第11話:魔法力測定に臨む俺

【◆ゲーム世界side◆】


 学園に登校して教室に入った。

 いつものように、誰もモブキャラの俺のことなんて気にもかけない。


「おはようございますツアイト君」


 教室に入るなり突然声をかけられて驚いた。

 振り向くと、背筋がピンと伸びた美しい少女がそこにいた。

 赤く艶やかな髪が教室の中でも彼女を一層目立たせている。


「あ、おはよう」

「今日は月に一度の魔法力測定の日ですね。お互いにがんばりましょう」


 そうか。今日は魔法力測定の日なのか。

 うむ。憂鬱だ。


「あれぇ? なんだか二人、仲良さげだね。なにかあった?」


 やけに明るい女子の声が聞こえた。

 天真爛漫で可愛い笑顔。ちょっと垂れ目の癒し系。

 銀髪で小柄で巨乳という男子ウケ要素メガ盛りの美少女。


 そう。学年一人気のハルル・シャッテンだ。


「いえ、別になんにもないですよ」


 レナはクールな口調で答えて、慌てて自分の席に向かって行った。


「ふぅーん……」


 ハルルが怪訝な目でレナの背中を見つめている。

 俺も変にツッコまれないうちに自分の席に着席しよっと。


***


 昼休みになった。俺は食堂で昼飯を食べ、教室に戻った。

 午後一番の授業は魔力測定だ。

 いよいよその時間が近づいて来た。


 ──うーむ……気が進まない。


 ユーマ・ツアイトの記憶を辿ると、コイツは魔法の才能が皆無で、超落ちこぼれなのだ。

 だから今まで魔法力測定はサボってばかりいた。


 魔法学校では魔法力は一番メインの成績指標だ。だから測定の結果であがめられたりもバカにされたりもする。だからみんな必死になる。


 無様な結果をクラスメイトに見られるのは俺だって嫌だ。

 しかもあの男は魔法力だけはかなり強い。

 そして弱いやつをバカにしまくるからなぁ。


 ──と、あの男、つまりこのゲーム世界の主人公キャラ(たぶん)、ドンケル・ゾンネをチラリと見た。


 うん、得意げな顔で、周りの取り巻きに「魔力測定が楽しみだなぁ。お前らもせいぜいがんばれよ」なんて偉そうに言ってる。


 やっぱ気乗りしないなぁ。

 なんてウダウダしていたら、突然凛とした声が教室に響いた。


「さあ皆さん、講堂に移動しましょう! がんばりましょう!!」


 赤い髪の美しきクラス委員長だ。

 先生に頼まれたわけでもないのにレナはやっぱ真面目だな。


「ええ~っ、行きたくないな。サボろうかなぁ……」


 今つぶやいたのは、俺と同じく魔法が苦手な男子生徒。

 その男子にレナはキッと厳しい目を向けた。


「は? そんなこと許されるはずないでしょう」


 うっわ、やっぱり厳しいな。

 でも俺だってできれば講堂に行きたくない。


「ツアイト君。あなたは当然、行きますよね?」


 くるんと顔をこちらに向けて、俺にも厳しい目を向けられた。

 まるで心を読まれたようでドキリとした。


 昨日、レナの案外優しい姿を見た気がするのだが、あれは幻だったのか?


「あ、も、もちろん。行くよ」


 そんなに厳しい目で見つめられたらそう答えるしかない。

 俺が素直に頷くと、レナは満足そうに微笑んだ。


 ──仕方ない。

 ヘタレな魔力をバカにされる腹をくくろうか。


***


 マギア学園の講堂は、様々な式典や魔法の実技対戦などに使われる。

 天井が高くて重厚な建物だ。

 牧矢まきや高校で言うと体育館みたいなものか。


 中に入ると、広い空間が広がっていた。その中央に案山子かかしみたいな人型の目標物が何体か設置されている。


 生徒は50メートルくらい離れた位置から、それに向けて得意な魔法を放出してぶつける。

 人型には『魔法力を図る魔法』をかけてあって、生徒の魔法力を図ることができるという仕組みだ。


 これを毎月一回行なう。

 図った魔法力は成績表に付けられて、年間の成績にも影響してくる。


「じゃあ始めようか」


 キント先生が片手を挙げて指示を出した。


 測定の順番は公平を期するために、毎回抽選で順番が決まる。

 先生がマジックワンド、つまり魔法の杖をくるりと振って何か呪文を唱えた。

 各生徒の目の前に、順番を表す番号がぼわっと現われる。


 今のは学校生活ではお馴染みの『順番を決める魔法』だ。


「よしっ、俺が一番か。ふふふ」


 ドンケル・ゾンネがやけに嬉しそうな声を上げた。

 目立ちたがり屋にとっては申し分のないクジだな。


 前に歩み出て定位置についた。

 そして目標物に向かって魔法を放つ。


「よっしゃ、250ポイント! 見たかっ!」


 ゾンネが放った『業火ごうかの魔法』は見事に命中し、いきなりの高得点を叩き出した。


 魔法量の目安は、高等部1年の終わりで100ポイント、2年の終わりで200ポイント、3年の卒業時で300ポイント。これがだいたい平均的な成績だ。


 俺たちはまだ二年生になって2か月ほど。

 クラスの平均点はだいたい120から130ポイントくらい。


 それからするとゾンネの250ポイントがかなり優秀だとわかる。

 事実、俺たちの学年でトップの成績だ。

 それに比べて俺は……良い時でも50ポイントもいかない。


「よし、次はユーマ・ツアイト」


 いよいよ俺の番が巡ってきた。

 うーむ。やっぱ逃げ出したい。

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