12 晩餐会
数日後。
アルフレードが手がけた城が完成してから、ちょうど一年が経過した。
城の完成を祝して、人々はこの日を正式に『魔法国アルフレード』の建国記念日と制定していた。
街の皆はアルフレードに感謝を捧げ、楽しみ、愉しみ、娯しみ合う。
そしてこの日の夜、城ではささやかな晩餐会が開かれていた——。
「では、改めて皆に紹介しよう。僕と同じ世界から来た『転移者』、ファウスティにドメーニカだ」
壇上のアルフレードに招かれ、ファウスティとドメーニカは集まっている人々の前に立つ。
その姿を見て人々は、感嘆の息を漏らした。
青い上衣に白いズボン、赤い襟章を付けている精悍な顔つきをしている男性。
膝丈ほどの白いドレスに短い袖、襟元に大きなリボンをつけている、人形を抱えた可愛らしい少女。
この二人——『魔法国アルフレード』を守る英雄に、その場にいた全員から大きな拍手が沸き起こった。
ドメーニカは気恥ずかしそうにファウスティに漏らす。
「……ファウス……恥ずかしいよう……」
「堂々としろ、ドメーニカ。こういうのは慣れだ、慣れ」
小声でドメーニカに返したファウスティは、涼やかな笑顔を浮かべながら人々に手を上げて応える。
その横顔を見つめるドメーニカは、口元を緩ませた。
(……ファウス、やっぱりカッコいいなあ)
少し顔を赤らめた少女は前に向き直り、ドレスの裾をつまんでペコリとお辞儀をするのであった。
†
晩餐会は和やかに続いていた。
ファウスティは入れ替わり彼の元を訪れる女性たちを上手くあしらいながら、ドメーニカの様子を窺い見る。
(……まるでお姫様みたいだな、ドメーニカ)
普段から見慣れているせいもあり、あまり気にしていなかったが、元より少女はとても可愛らしい顔立ちをしていた。
だが、改めて思う。
この世界に来てから六年、ドメーニカの顔立ちはあの頃よりも整ってきているように感じられる。
(……歳は、とっているのか?)
いや、だとしたら、さすがに身長はもう少し伸びているはずだ。
整った顔立ち、成長しない身体。あれではまるで——。
「——ファウスティ様? どうなされたのかしら、ボーっとして」
「……はは、失礼。ドメーニカの様子が気になってね」
「ふふ。ドメーニカ様、かわいいですものね……あ、あの、ファウスティ様、私は子供がいても……」
「あーら、あなた。ファウスティ様を独り占めするなんて……ファウスティ様、随分お困りのご様子ですことよ?」
「あら、そうかしら? それはあなたが会話を邪魔したからではなくて?」
その顔に笑みを貼り付けながら、剣呑な雰囲気を漂わせる女性たち。
(……やはり俺は、ドメーニカと二人で静かに暮らすのが性に合っているみたいだな)
ファウスティは苦笑いを浮かべながら、女性たちの応対を続けるのだった。
†
一方で、ドメーニカの方にも、ひっきりなしに人が訪れていた。
「——ドメーニカ様のおかげで私たちは平穏に暮らせております。これからもよろしくお願いします」
次々と少女に礼を述べていく人たち。ドメーニカは当たり障りのない言葉を返し、寂しげに笑顔を浮かべる。
(……あーあ。私はファウスと一緒にいられれば、それでいいのになあ……)
街のみんなも大切だけれど、結局の所、ドメーニカはファウスティと一緒にいたいだけなのだ。結果、それが街のみんなを守っていることに繋がっているだけであって——。
そんなことをボンヤリと考えていた時だった。目の前で賛辞を語り合う人々の一人が、こう漏らした。
「本当、可愛いですね。まるで『お人形』さんみたい」
その言葉を聞いたドメーニカは、固まる。
歳も取らない、お腹も空かない、眠くならない——そうだ、今の私は、まるで人形だ。
ドメーニカは頭を下げる。
「……すいません。少し気分がすぐれなくて……ちょっと夜風に当たってきます」
「ドメーニカ様、大丈夫ですか?」
「あ、はい。気になさらずに。皆さん、楽しんでくださいね」
心配そうに少女を見つめる人たちを置いて、ドメーニカはその場を逃げるように去っていく。残された人々は、首を傾げながらも歓談を再開するのだった。
†
テラスに出たドメーニカは、持ってきた人形に話しかけた。
「……ねえ、サーバト。私、お人形さんになっちゃったのかな……?」
まるで人形みたいな私。ファウスティとの距離が、どんどんと遠ざかっていくような気がする。
「……ファウスはこんな私、いやかなあ……」
気がつくと、涙が一粒ぽたり、手すりを濡らした。
「……大人に……なりたいよう……」
ドメーニカはただ、ファウスティの隣にいたいだけなのに。
このままではいつか、ファウスティに置いていかれるような気がして——。
「やあ、ドメーニカ。何か悩み事かな?」
ふいに、背後から声をかけられた。ドメーニカは慌てて目を拭い、振り返る。
そこにいたのはアルフレードの右腕として活躍する人物。
魔族の青年、魔導師ヘクトールが、無表情で少女を見下ろすように立っていたのだった。
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