるんだよ」
「うぐっ……親の遺言なら仕方ないな」
おいゾンネ。本気にしてるようだけど、それ、どう見ても
それにしても、レナに断られてさっそくハルルにねだるなんて、あいつメンタルつよつよだな。
***
席に戻って、授業を受ける準備をしていたら──
「……ん? なんだこれ?」
机の中に、見慣れない白い封筒が入っていた。表には何も書いていない。
取り出して封を開ける。
筆跡を隠すような、ギザギザした文字が目に入った。
『レナに近づくな。 レナの大ファンより』
──な、なんだコレ!? 脅迫文書だ。
映画やドラマ以外で初めて見たぞ!
……ってワクワクしてる場合じゃないな。
誰の仕業だ?
教室内を見回したけど、こちらに注意を払ってる者など誰もいない。
そもそも犯人が同じクラスとは限らない。
俺がレナと近づいていることを快く思っていない者がいるってことか。
……そりゃいるだろうな。
レナは厳しい態度が近づきがたいイメージを醸しているものの、その凛とした美しさは学園でも群を抜いている。
影のファンも含めて、男女問わず憧れを持つ者は多いのである。
一方の俺、ユーマ・ツアイトはそもそも嫌われキャラだ。
つい最近まで、レナもツアイトに厳しく当たっていたくらいだ。
なのになぜか急にレナがツアイト──つまり俺だが──と親しげに接するようになった。
そりゃあレナのファンにとっては、腹が立つに決まってる。
手紙を出してまで俺をやっかむレナの大ファンって誰だ?
まったくわからない。
しばらく様子を見てみよう。
レナが知ると心配するだろうから、彼女には黙っておくことにした。
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