第13話:調査する俺
【◆ゲーム世界side◆】
一日の授業が終わり、担任のキント先生によるホームルームが終わった。
ゲーム世界の魔法学園にも現代日本と同じホームルームがあるんだ。
びっくりだよね。
教室を出て、廊下で職員室に帰る途中の先生を追いかけて声をかけた。
「キント先生。ちょっといいかですか」
振り向いて俺だとわかった先生はぎょっとした。
「ひぇっ、ななななな、なにっ!?」
「なんでそんなに焦ってるのさ」
「もしかして殴り込みっ?」
「しないよ!」
この前もこのくだりあったな。
「冗談だよツアイト君」
その割に頬がぴくぴく動いて、マジでビビってるように見えるんですが?
「何の用かな」
「魔法に詳しいキント先生に質問があります」
「ほう。勉強熱心で感心だね。どんな質問かな?」
「女子が異性に好意を感じると身体が光るとか、その子の魔法力が高まるなんて現象はありますか?」
『マギあま』のゲームシステムにこんな設定がある。
ヒロインが主人公に好意を感じると、身体がぼぉーっと光る。
そしてそのヒロインの魔法力が急激に上昇する。
プレイヤーはこの仕組みを利用して、ヒロインたちの魔法力をどんどん高めていく。
そしてヒロイン達と一緒にラスボスの魔王を倒しに行くのである。
この前レナの身体が突然光ったことや、急激に魔法力が高まったのは、このゲームシステムと同じ現象なのではないか。そう思いついたのだ。
「ツアイト君。思春期男子だねぇ」
「は? なんのことですか?」
「女子が好意を持つと身体が光って魔法力が高まる。そんな胸キュンな現象を夢想するなんて、思春期男子の特権だよ」
「は?」
「誰が誰を好きとか、恋バナは最高のご馳走だもんねぇ」
そりゃ、あなたでしょ。
「うん、ツアイト君も可愛いとこあるね」
「違いますよ」
「違くないよ。今までふてくされて不良な態度だったキミが勉強熱心に生まれ変わってくれてるし、先生は嬉しいのだよ」
ガッツポーズしてる。小柄だし童顔だから子供みたいだ。
でも俺のことを良いように言ってくれるし、まあいっか。
「ということは、そんな現象は存在しないということですか?」
「ううん、存在するよ」
「いや、あるんかいっ!」
ややこしい返答はやめてくれ。
「いや、正確には、あるかもしれないってことだね」
「どういうことですか?」
「そういう現象を引き起こす魔法というかスキルがあるって、古文書に記載があるのだよ」
「スキルなんですか?」
「うん。そのスキルはね、自分への好意を光で可視化することと、その好意を魔力に変換して、相手の女性の体内に蓄積させる現象を引き起こすの」
なるほど。
まさに『マギあま』の設定どおりの現象だ。
あのゲームは割と設定とか
この世界ではスキルということになっているのか。面白い。
「まあ本当に実在したのかも怪しいと言われているんだけどね」
「そうなんですか」
「ちなみに古文書に書かれているそのスキルの名前は『ラブ・エナジー』」
──そのままかよ。
だっさ! ネーミングだっさっ!!
「そんなスキル持った男性がいたらいいねぇ。素敵だねぇ……」
キラキラした目で遠くを見つめるキント先生。
完全に恋する乙女の顔だ。
そういやキント先生は婚活中だったな。
早くいい相手が見つかりますように。
「ねえツアイト君」
「はい?」
「そんなスキルを使える男性を知ってるの? 知ってるなら私に紹介してほしいんだけど」
「別にそんな男性を知ってるってわけじゃありません。単に、そんな現象があったら面白いなぁっていう、思春期男子の妄想ですよ。あはは」
「なんだったら、そんな魔法を使えない人でいいから紹介して」
それって男性なら誰でもいいってことだよな。
キント先生の婚活も、とうとう切羽詰まってきてるのかっ!?
「あらやだ。私ったら生徒に向かっていったいなにを言ってるのかしらね。おほほ、忘れてほしいでござる」
この人、テンパるとちょいちょい『ござる』が出るな。おもしろ。
「わかりました。いい人がいたら紹介しますね」
「あ、そ、そうね。紹介してくれるってなら、忘れなくていいかも。うん、忘れないでほしいかも。あれれ、わたし生徒に向かって何を言ってるのかしら、あはは」
この人を相手にしていたら、いくら時間があっても足らないということに俺は気づいた。
気づいてよかった。
「では先生。今日はこれで」
「そうね。バイバイ」
友達かよっ。軽ぅ。
でもキント先生のおかげで、異性へ好意を抱けば魔法力が上げられるスキルが存在するかもしれないことがわかった。
言ってもここはゲーム世界だ。
そのスキルはきっと存在するのだろう。
そしてそのスキルを俺が持っていてレナに発動した可能性もゼロじゃない……よな?
いや。レナが俺に強い好意を持っているなんて思い上がりすぎか。
それにしても『ラブ・エナジー』ってネーミングセンス……笑える。
クスクスと思い出し笑いをしながら図書館の前を歩いていたら、ちょうど建物から赤い髪と抜群のスタイルが印象的な美女が出てきた。
「あら、ツアイト君じゃないですか」
手に分厚い書物を抱えたレナだった。
「どこに行くのですか?」
「別に。今から帰るところ」
「そうだ。もしお時間があればカフェにでも行きませんか?」
「俺とカフェ?」
突然高嶺の花にお茶に誘われるなんて。
驚いて声がひっくり返った。ちょっと……いや、かなりカッコ悪い。
「はい。昨日は助けてもらったのに、ちゃんと礼もせずに帰ってしまって申し訳ないと思っていたのです。カフェでコーヒーをご馳走します」
義理堅いレナのことだ。何らかのお礼をしないことには、いつまで経っても納得しないに違いない。
学内のカフェなら学生価格だし、コーヒーを一杯おごってもらってお礼に代えるのもいいだろう。
「ああ、そういうことなら」
ここマギア魔法学園には校内にカフェが3ヶ所もある。そのうちの一つに二人で移動した。
でも嫌われ者キャラの俺と、高嶺の花のレナが一緒に歩いているなんて、誰か知合いに見られたらどうしよう。
俺はともかく、レナに変な噂が流れたりしないだろうか。
「あれっ、レナちゃん? ……とユーマ君?」
やべっ。早速見つかってしまった。
声の主は、満面の笑みをたたえたハルル・シャッテンだった。
「あ、ハルル。今からカフェに行くのです」
「ありゃりゃ、これはまた珍しいね。どうしたの? ユーマ君がレナちゃんを誘っちゃった?」
可愛く首を傾げて、にやりと笑うハルル。どうやら誤解されたようだ。
「違うのハルル。私がツアイト君を誘ったのです」
「え? レナが? 今まで男の子を誘ったことなんてないよね?」
「ええ、まあね」
「ふぅーん……じゃあまあ、気を付けてね」
いつも笑顔を絶やさないハルルが、ほんの一瞬だけ怪訝な顔をした。
「うん、ありがとう」
レナがハルルに手を振って、俺たちはカフェに向かった。
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