第15話:レナが借りた本に驚く俺
【◆ゲーム世界side◆】
レナが図書館で借りた本に紙が挟まれていた。
それは『ラブ・エナジー』の解説ページだった。
……ということは?
これって、レナも自分の身に起きた現象を不思議に思って調べた。
そしてこのスキルに行きついた。
──ってことだよな。
と言うことは、やはり魔法力が急激に上昇したのはこのスキルの影響で、レナは誰かに恋をした? それって……もしかして俺!?
いや。決めつけるのは早計だ。
かと言って彼女に「俺のこと好きなの?」なんて怖くて聞けない。
ああーっ、しまった。
勝手に見るんじゃなかった。
レナがこの本を読んで『ラブ・エナジー』を知った。それは間違いない。
レナの身に起きたことはラブ・エナジーの効果なのか。そうだとすると彼女は俺のことをどう思っているのか。
めちゃくちゃ気になるじゃないか!
「お待たせしました。……どうかしましたか?」
トイレから帰ってきたレナが、フリーズしてる俺を目にして、不安そうになる。
俺の視線がテーブル上の本に注がれているのに気づいたレナは「あっ……」と小さな声を漏らした。
しまった俺が本を気にしていることに気づかれた。
誤魔化さなきゃ。
「図書館でそんな本を買ってまで勉強するなんて、レナって勉強熱心だね」
「ああいえ、そうでもないですよ。これはたまたま目に入ったら借りてみようかなと思っただけです」
レナはその本を俺の視線から隠すように、下にあった本と上下を入れ替えた。
今度は下になっていた書物のタイトルが目に触れる。
それはあまりに意外な本だった。
『一から学ぶの魔法の杖-マジックワンド-製作』
表紙には魔法に使う杖の写真が使われている。
授業でも頻繁に使うし、魔法学園では誰もが1本は持っている魔法の杖。
「魔法の杖を自作するための教本?」
「あっ、いえ
「へぇ……」
確かに杖を自作することはできるが、かなり手間がかかる。
しかも自作しても魔法の杖としての性能が変わるわけではなく、単に造形の美しさやこだわり心を満たすためのことだ。だから普通は市販の物で充分。
でも自作の杖作りを趣味にしている人もいると聞く。
わざわざ自分で魔法の杖を作るなんて、かなりのマニアか変わり者だ。
そう。例えば現実世界で言えば、アニメキャラのフィギュアを自作するほどのイメージ。
もしも杖製作が趣味だなんて言ったら即座にオタク認定される。
俺は、そんなオタクを一人知ってる。
妹のユイカ・ツアイトだ。
だがレナは、杖を作るオタクなんてイメージとは真逆だ。
「誰か知り合いが杖の製作をするの?」
まさかレナの趣味とは思えない。だから何げなく尋ねた。
しかしレナの艶々した美しい唇からは、思いもよらないセリフが出てきた。
「いえ……ツアイト君なら信頼できるし、あなたを騙したくないので本当のことを言いますね。杖の製作は私の趣味です。……いえ、正確に言えば趣味
レナは初等部の頃のことを語り始めた。
この世界では一般的に、本格的に魔法を学びだす中学生から全員が杖を持つ。
小学生では英才教育を受ける者以外は自分専用の杖は持たない。
しかしレナは子供の頃から杖製作に憧れ、初等部の頃には何度か自己流で杖を作ってみたらしい。
手先もまだ不器用で、見栄えの悪いものしかできなかった。
だけど自分の手で作った杖はとても愛おしいものだったようだ。
将来は杖の製作士になりたいと思ったらしい。
ところがその夢は、実際に目指されることもなく、初等部のある日突然幕を閉じる。
将来の夢を「魔法の杖製作士」と明かした彼女を、心ない同級生男子がバカにした。
「お前みたいなガサツなヤツが杖師になれるわけないだろ。それにお前、超オタクだったんだな。キモいぞ、あはは!」
普通だったら、それくらいで夢を諦める必要などないのだろう。
だけど自分のガサツさを自覚していた彼女はそのひと言で心を折られ、早々に夢を諦めたらしい。
それ以来、中等部でも高等部になってからも、杖製作は一切やっていない。
レナはそう言った。
そう言えば俺も、杖製作が趣味の妹を超オタクだってしょっちゅうバカにしてた。
過去の俺は俺であり俺ではない。だけど素直に謝っとく。
──ごめんユイカ! そしてごめんレナ!
俺は心の中で土下座した。
──あ。そう言えば。
彼女もイラストレーターになる夢を諦めた。
だけど彼女は、どうしてももう一度描く気にはなれないと言っている。
でもレナの方はこんな本をわざわざ借りてきたということは──
「また杖製作にチャレンジしようと思ったんだな」
一度
「いえ、違います。やっぱり私は、もう二度と魔法の杖を作る気にはなれません」
──え? 違うの?
「なぜ?」
「自分にはやっぱり向いてないと思うし、正直、高校生になった今ではオタクと思われたくないという気持ちもあります」
「じゃあなぜその本を?」
「ふと目についたのでついでに借りてきました。子供の頃は自己流で作っただけなので、本当はどういう作り方をするのか、興味が湧いたというのもあります」
「じゃあやっぱり杖製作にチャレンジを──」
「やりません」
ぴしゃっと言われた。なかなか
本人がそう言うなら仕方ない。
──でも。
再び八奈出さんの顔が浮かぶ。
好きなことを否定されて、それを楽しむことすら諦めてしまった二人。
まったくよく似た二人だ。
二人とも、とてももったいない気がする。
かと言って俺が強制するようなことでもない。
もしも彼女たちが、本人も気づかないままに本当はやりたい気持ちを心の奥底に持っているとしたら、このまま辞めてしまうのは、将来の後悔に繋がるかもしれない。
どうしたらいいんだろうか?
うーむ……
──そうだ。いいことを思いついた。
「レナ。もしよかったら、今から俺の家に来ないか?」
俺の妹、ユイカにレナを会わせたい。
レナの心の奥底に、本当は杖の製作をやってみたい気持ちがあるのかないのか。
ユイカの純粋なオタク心に触れたら、レナも自分の本心が見えてくるかもしれない。
──そんな気がする。
「それってツアイト君……おうちデートへのお誘いですか?」
「え?」
──あ、しまった。
いきなり自宅に女子を誘う男子ってキモすぎる。
しかも相手は学年一の高嶺の花。
しかも超真面目で堅物の女子だぞ。
思いっきり気持ち悪いって思われたに違いない!
自宅デートなんかじゃないって説明しなきゃ!
ちゃんと誤解を解かないと、レナに嫌われて二度と話してもらえなくなる。
「いや、あの
「わかりました。お伺いします」
──え? マジで?
誤解とけてないけどいいの?
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