第12話:魔法力測定に挑むレナ
【◆ゲーム世界side◆】
俺の名前が呼ばれて前に出る。定位置に立った。
そして目標物に向けて、魔法を放出する。
俺の魔法ははっきり言って雑魚だ。
もしもこれが異世界チートラノベの主人公なら、自覚がないまますんごいスキルを発動して「俺、なんかやっちゃいましたか?」なんて鈍感ムーブをかますのだが。
──最初の2回はそもそも的に当たらなかった。
だって俺自身は、記憶の中では経験があるものの、実際には魔法を使うなんて初めてなんだぞ。仕方ないよね?
そして3回目。
よっしゃ、ようやく魔法が的に当たった!
「ツアイト君、30ポイント!」
うーむ……全然破壊力は弱いし、ダメだこりゃ。
無自覚無双なんて、起こるはずもなかった。
期待してくれた人にはゴメンって謝っとく。
だいたいいつもこんなもんだ。
1年生の平均値の半分以下。つまり落ちこぼれ。
うん、知ってたよ。
「ぎゃははは、なんだそれ? ザコかよ」
ゾンネが近づいてきて見下した笑いを投げかけてくる。
それ、主人公キャラの笑い方じゃないぞ。
もう少し上品にしたらどうなんだ。
しかも子供に対してやるように、俺の頭を撫でてきた。
「触るな」
腕を回してゾンネの手を振り払った。
「少しは俺のご
俺が少々文句を言ったところで、ザコだと思ってるからまったく堪えないな。
ムカつくやつめ。
俺は元々大人しい性格だ。
ゲーム世界だから現実よりはしっかりと話せるが、それでもこういう強気で失礼な
俺が困っていると、救世主のようなレナの凜とした声が聞こえた。
「ゾンネさん。いい加減にしたらどうですか?」
「冗談で場を和ませてるだけだよ」
「人をバカにするような発言は冗談で済みませんよ」
「なんだよレナ。そんなに怒っていたら美しい顔が台無しだぞ」
「お世辞は結構です」
うわ、ゾンネを睨むレナの目線がめっちゃ冷たい。
横で見てるだけの俺ですら恐怖で背筋が凍る。
ゾンネのヤツ、ヒロイン攻略のやり方下手すぎるだろ。
「お世辞じゃないって。マジで美人だよ。だから機嫌治してよ」
「はぁ~っ、そういうことじゃなくて……どうしようもない人ですね」
レナはため息をついて肩をすくめた。
心からゾンネを軽蔑したような仕草。
さすがレナだ。上位貴族のゾンネ相手に一歩も引かない。
その態度にさすがにゾンネはカチンときたのか、少し声を荒げた。
「偉そうにすんなよ。魔法力の成績はお前だって大したことないくせに」
「は? なんですって?」
「自分でも自覚あるだろ? 俺には全然敵わないって」
「くっ……」
レナが悔しそうに顔を歪めた。
ゾンネの言うとおり、レナの魔法力は悪くはないが良くもない。
先月の測定では確か110ポイント。
中の下の成績ってところだ。
クラス委員長でなんでもできそうな彼女が、魔法力は中の下ということで印象に残っている。
「はい、次はレナ・キュールの番だよ」
キント先生の声だ。
「わかりました」
レナはゾンネを一瞥してから、前を向こうとした。その時、ふと俺と目が合った。
「がんばれ」
俺が静かに励ますと、レナの眉間に深く寄せた皺が少し緩んだ。
そう。肩に力が入りすぎると実力を発揮できないよ。これでいい。
レナは前に出て、魔法を放出する定位置についた。
両手を前にかざし、魔法の詠唱を行なう。
あれはゾンネと同じく炎系の魔法だ。
レナは魔力量は弱いがテクニックはある。
魔法力は魔力量と技術力の組み合わせで決まる。
うまく目標物のど真ん中に当たると得点が上がりやすい。
ぜひ今回は平均以上の成績を取ってほしいものだ。
──えっ?
レナの手に集まる魔力がどんどん大きく強い光になっている。
さっきのゾンネの魔法よりも大きく見えるんだけど……気のせいだよな?
「〇◎Ψ▽……
詠唱を終えた彼女の両手から激しい炎が放たれ、人型の目標物のど真ん中に命中した。
どかん、という本日一番の大きな音が講堂中に響き渡る。
「……え?」
いったい何が起こった?
ゾンネも、キント先生も、他の生徒達もポカンとしている。
なんならレナ自身もきょとんとしてる。
人型に込められた『魔法力を図る魔法』が発動する。
固唾を飲んで結果を待つみんな。
──280ポイント。
は? マジか?
学年一の成績であるゾンネの250ポイントを優に超える数値。
先月まで110ポイントが自己最高だったレナがいきなりの好成績だ。
普通はそんな急激な向上はあり得ない。いったい何が起こったんだ!?
レナも相当驚いたようで口をあんぐり開けている。
整った顔の美少女は、そんな表情ですら可愛いのだと人生で初めて気づいた。
「レナちゃん、すっごぉーい!」
ハルルがレナに駆け寄り大きな仕草で抱きついた。
学年一の美人と学年一の可愛い女子の抱擁。
──うん、尊い。
そう言えば以前からレナとハルルは仲が良かったな。
「あ、ありがとう」
「キュールさん、すごいじゃないの。先生感心しきりだよっ」
「ありがとうございます」
レナはすぐ横で呆然としているゾンネに視線を向けた。
目が合ったゾンネは焦ったように口を開く。
「まあまあ、やるじゃないか。まあまあな」
「それはどうも。さっきは私を大したことないって言いましたけど?」
「うぐっ……」
「認めてもらえましたか?」
「あ、ああ。認めてやるよ」
ゾンネのヤツ。強気なふりをしているが、動揺してるのが隠せてないぞ。
レナ、よくやった。俺もスカッとしたよ。
だけどなぜ急にレナの魔法力が上がったんだ?
そんなことってあるのか?
ユーマ・ツアイトの過去の記憶を探っても、強力な魔物と戦って経験値を急激に積むならいざ知らず、普通に学園生活を送っている学生の魔法力が急激にあがるなんてことはあり得ない。
いや待てよ。そう言えば──
こんな現象の起こる可能性が一つだけある。
でも実際にそうなのか?
──よし、調べてみよう。
俺はズボンのポケットに手を入れて、スマホを……
と思ったら手先がポケットの中で泳いだ。
何も入っていない。
「スマホがないっ!」
そっか。ここは魔法があるファンタジーゲームの世界だ。
スマホは存在しないんだった。
うわぁ、じゃあ調べものする時はどうしたらいいんだよ!?
スマホが無くて物を調べるなんてこと、できないよね?
俺は思わず頭を抱えた。
だけどふと思いついた。
「そうだ。キント先生に訊いてみよう」
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