第14話:美人とカフェに行く俺

【◆ゲーム世界side◆】


 緊張しながらカフェの店内に入った。


 レナは重そうな本を2冊も手に持っていたから、カウンターで買った二人分のコーヒーを俺が持ってテーブルに移動する。

 客席の間を二人で歩いていると、あちこちからひそひそ話が聞こえてくる。


「おい、あれ。2年生イチ美人って評判のレナ・キュールだよな」

「ああ、そうだよ。やっぱめっちゃ綺麗だな」

「……で、一緒にいる男は誰?」

「知らん」


 噛ませ犬キャラのユーマ・ツアイトです。

 本来なら正ヒロインのレナ・キュールと二人でカフェなんて来れないです。

 ヒロインに嫌われて蔑まれる役柄ですから。


 ──って心の中で答えてみる。


 そりゃ、誰もこんなモブキャラのことなんて知らなくて当然。


 一方のレナは美しい赤い髪が目立つし、整った顔に抜群のスタイル。

 レベチに誰もが目を引かれるレナと、モブキャラの俺が一緒にカフェにいるなんて、俺自身も違和感があるんだよ。


 なぜこんな流れになってしまっているのか、俺にだってよくわからない。

 だから許してくれ。


「ツアイト君は本当は優しいんですね」


 嫌な会話が聞こえてくるのをかき消すように、突然レナが話しかけてきた。


「え、なんで?」

「だって私の分までコーヒーを運んでくれてますから」

「そんなの別に、優しいってほどじゃないよ。キミが重そうな荷物を持ってるからね」

「でもあなたは、とても自然に持ってくれました。そういうのを優しいと言うのです」


 感心したように微笑む美少女。

 でもマジで普通だけどな。妹がすぐに「あんたは気が利かない」とか文句を言うもんで、少しは気を配るようになってるのかな。


 それにしてもレナはどうしたんだろう。教室ではいつもどおり厳しい態度だったのに、なぜか今は穏やかな雰囲気だ。


「なにかいいことあった?」

「そうですね……」


 レナは手にした分厚い本をテーブルに置いて、俺の向かい側の椅子に腰かけた。

 俺もテーブルに二人分のカップを置いて腰を下ろす。


 もちろんレナの分は手を伸ばして、彼女のすぐ目の前に置く。


「ほら、やっぱり優しい」

「だからこんなの普通だって」


 お互いにコーヒーに口をつけ、少し間を置いてからレナが答える。


「なにかいいこと……色々とありましたよ」

「へぇ、なにがあったの?」

「えっと……」


 なぜか恥ずかしげに目を伏せるレナ。

 教室で凛とした態度でいる時とのギャップにドキリとした。


「一つ挙げるとしたら、たまたまツアイト君と会えて、こうして二人でカフェに来たこと、でしょうか」

「あ、いやいや。そういう冗談はやめてよ。冗談だとわかってても恥ずかしいから」

「冗談じゃないです」


 レナは口を尖らせてほっぺを膨らませる。

 普段強気な女子が突然そんな姿を見せてみろ。

 ギャップが大挙して押し寄せてくるんだ。

 可愛くないハズがない。


「ぶふぉっ!」


 彼女の可愛さにぶちのめされたせいで、口につけたコーヒーを吹いてしまった。

 ダサい。カッコ悪い。俺イケてない。


「だ、大丈夫ですか!?」

「あ、うん。大丈夫」


 紙ナプキンで口の周りに飛んだコーヒーを拭き取る。

 すると急に目の前にピンク色の布がぬっと現われた。


「あ、じっとしてください。おでこについたコーヒーを拭きますね」


 それはレナが手にしたハンカチだった。花のような良い香りがふわりと漂う。

 テーブルの向かい側から手を伸ばして、俺の額の汚れを拭き取ってくれている。


 前かがみになって手を伸ばすものだから、胸の膨らみを上から見ることになる。

 巨乳ってわけじゃないが、形が良くて程よい大きさのバスト。

 それがこの角度からだと、豊かな膨らみとして俺の視覚を攻撃してくる。


 そしてなんと、ブラウスの合わせ目が歪んで広がって、間から肌色が見えそう……


 ちょい待て。童貞の思春期男子をコロす気か。

 ジロジロ見るのも失礼だし目をつぶった。

 正直に言うと残念極まりないのだけれども。


「はい、もう大丈夫ですよ」


 レナが腰かけた。あの素晴らしい景色はもう見れない。

 それにしても前に鼻血を出した時と言い、俺ってレナのハンカチに何度助けられているんだろう。


「あ、ありがとう」

「ツアイト君が私を助けてくれたことを考えたら、これくらいどうってことないですよ」

「お礼だなんて、本当にもう充分してもらってるから。これ以上気にしないでいいよ」

「そういうわけにはいきません。まだまだ返し足りません」

「でもこれ以上気を遣われると、俺の方が気を遣ってしまう。お願いだからもうこれでチャラにしよう」


 レナは不思議そうな顔で俺を見る。


「ツアイト君って欲がないのですね」

「いや普通だろ」

「わかりました。それならこれでチャラということで」


 目の前でピンクのハンカチをキュッと握りしめて、フッと微笑んだ


「ちょっと失礼しますね」


 レナは立ち上がって、トイレに向かった。

 ふとテーブルの上に置かれた本に目が行く。


 レナは図書館で何の本を借りたんだろう。

 分厚い本が2冊重ねられていて、上は『現象から探る魔法図鑑』か。

 勉強熱心だな。


 途中のページに紙が挟まれている。

 会得したい魔法でもあるのかな。

 レナってどんな魔法に興味を持っているんだろう。


 紙が挟まれたページを何げなく開いた。

 そこに書かれた魔法のタイトルが目に入る。


『ラブ・エナジー』


「わっ……」


 俺は慌てて表紙を閉じた。

 レナが図書館で借りた本に紙が挟まれていて、それは『ラブ・エナジー』の解説ページだった。


 ……ということは?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る